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ソード&マシーナリー  作者: 天城リョウ
第6節 東奔&西走
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第67話 庇護

 目的地のビルが近づいてきた。


 アキラがすいおうまる機内亜空間コクピットから見上げれば、クライム機のSV・アヴァントが屋上にいることが分かる。機体こそ建物に隠れて見えないが、その頭上の名前アイコンは建物を透過して見えている。



「クライムさん、つきました!」


『カワセミくん、気をつけろ!』


「えっ──うわッ⁉」



 通信でのクライムからの警告の直後、前方でビルの陰からぬっと巨大な人影が現れた。アキラはその方角に敵機を示す赤い名前アイコンがあるのは気づいていたが距離は分かっていなかった。


 アイコンに記された機種名は〔フール〕──こうせんフーリガンに登場するメカ、MW(モバイルウォーリア)の一種。パイロット名は併記されておらず無名のNPCノンプレイヤーキャラクターと分かる。


 フールは地球連合軍が主役機 〔フーリガン〕 の廉価版として量産した。翼があり大気圏内でも飛行可能なフーリガンと違い、翼がなく飛行不可。全高は20メートル。



(ひぇぇ‼)



 原作ではやられ役だったフールだが、たった全高5メートルのすいおうまるに乗っているアキラからすれば大きさだけで怖い。


 そのフールはすいおうまるの前方に立ち、右手に銃を構えている──その銃口が、火を吹いた。



 ドキューン‼



 放たれたのは野太い閃光──銃はビームライフルだった。フールが腕を真っすぐ突きだし肩の高さで撃ったビームは、すいおうまるの遥か頭上を通過した。


 アキラがさっと背後を見ると、そのビームの向かった先にもう1機のMWが立っていた。名前アイコンが白い。味方だ。こちらもパイロットは無名NPC。


 機種名 〔ラフ〕──襟巻状の装甲が特徴的な、イカロス王国の量産機。全高はやはり20メートル。その機体は左手の盾でフールのビームを防いだようだ。そして右手の銃を突きだして──



「ちょっと⁉」


 ガガガッ‼



 今度はビームでなく実弾。


 ラフの武器は短機関銃サブマシンガンか。


 クライム機のアヴァントも使っている武器だが、5メートルのアヴァント用のと20メートルのラフ用のとでは大きさも威力も比べものにならない。


 その連射された弾丸がすいおうまるの頭上を越えた。フールもラフも地べたの小型機など気に留めていない。フールに目をつけられるよりマシだが、このままでは──



 ドガァッ‼



 巻きこまれる、とアキラが思った瞬間に頭上で着弾音がした。ラフの撃った弾がフールではなく、フールが遮蔽物にしたビルに当たったのだ。


 被弾箇所が粉砕され、破片がこちらに落ちてくる!



(マズい‼)



 このゲームでは味方の攻撃なら当たってもダメージを受けないが、味方の攻撃で生じた破片に当たってもダメージを受けないかどうかは、アキラは正解を知らない。


 当たってみて確かめる気にはならない。


 だから回避しようにも、破片の落下地点が予想できない。どちらに動けば安全か、それとも動かないのが正解か、考えた刹那に破片はすぐ頭上まで迫っている!



 ガコーン‼



 破片が吹っとばされた。すいおうまるに覆いかぶさってきた、今は全高20メートルの人型形態を取っているVC(ヴァリアブルクラフト)アドニスの頭突きによって。そのパイロットであるエメロードから通信が入った。



『アキラ! 大丈夫ー⁉』


「だいじょ──危ない‼」



 すぐ近くにまだ敵機が、フールがいる。その右手のビームライフルが地面にうずくまるアドニスへと向けられる──が、そこから新たにビームが吐かれることはなかった。


 フールの脳天から股間まで、赤い線が走っていた。機体は直後に爆散して消滅、その爆炎の向こうから右手に光の剣(ビームサーベル)を携えた、フールと同サイズの人型ロボットが現れる。


 カイルの機体、フーリガンだった。


 妻子のピンチを救いに颯爽と。



「お母さん、もう大丈夫だよ。ほら、お父さんが!」


『──ふぅ! 助かったわ。ありがとう、あなた!』


「ありがとう!」


『間に合った~! どういたしまして!』


「お母さんも、ありがとうね」


『ふふふ、どういたしまして』



 両親と無事を喜びあいながら、アキラはフールを気の毒に思った。自らの原型機であるフーリガンに討たれるとは……だが、このゲームはそういうものだ。


 傭兵であるPCはどの陣営の機体も入手できる。今回のように地球連合軍の機体に乗りながらその敵のイカロス王国軍の依頼を受けて連合と戦うことも、またその逆も珍しくないはず。



『カワセミくん!』


「クライムさん?」



 そこへ、ビルの屋上にいたクライム機アヴァントが降りてきた。片腕から伸ばしたワイヤーの先端のフックをビルの側面に引っかけて吊りさがりながら。


 そして着地。


 アキラのすいおうまる、エメロード機アドニス、カイル機フーリガン、クライム機アヴァント、これで一緒にこの任務ミッションを受けているPCプレイヤーキャラクター4人と、その搭乗機が一堂に会した。


 すると、クライム機が頭を下げる。



『カワセミくん、役に立たず申しわけない。カイルさん、エメロードさん、すみません。彼を危険にさらしてしまいました』


「ちょ、クライムさん──」



 MWの何倍も高いビルの上にいたクライム機にできることはなかっただろう。仮にフールを攻撃したとして、5メートル級メカの短機関銃が20メートル級メカの装甲に通じたとは思えない。



「気にしすぎです!」


『そうですよ』


『気楽にいきましょ♪』



 父も母も同意見で、アキラはほっとした。



「クライムさん、敵がいるの警告してくれたじゃないですか。それで充分ですし、あとはボーッとしてたボクが悪いんです。もうご自分を責めないでください」


『……なんと言えばいいのか。分かった、ありがとう!』


『それじゃあ、また別行動で。ぼくたちは大型機を仕留めて回りますので、クライムさんはアキラと小型機をお願いします』


『了解であります!』


『それでは!』『またあとで♪』


「いってらっしゃーい!」



 ドゥッ‼



 背中と足裏の推進器スラスターを噴かせながらカイル機とエメロード機が飛びたっていく。その2機との通信が切れ、クライム機とだけ通信が繋がっている状態になった。



「ボクたちは、どこに行きましょう」


『向こうに行こう。銃声がしている』


「はい!」



 その音のするほうへと、アキラのすいおうまるとクライムのアヴァントは走った。そして……大きな駅舎に到着した。その壁面の看板に書かれた文字は──



【甲府駅】



 その駅前の広場で、自分たちの乗機と同じ5メートル級のメカたちが、敵味方に分かれて銃撃戦をくりひろげていた。

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