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ソード&マシーナリー  作者: 天城リョウ
第4節 アップ&ダウン
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第33話 勉強

 祝勝会を終えたパーティーは、そこで解散した。


 アル(アルフレート)オル(オルジフ)は夜のフィールドを冒険するとのことだったが、アキラとレティ(スカーレット)はログアウトした。


 アキラは夜もクロスロードを遊ぶのは土日祝日のみと決めている。今夜は祝勝会のために例外的にログインしたが、それ以上の長居はしない。


 ゲームハードの電源を切り、VRゴーグルを外し、ペダルから足を抜いてウィズリム用の椅子から立って、勉強机に向かう。



 パン!



 頬を叩いて気合いを入れ、教科書とノートを出し、日課の自習を始める。小学校での今日の授業の復習と、出された宿題と、明日の授業の予習……就寝時間までには済ませたい。


 アキラは勉強が嫌いではなかった。


 むしろ好きなほうだと思っている。


 たとえロボットに関係ないことでも新たな知識を学んで世界が広がる感覚は楽しい。なので両親がうるさく言うタイプではないにもかかわらず、自発的に机に向かう。


 その甲斐あって前学期の通知表は全ての評価項目につけられた 〔上・中・下〕 の3段階評価を平均すると 〔下の中〕 だった。



 会心の好成績。



 なにせ自習の習慣がなかったころは余裕で 〔下の下〕 だった。さすがに危機感を覚えて自習するようになって、ようやくここまで成績を上げた。


 それでも平均よりはずっと下だが。


 これ以上、勉強時間は増やせない。


 クロスロードをやる時間が削れる。


 クロスロードを始める前からそうだった。自分にとってなにより大切なのはまきと誓った 〔ロボットのパイロットになる〕 という夢。そのための努力を疎かにしない範囲で勉強してきた。


 つまり。


 予習・復習・宿題はやる。だが限られた時間内では理解できていないことも多く、しかしアキラはそこでさらなる時間をかけて 〔理解できるまでやろう〕 とはしない。


 そもそも勉強を苦に感じないのも、苦しむほど 〔がんばって〕 はいないからだ。分からないものを分からないまま放置することを恐れない。だから成績が伸びないのだと分かっていても。


 自分が割りふれるリソースいっぱい勉強してこの程度なら、ここが自分の限界なのだとアキラは見切りをつけていた。が──



⦅なにがロボットのパイロットだ!⦆


⦅そんな絵空事を言いわけにして⦆


⦅この、どうしようもないクズめ!⦆



 こちらの事情を話しても理解してくれず、自分──あま あきらという生徒を 〔遊んでばかりで勉強しない劣等生〕 と断じている小学校の教師たちからの罵倒は胸に刺さっている。


 さすがにIQ300の蒔絵とは比べてもしょうがないとしても、普通の小学4年生の中でも出来は悪いほう。それを気にしないほど超然としたメンタルは持っていない。


 ちなみに蒔絵の小学校での成績はオール 〔上〕。それは友人のびき あみひこもだが、そんな優等生らとアキラが親しくすることを教師らは 〔バカが伝染うつる〕 と嫌がっている。



(でも)


⦅アキラ、本当に頭いいのね⦆

⦅さすがアキラね⦆

⦅アタルに詳しくて頭いい‼⦆



 今日の冒険でレティにかけられた言葉を思いだし、頬が緩む。頭がいい、縁遠いと思っていたその言葉をかけられ、こんなに嬉しくなるとは。


 レティがほめたのはゲームでの戦術眼・作戦立案能力で、それは学校のテストに活かせるものではない。だが、それも賢さには違いないとレティのおかげで気づけた。


 自分のその力を知らなかったわけではない。これまで夢のため数多のロボットゲームをやりこむ中で磨いたものだ。ただ、それを賢さとは認識していなかった。今日、初めて人からそうだと指摘されて、ようやく自覚できた。



(よし!)



 上機嫌で調子がいいのか、自習がいつもより早く終わった気がした。やはり全てを理解できたわけではないが、自分の基準ではこれで充分。


 アキラは歯を磨いてからベッドにもぐり、携帯電話スマートフォンをつけてSNS 〔ブルーバード〕 のページを開いた。フォロー対象(フォロイー)たちのさえずり(ツイート)──投稿の中、蒔絵のものが目につく。


 読めない。


 それが英語なのはアキラも小学校で英語を習っているので分かったが、簡単なあいさつの部分以外はまるで理解できなかった。


 蒔絵のツイートへの返信欄を見ると、複数のアカウントと英語で会話している。試しに自動翻訳にかけたが、日本語になっても意味不明だった。


 内容が難しすぎる。


 今月からアメリカのマサチューセッツ工科大学に留学している蒔絵は、そこで知りあった学生や教師と専門的な話──きっとロボット開発について──をしているようだ。


 相変わらず 〔アキラの乗るロボットを作る〕 という彼女の夢へ向かって力強く爆走している姿を頼もしく感じるとともに、やはり遠く感じて寂しさを覚える。


 アキラは蒔絵とのDMを開いた。



【翠】

〖大学には慣れた?〗


【蒔絵】

〖まー、ぼちぼちね〗


【翠】

〖嫌なこととかない?〗


【蒔絵】

〖それは今んとこ全然。むしろ快適〗


【翠】

〖よかった〗


【蒔絵】

〖さすがは世界トップレベル。学生も教師も、周りじゅうみーんな、ワタシほどではなくてもそこそこ賢いもの。日本にいたころより断然イライラする頻度が減ったわ〗


【翠】

〖ごめんなさい〗



 彼女、駒切こまきり まきは自分より頭の悪い人間──つまり大抵の人間──と話すと理解度が違いすぎてストレスが溜まるため、誰とも話したがらない。


 それでも幼馴染の自分とだけは我慢して話してくれてきた。つまり自分こそが誰よりも、これまで彼女をイライラさせてきた。



【蒔絵】

〖アンタはいいの。それより、そっちは?〗


【翠】

〖クロスロードで、リアルで古流剣術やってるプレイヤーに会ったよ。アバター操作も達人! て感じで超すごかった。仲良くなって、いろいろ教えてもらえることになったよ〗


【蒔絵】

〖進展ね。よかったじゃない。それで機嫌いいんだ〗


【翠】

〖機嫌いいの文面だけで分かるの?〗


【蒔絵】

〖ワタシは天才よ?〗


【翠】

〖そうでした〗



 機嫌がいい理由はそれだけでなく、レティに 〔頭いい〕 と言われたこともあるのだが、そこは黙っておく。前に 〔いちいち浮気報告してくんな〕 と怒られたし。いや、浮気はしていないが。



【蒔絵】

〖そろそろ登校だから、またね。こっちはまだ朝だけど、そっちはもう遅いでしょ。夜ふかししないで早く寝なさいよ〗


【翠】

〖うん、寝る。いてらっしゃい〗


【蒔絵】

〖いってきます。おやすみ〗

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