第88話 搭乗
「「「「「「了解‼」」」」」」
アキラの声に仲間たちが威勢よく応えた。
その1人、サラがクライムにお姫様だっこされていた状態から降りた。動かなくなっていた右脚が動いている。包帯の作用で回復したようだ。
まだ右脚のHPは少ないだろうが、メカに入ってしまえばパイロットの右脚だけ被弾してまた動かなくなるという心配はない──全員、戦闘に支障なし。
アキラたちは、それぞれ自機への搭乗動作を開始した。
「「緊急発進‼」」
クライムとサラが叫んだのは、魔法的な手段で呼びだすことができないタイプのメカ全般に共通する召喚用の合言葉。その音声入力を受けて、物理的な手段で自機が届けられる。
バラバラバラッ‼
頭上にローター音──曇天の下にヘリコプターの黒い影が2つ現れていた。その底部に1機ずつ吊られた全高5メートル弱の人型ロボット、〔SV・アヴァント〕 が降下してくる。
全身、くすんだ緑色なのがクライム機。
全身、黒に近い藍色なのがサラ機。
ズシャッ!
2機のアヴァントが両足で着地すると、ヘリからその両肩に伸びていたワイヤーが自動で外れる。召喚演出用のヘリが帰っていく中、2人は己が愛機に駆けよった。
2機とも地面に膝をつくと、その頭が乗っている胴体上面の装甲が背中側を支点にガパッとひらく。2人は自機を、その膝や腰についた取っ手を伝ってよじのぼり、ハッチ開口部からコクピット内に入って操縦席に収まった。
ガチャッ!
ハッチを閉じると2人の頭を内部が空洞になっている機体頭部が覆い、その内壁全体のドームモニターが点灯して、周囲の景色を映しだす。2人はシートベルトを締め、サンダル型ペダルに両足を固定し、両手で左右のスティックを握った──搭乗完了!
「「襲着‼」」
アルとオルの声に応じ、2人が手にした赤い宝石・礲碯から飴細工のような赤光が爆発的にあふれだし、それぞれの身を包んでいく。
赤光はさらに、2人の背中から伸びて枝分かれし、直立した翼のないドラゴンを形作る──それは 〔覇道大陸ドラゴナイト〕 における 〔龍〕 の姿。
カッ──!
その光が弾けて消えると、飴細工のようだったものは金属製の、2人の体を覆う甲冑と、その背から生えた全高5メートル強の龍細工からなる、ドラゴナイトの登場メカ 〔龍衣〕 となった。
エルフ侍なアルのものは銀色で刀を手にしており、ドワーフ戦士のオルのものは金色で戦斧を手にしている。その名は──
「白銀龍衣・アルジンツァン‼」
「黄金龍衣・アウルーラ‼」
そして父と母はメニューウィンドウを開いて操作し、アイテムストレージの亜空間から細長い片手用の湾刀を取りだした。
2人の着ている宇宙服のパイロットスーツには不似合いな中華風のその刀は、父のものが 〔神刀・黒虎丸〕、母のものが 〔神刀・白虎丸〕 ──2人はそれを、地面に突きたてた。
「黒虎丸ーッ‼」
「白虎丸ーッ‼」
バガァッ‼
2人の呼び声に応じて、それぞれの刀が一瞬で地面にもぐり──2人の足もとから前方に向かって地割れが生じる。
『『ガァッ‼』』
2つの亀裂がそれぞれ黒光と白光を噴きだした。2色の光は、ともに同じような巨大な虎の形へと収束する。
2頭の巨虎は後脚2本で立ちあがると、虎頭人身の3頭身ロボットに実体化した。それぞれの腰には召喚時の神刀をそのまま大きくしたデザインの巨刀を帯びている。
それらはロボットアニメ 〔機神英雄伝アタル〕 の中盤で、主人公アタルの仲間となる虎の獣人の少年少女2人組が乗ったメカ。
黒いほうが少年──シェン・ウーの 〔機神・黒虎丸〕。
白いほうが少女───マオ・マオの 〔機神・白虎丸〕。
『『ガォッ!』』
2体の虎頭が開いた大口の前に漆黒の球体──機内亜空間に繋がる次元の門が現れる。すると父は黒光に包まれて黒虎丸の、母は白光に包まれて白虎丸の口の門へと吸いこまれた。
2人は自機の機内亜空間に転移して、そこで玉座状の操縦席に着座、左右のスティックを握って左右のペダルに足をかけ──搭乗完了!
……と。
もし仮にこれがアニメなら、実際は同時に起こっていることでも順番に描かれるところだが、これは現実なのでアキラに仲間たちの搭乗シーンを眺めている暇はなかった。
アキラもアキラで己のメカを召喚すべく、背中の鞘から愛剣を抜いた。それは神剣・翠王丸が銀雪龍の角を素材に加えて鍛えなおされ、翼状の鍔を持つ形状へと変わった姿。
そうして生まれ変わったことで、神剣はその名を変えていた。それはつまり、神剣が変化した姿である機神の名も変わっているということ。両者に共通するその名は──
「翠天丸ーッ‼」
アキラが神剣を掲げて叫ぶや辺りが暗くなり、神剣は青光に変じて飛びあがり、空を覆った黒雲に突入して風穴をあけた。
その穴からは陽光が射しこみ、また青光でできた巨大な翡翠が現れる。その巨鳥は翠王丸の真の姿と変わらないが──
『ピィィィィッ‼』
翼を羽ばたかせ急降下してきた巨大カワセミは、これまではアキラの前に降りたってから機神・翠王丸の姿に変身したが──今回は、降下中に早くも変身した。
青と白のカラーリング。
頭頂高475センチメートル。3頭身のずんぐりした体型、頭部はカワセミの頭を象った兜をかぶった武人のよう。大きく横に張りだした肩には翼の意匠が描かれ、足には鳥の爪が生えている。
それらの特徴は以前の翠王丸と一致しているが、細かいデザインがよりシャープな印象を与えるものに変わっていた。
そして、なによりの違いは。
その背中に以前はなかった、まさにカワセミのもののような機械仕掛けの2枚の翼が生えていること。
そのため以前は爪状固定具で背中に斜めに固定されていた抜き身の剣は、両翼の中間で縦に固定されている。その姿も神剣・翠天丸の機神サイズバージョンへと変わっている。
これぞ 〔機神・翠天丸〕。
主人公アタルが初期から乗っていた機神・翠王丸が撃破され、折れた神剣の姿から機神に変身できなくなっていたのを仲間たちの協力で倒した銀雪龍から得た角を用いて鍛冶師に鍛えなおしてもらい、神剣としても機神としても強力に生まれ変わったという乗りかえイベントを経たあとの、その機神のほうの姿──つまり。
機神英雄伝アタルの、後期主役機。




