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ソード&マシーナリー  作者: 天城リョウ
第12節 八百長&ガチンコ
155/172

第155話 中堅②

 バッ‼



 オルジフは橋の上から飛びだした。その背中から広がっている龍細工の、龍の翼を広げて空を翔け、障害物の密度の低い空間に留まっているクライム機へと向かっていく。



『どうもすみません』



 クライムがオルジフにかけたその言葉の意味は、言われたオルジフには正しく伝わったが、観戦している者たちにはほとんど理解されなかった。


 自らに有利な場所に留まり 〔待ち〕 の姿勢を取ったオルジフが、それは消極的だとオトヒメと観客に非難されたため、むざむざ優位性を捨ててその場を離れて攻撃に移った。


 クライムはそのことを謝ったのではない。


 実はクライムも同じだったのだ。敵が自分には不利になる場所にいるからと手を出せずにいた。そのことも消極的だと非難されてもおかしくなかった。


 なのに外野からはオルジフの消極性だけが指摘された結果、オルジフが割を食う形となった。そのことを謝ったのだ。それに対するオルジフの返答は簡潔だった。



「いいって、ことよ!」



 その声に乗せて、オルジフは腕を振るった。その動きと同期している龍細工も同じ動きをして、その両手に握った長柄の斧を、間近に迫ったクライム機へと叩きつける!



『せいッ!』


 カンッ‼



 オルジフの黄金ゴールド龍衣スーツ・アウルーラの龍細工が振るった斧を、クライムのSV(スレイヴィークル)・アヴァントの振るった武器が弾いて逸らした。その武器はクライム機の全高と同じほどの長さの、ただの金属製の棒。


 ちょうどアウルーラの斧の柄と同じくらいの棒だった。当然、斧頭がない分だけ斧より攻撃力は落ちるが、末端に重い斧頭があって重心がそちらに偏っている斧より取りまわしには優れる。


 その利点を活かし、クライムは相手の攻撃を防いだ。



「やるじゃねぇか!」


『恐縮であります!』



 自力飛行による突撃からの攻撃が不首尾に終わったオルジフは、そのままクライム機の横を通りすぎて離れていった。


 対して飛行円盤フライングディスクに乗っての他力飛行で停止飛行ホバリングしているクライム機は、攻撃を受けた時の衝撃でわずかに流されただけで、元の位置から大きく動いてはいない。


 とはいえ、いつまでもそのままではない。


 クライム機が停止飛行ホバリングしていたのは、橋の上にいたオルジフを攻めあぐねていたからだ。オルジフがそこを離れ広い空間に来てくれた以上、もう停まっている理由はない。


 受身でいては観客の不興を買う。


 その中の空中格闘研究会員と空中騎馬戦同好会員を和解させるという、セイネ発案の秘密の 〔計画〕 の実行メンバーなのは、クライムもオルジフと同様だ。


 だから自身も積極的に攻めるためオルジフのほうへ行こうと、クライムは飛行円盤フライングディスクを旋回させた。まずは後方へ飛んでいったオルジフを正面に捉えなければ──



『!』



 クライム機が振りかえった時、再び突撃してきたオルジフが、もう目前に迫っていた。その背の龍細工の構えた斧が、うなりを上げて襲いくる。



「オラァッ‼」


『くっ──!』


 カァン‼



 クライム機はまた棒で相手の斧を弾いて防いだ。だが今度は先ほどより余裕がなく、際どかった。衝撃で機体が流された距離も、より大きい。


 オルジフはまたクライム機の後方へと通りすぎていった。クライム機が急いで旋回、オルジフのほうを向くと、もう戻ってきたオルジフが3度目の斧を振るう‼



 カァン‼



 クライム機はまたまた防いだ。だが体勢は2度目よりさらに崩れてしまい、それをなんとか立てなおしたところに、オルジフの4度目の攻撃が襲いかかった。





『おーっと! オルジフ選手の連続攻撃! クライム選手、防戦一方! じゃが、これはどういうことじゃ? 第1試合では攻防の度に選手同士が離れて、再び接近して次の攻防が行われるまで間があったのに、今回はなんか間隔が短いぞ⁉』


「へっ、素人意見だな」



 実況のオトヒメの疑問を、観客席スタンドで観戦している男性アバターのPCプレイヤーキャラクターの1人が嘲笑した。事実オトヒメはこのゲームクロスロード・メカヴァースの初心者、それゆえの無知。そんな彼女へ、男は解説を始めた。



「今回は足場がある、そんだけだ」



 第1試合と第2試合の戦場にはなく、今回の第3試合の戦場にはあるもの。それが縦横に張りめぐらされた梯子や橋、選手がふれられる障害物。


 観客席スタンドから見える立体モニターには、オルジフがクライム機とすれちがってからは前方にある障害物に向かっていき、体を反転させてその側面に着地、さらにその足場を蹴って再びクライム機へと向かっていく姿が映しだされている。


 それが何度もくりかえされる。



「空中でスラスター推力だけで、それまで自身にかかっていた慣性を打ち消して反対方向に加速するUターンは大変だ。だから第1試合では時間がかかった。


 だが足場がありゃ、そこに着地すれば即とまれる。再加速も、足で蹴る反動をスラスター推力に加算できる。段違いだぜ。


 これは空中格闘戦スタイルで闘ってるオルジフ側しか使えねぇ戦法だ。空中騎馬戦スタイルのクライム機は、足が空中騎乗物に張りついてっから足場があっても蹴ったりできねぇ。消極性を指摘されて有利な場所から離れたオルジフだが、このステージの自らへの優位性を利用すんのはやめてねぇってワケだな」


『クライム選手、ピーンチ‼』



 男の声は実況席のオトヒメに届いていなかった。


 開会時に観客席スタンドから野次を受けたことで、オトヒメが観客席スタンドからの音声をミュートしていたからだ。


 男の解説は周囲の観客にしか聞かれておらず、その観客たちもこのゲームのPCで初心者でもないので男の話は言われるまでもないこと。彼らはしたり顔の男に呆れ、無視した。





「粘るじゃねぇか!」


『ハァッ、ハァッ!』




 オルジフが周囲の足場を利用して矢継ぎ早に突撃をくりかえし、クライムはひたすらそれを防ぐのみ。一見、単調に見えるその攻防にも、少しずつ変化があった。


 突撃を防いでもすぐ反対方向から突撃してくるオルジフへと向きなおるだけで精一杯で、自発的な移動はしていないクライム機だが、その位置は当初からズレてきていた。


 当初は空間の中央、どの障害物からも遠い位置にいたのに、オルジフの攻撃を受けた反動で少しずつ流されていき、今やいくつもある橋の1つへと接近していた。


 オルジフの目論見どおりに。



『いつのまにか、こんな橋の近くに……ッ⁉』


「追いこませてもらったぜぇ!」

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