第73話 伏兵
乗っていた機神・翠王丸を撃破されながらも、自身は無傷でその機内亜空間から通常空間に放りだされただけで済んだアキラだが、生きた心地はしなかった。
周りでは身長120センチメートルの自分の4倍以上ある、全高5メートルもの巨大ロボット同士が銃撃戦をしているのだから。
アキラは急ぎ、高台の上にいる敵機らから身を隠すため石垣に張りついた。それから、その敵機らを蹴散らすクライム機を横目に見ながら、自分は石垣を登りはじめた。
そして高台の上に到着。
そこで、もはやこの場に残った両陣営のメカの最後の1機ずつとなったクライム機とサラリィ機の、SV・アヴァント同士の肉弾戦を見ることになった。
バガァン‼
バキィッ‼
ともに5メートルの巨体同士の腕と腕、脚と脚がぶつかりあい、激しい音を響かせる。その攻撃の迫力もすごいものだが、アキラは2人とも防御が上手いことに気づいた。
相手の攻撃にしっかりと対応し、受けたり払ったりしてダメージを最小限に抑えている、ように見える。それは動体視力や運動神経が優れているだけでは不可能な 〔技術〕 ではないだろうか。
アキラは格闘技に詳しくないので自信は持てないが、2人とも生身で扱う正規の格闘技を習得しているのではと思えた。
きっと……
だから……
あんな……
ダンスを踊るような、リズミカルで芸術的な殴りあいになるんだろう。格闘技のファンでなくてもアキラは見とれて……そして、見ている他にやることがなかった。
(もう、ボクにできることなんて……)
できるならクライムを援護したいが、乗機を失った今では。120センチの生身の人間アバターで、5メートルの機械の巨人に向かっていくのは。
いや、無茶でもなんでも武器さえあれば、敵の注意を引くくらいできるかもしれないが、今はその武器さえない。
普段アキラが生身で使う武器の 〔神剣・翠王丸〕 は機神・翠王丸に姿を変えている時にHPを全損して破壊され 〔折れた神剣・翠王丸〕 に変わって──使用不能になっている。
完全に、無手。
この身1つで向かっていっても、相手に気づかれもせずに蹴り殺されるのがオチだ。それだけならまだしも、下手すればクライムの気を散らせて逆に邪魔になりかねない。
ズガァッ‼
ドガァッ‼
(…………)
その考えは間違っていないはずだが、それさえ自分が戦わない言いわけに思えて、アキラは情けなさに歯噛みした。
自分が考えた、自分とアントンの2人で囮になってサラリィに隙を作ってクライムに攻撃してもらうという作戦。それに殉じてアントンは死んだのに自分はまだ生きている。
そんなつもりはなかった。
自分も死ぬつもりだった。
撃破されてもパイロットは確実に無事に脱出できる機神の機能は、実際そうなるまで忘れていた。
だが理由はどうあれ、アントンだけを死なせた自分がこのままなにもせずに終わるのでは、あまりに申しわけない。生きているなら、死んだアントンにはできない 〔なにか〕 をするべきだ……
ドガァッ‼
(あっ……⁉)
サラリィ機の拳が、クライム機の胸にクリーンヒットした。クライム機のHPにはまだ余裕があるが……風向きが変わった。
クライム機が押されだしていると、アキラの目にも分かった。両者の機体はどちらもSV・アヴァント、性能は同じ、ならクライムよりサラリィのほうがわずかに格闘技術が上だったのか。
(ッ‼)
アキラは体の芯が熱くなった。グツグツと湧いてくる衝動。もうジッとなんてしていられない。なにも考えずに走りだし──結果、それを見つけた。
広場に落ちていた短機関銃。
クライムが撃破した敵機が遺していったものだ。それを見た瞬間、脳裏に閃光が走り──アキラはそれに飛びついて、両手でかかえた。
(重い‼ けど……ッ!)
そもそも短機関銃は比較的小型な銃だ。それが全高5メートルの機体に合わせて人間用のものよりスケールアップされているが、大した倍率ではない。
だからそれはアキラにとっても、まったく持ちあげられない、動かせない──というほどの代物ではなかった。もちろん、これを普通に使用することは不可能──
だが。
アキラは地べたに座りこみ、銃の後部を自分の腹に押しあて、銃身を両脚で挟んで固定した。これで射撃の反動を受けとめられる──ことを期待して。
左手で銃身を掴み、右手は巨人用の大きなトリガーにかける。そして足で地面を押して尻で地面をこすりながら体を旋回させ、かかえこんだ銃をサラリィ機へと向ける……
いや。
クライム機と殴りあいながら細かく立ち位置を変えているサラリィ機は、すぐにアキラの正面──かかえた銃を撃った際に予想される弾道上から外れてしまった。
こちらは銃を動かすのに時間がかかる。あのチョコマカ動く敵機を追って照準するのは無理だ。こちらの銃は動かさず、向こうから弾道上に来てくれるのを待つしかない。
クライムに自分の狙いを通信で伝えて連携してもらいたいが、彼は今サラリィの相手に専念している。そこに声をかけて集中を乱せば致命的な隙になりかねない。
「ハッ、ッ……」
アキラは息が荒くなり、喉が渇いた。
サラリィはこちらの動きに気づいているだろうか。少なくとも、こちらの名前アイコンは見えるはずだから、翠王丸のパイロットが生きているとは気づかれている可能性が高い。
もしや短機関銃を拾って狙っていることも、もうバレているのか? だから、いつまでもサラリィ機はこちらの弾道上に戻ってこないのか?
答えの出ない考えが頭をグルグル駆けめぐる。アキラが緊張で目まいがしてきた時──クライム機がサラリィ機に抱きついた。これまでの殴る蹴るとは明らかに異質。
『カワセミくん!』
「!」
『今の内に撃て!』
クライムの行動はサラリィ機を捕まえておいて、こちらに撃たせるための援護だった。サラリィに気づかれていないかとヒヤヒヤしていたが、まさかクライムのほうで気づいてくれるとは!
「今、照準します!」
クライム機に抱きつかれているサラリィ機に狙いをつけるため、アキラはまた腹にかかえた短機関銃ごと地べたで旋回……
サラリィ機がもがいている。クライム機の腕から脱出される前に照準を合わせ発砲しないと……もう少し……あと少し……今!
「行っけぇ‼」




