10話
それから。
斜面下から大声を出してみたり。下から這い上ろうとしたけど。
返ってくる声は無く。急な斜面はなかなか這い上がる事が難しかった。
鈴木くんと話し合った結果。時間はかかるかもしれないけど、助けが来るのを待とうという事になった。
これ以上騒いでモンスター呼び寄せても怖いし!何かあった時に備えて体力温存しないとね!
「雨?」
小雨がパラついてきた。
ちょうど近くにあった大木に2人で入れそうな窪みがあって。鈴木くんと身を寄り添い中に入った。
「鈴木くん。巻き込んで本当にごめんね」
「大丈夫だよ。むしろこんな状況で田中さん1人じゃなくて良かったよ」
鈴木くんが瓶底メガネを直しながら笑った。その優しさに、思わず涙腺が緩んだ。
他のクラスメイトと違って何の役にも立って無くて。
挙げ句の果てに、そのクラスメイトを巻き込んで斜面を転がり落ちて。
わたし…何やってるんだろ。
唇をギュッと噛んで嗚咽が出そうになるのを我慢する。ここでわたしが泣いたら鈴木くん困らせちゃうよ!
ふわり、と身体が暖かい物に包まれた。鈴木くんが羽織ってたカーディガンを私にかけてくれたからだ。
「雨で少し冷えて来たね。ちょっと汚れちゃったけど。寒さ避けにはなるから、ね」
そう言って鈴木くんは窪みの外に顔を向けた。多分、わたしが声を出さずに泣いてたから。
何も聞かない。何も言わない。それでも側に寄り添ってくれてる気遣いが嬉しくて、涙が止まらなかった。
◇◇◇
わたしの涙が落ち着いた頃。陽が沈んできた。
みんなで出発したのが早めの昼食後。多分元の世界で言う12時くらい。
肌で感じる気温は秋ぽい。だから今は16時すぎかな?て予想する。
そろそろ戦闘組も帰還する頃だろう。途中で見つけてくれたらいいけど。
願いも虚しく。だんだん辺りは暗くなって来た。元々、山の中で木々が多いからきっと山の外より暗くなるのが早い。カーディガンを借りてても、肌寒くなってきた。
ウウ~ッ
獣の声がした。
鈴木くんと視線を交わす。獣の声はそう遠くない気がした。
鈴木くんはポケットから何かを取り出した。小さな人型の像と指輪だった。
小さな像を窪みの入り口付近の土に差し込んで、指輪をわたしに渡してきた。
「試作品で作った魔除けの指輪。無いよりは少しはマシだと思うから」
小さく囁いてきた鈴木くんの言葉に、わたしは首を振って指輪を返した。
元はといえばわたしが落ちたせいだ。たった1つしかない装備品なら鈴木くんがつけるべき。そう思った。
指輪を返されて鈴木くんは戸惑った表情をしたけど、少し考えて何かを決意した様に指輪を嵌めた。
そして、人差し指を自らの口にあてる。静かに、の合図。
気づけばわたしは鈴木くんの腕に優しく抱きしめられていた。
鈴木くんの急な行動に心臓がバクバクする。意図がわからなくて上を見上げると、鈴木くんが照れた表情でそっぽを向いていた。
「…絶対守るから」
小さな呟きが聞こえた。
魔除けの指輪をつけて何かしら加護を受けた自分が君を守るから。
言葉にしなくても、鈴木くんの気持ちが伝わってきた。
鈴木くんの速い鼓動が伝わってくる。わたしと同じくらい緊張してるのがわかった。
非戦闘要員のわたし達は戦う術がない。きっと自分だって怖い筈なのに。
それでもわたしを守ろうとしてくれる。その気持ちが泣きそうな位に嬉しかった。
窪みの外はまた少し雨が降り出した。




