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ソード&マシーナリー  作者: 天城リョウ
第4節 アップ&ダウン
35/172

第35話 変装

【アキラ】

〖今日ボクの友達を1人、ご一緒させていただいてもよろしいですか?〗


【スカーレット】

〖初日にいた人?〗


【アキラ】

〖うん〗


【スカーレット】

〖構わないケド〗


【アルフレート】

〖アキラ殿のご友人でござるか! その時点で信用に足るというもの。拙者はなんら異存ござらぬ‼〗


【オルジフ】

〖いいぜ、連れてきな〗


【アキラ】

〖よかった。じゃあ連れてきますね!〗



 クロスロード・メカヴァースにログイン後、グループDMで昨日の面子にそう話しておいてから、アキラはリアルでの親友・びき あみひこのアバターを連れて待ちあわせ場所に向かった。


 始まりの町の傭兵ギルド1階の酒場。すぐ店内に、先に到着して丸テーブルを囲んでいた他3人の姿を見つける。



●赤髪の天女剣士……レティ(スカーレット)

●銀髪のエルフ侍……アル(アルフレート)

●金髪のドワーフ……オル(オルジフ)



 そこにアキラは自身のアバター、緑髪で日本神話の男神風剣士の姿で近づき──声をかける前に向こうが気づいて手を挙げてくるが、その動きが凍った。



「お待たせしました」


「アキラ……隣の、あいつ?」


「そうだよレティ。ごめんね、驚かせて」


「ううん、いいのよ。事情は察したから」



 3人が怪しむのも無理はない。アキラが連れてきたアバターは全身を灰色のマントでおおい、フードを目深にかぶって顔も隠している──だけならまだしも。


 頭上に表示されるべき名前アイコンが黒く塗りつぶされている。その前にあるアバターの種類を表すマークには 【PC】 とあるのでPCプレイヤーキャラクターであることだけは分かるが、怪しすぎる。


 網彦は3人に頭を下げた。



「こんな姿でごめんなさい。わたしは──」


「お待ちくだされ」



 アルが手のひらを向けて網彦を制した。



「みなまで言わずともよろしいでござる。こう人の多い所では話しづらかろう。まずはパーティーを組んで出立して、船上でゆるりと話すといたしませぬか」


「だな」


「そうね」


「! ありがとうございます」



 網彦は再度、頭を下げた。彼──今は女声を出しているが──が身につけているマントの意味を3人とも知っていたのか推察したのか、とにかく話が早くてアキラはほっとした。


 網彦のマントは装備しているあいだアバター本来の姿も名前も他のプレイヤーからは分からなくなるというもの。有名PCが正体──といってもアバターだが──を隠したい時にうってつけ。


 このアイテムは知らない者には非常に怪しく映るが、知っている者には 〔自分はお忍びで行動中だからその意図をくんでくれ〕 と配慮をうながせる。


 そして5人はパーティーを結成。


 ギルドの受付に行き、パーティー単位で乗船券チケットを購入、裏門から店を出て──目の前に大河の岸に築かれた、この町の河港が広がった。


 昨日はそこに 〔どうたいりくドラゴナイト〕 に登場する熱飛行船ガンダールヴル号が停泊していたが、今は違う船が繋がれている。


 大航海時代の木造帆船に似ているのはガンダールヴル号と同じ。ただし、あちらは帆柱マストがあるべき所がガス袋に変わっていたのに対し、こちらはちゃんと前・中・後と3本の帆柱がある。


 だがセイルはない。


 帆を張るための横棒が、まるで竹トンボのような2枚羽のプロペラに変わっている。あれを回してヘリコプターのように空を飛ぶ、この船は──



「「せいタンバリンのくうてい!」」


「アキラとレティさん、相変わらずよくそんな長い台詞がきれいに一致するわね。なんなの? 実は双子とか?」



 網彦がそんなことを言った。


 違うと分かっているくせに。


 網彦はアキラがひとりっ子だと知っているのだから。ただ、それを知らないふうを装ってそう言ったのかもしれない。自分たちがリアルでも友人であることは個人情報として伏せているから。



「それは答えられないなー」


「バカなこと言ってないで早く乗るわよ」


「は~い」


「では、いざ乗船とまいろう!」


「オレは脚が短かくて時間かかっから最後だ。先に乗ってくれ」



 アルが先んじて乗船。


 オルにうながされ、次にアキラ、網彦、レティの順で桟橋から飛空艇の上甲板に渡された板を登って乗船。最後にオルが小走りに乗ってくると、板が下ろされた。


 甲板に見られるNPCの乗組員は、みな背丈は高めで耳が長い妖精種族、アルと同じエルフだった。ただしアルが 〔覇道大陸ドラゴナイトの世界のエルフ〕 という設定なのに対し、彼らは 〔聖騎士タンバリンの世界のエルフ〕 のはず。



「船長殿、船を出してくだされ」


「承知いたしました」



 アルが後ろの船尾楼の上で操舵輪を握っているエルフの船長を見上げて出港をうながすと、船長は優雅に一礼した。


 ガンダールヴル号の船長もエルフ(ただしドラゴナイトの)だったが、あちらは船乗りの豪快なイメージに忠実だったのに対し、こちらはエルフの高貴なイメージに忠実らしい。



「機関、始動」



 船長が乗組員たちにと厳かに命じると、ヒュヒュヒュヒュヒュッ──アキラたちの頭上で帆柱に生えたプロペラたちが一斉に回転しだし、一瞬グラッと甲板が揺れて船体が浮上を始めた。



「「おお……!」」



 アキラはレティともども、その様子に見入った。熱飛行船はガス袋の浮力でフワッと上昇する感じだったが、こちらはプロペラのパワーで強引に持ちあげる力強さ。船長の印象とは真逆だ。



ばつびょう。シーラカンス号、発進せよ」



 いかりが巻きあげられ、船体が大河から離水して急速に浮上しつつ前進を始める。眼下の始まりの町の景色が遠ざかっていく。昨日も見た光景だが、アキラは2度目でもワクワクした。


 隣で景色を見ていたレティがつぶやく。



「この甲板、現実ならプロペラの風が吹きあれてるわね」


「だよね。魔法で風よけの結界を張ってるんだろうけど」


「これもファンタジーならではのデザインよね」


「さて!」



 網彦が声を上げ、アキラとレティもそちらに向きなおった。アルとオルも注目する中、網彦はマントの胸もとを掴んだ。



「それでは正体を明かします!」


「いよっ!」「待ってました!」


「「……」」



 アルもオルもノリがいい。正体を知っているアキラとレティは生暖かく見守った。網彦が掴んだマントをばっと剥がして放りなげ──


 その下から現われたのは!


 金髪! ウサ耳!


 バニースーツの!



「じゃじゃーん! 超人気! バニーガールXtuber(クロスチューバー)の、セイネちゃんでした~っ‼」

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