第13話 初陣
大草原を走る馬車に近づいてきたのは全高5メートルほどの巨大人型ロボットの集団だった。機神英雄伝アタルの敵役である暗黒龍の軍団が用いる量産型メカ──
機神 〔黒巾力士〕 たちだ。
その姿は3頭身。黒い頭巾をかぶり、露出した顔面は仁王像のような仮面、首から下は中華風の鎧に覆われている。
右手には剣。
左手には盾。
物々しく数も多いが、馬車に乗るアキラたちは逃げない。初心者のアキラとレティをこの黒巾力士たちとの戦いで鍛えるため、経験者のセイネがここまで連れてきてくれたのだから。
馬車の荷台から飛びおりたアキラとレティが、それぞれの持つ剣を鞘から抜いて天高く掲げながら、その名を呼んだ。
「翠王丸ーッ‼」
「翡王丸ーッ‼」
すると二振りの剣は光の矢に変じて天へと舞いあがり、にわかに現れた黒雲を突きやぶる。そして雲にあいた穴の向こうから、巨鳥となって戻ってきた。
青き翡翠の姿をした、翠王丸。
赤き翡翠の姿をした、翡王丸。
『『ピィィィィッ‼』』
2羽はそれぞれの主のもとへと降りたつや全高4メートルほどの3頭身の機神の姿へと変身。そして翡翠の嘴を模した頭部ハッチを開く。
『『ピィッ!』』
同時にアキラとレティの体がフワリと浮かんで自機の頭部ハッチへと吸いこまれ、その機内亜空間に浮かぶ玉座状のシートに着座する──戦闘準備、完了。
「がんばってね‼」
『『ちょっと⁉』』
パーティーの最後の1名、セイネは自分のメカも呼びださず、背中を向けて逃げだした。バニーガールらしく脱兎のごとく。
だが臆病風に吹かれたのではない。
「わたしが手伝っちゃったら2人の練習にならないでしょー? 危なくなったら助けるから、取りあえず思いきり戦ってー?」
『ま、それもそうよね!』
『あ、ちょっとレティ!』
アキラがとめるまもなく、レティの翡王丸が背中の剣を抜きながら、黒巾力士の群れに向かって駆けだした。多勢に無勢、あれではすぐに囲まれてしまう。アキラは急いであとを追った。
『でぇーい!』
『グワーッ!』
ドカーン!
黒巾力士の群れの先頭にいた1体を翡王丸の剣が斬りふせる。肩口から斜めに両断された黒巾力士は、直後に爆散して跡形もなく消滅した。
『どんどん行くわよ!』
『ちょ、気をつけて!』
翡王丸はすぐ次の1体へと斬りかかっていく。
対してアキラは翡王丸が剣を交えている相手以外の黒巾力士に死角から攻撃されないよう、翠王丸を翡王丸の後ろに張りつかせ、その背中を守った。
『それーっ!』
ドカーン!
(あれ……?)
だが翡王丸が戦っている個体以外、大勢いる黒巾力士たちは翡王丸にも翠王丸にも襲いかからずジッとしていた。おかげでアキラはすることがなく、レティばかりが敵を倒していく。
そこに遠くからセイネの声がした。
「アキラー? そいつら回りこむとか連携するとか高度な戦術は取ってこないわよー? だから初心者用なのー!」
『あぁっ⁉』
言われてみれば当然だった。これだけの敵が数の差を活かす戦法を取ってきたら、初心者でなくても勝つのは難しい。
これまで遊んできた別のロボットゲームでの癖で、ついガチの戦術思考をしてしまった。結果、レティを守るつもりで彼女の背中に隠れ、彼女を盾にしていただけになってしまった。恥ずかしい。
『ボクだって!』
アキラは戦術を捨て、自らも闇雲に機体を突っこませて手近な黒巾力士に斬りかかった。そして、次々と撃破していく。
キィン!
『おっと!』
だが黒巾力士も防戦一方ではない。振るわれたその剣を翠王丸が己の剣で受けとめ、返す一撃で両断。黒巾力士はせっかくの盾もろくに使わず、こちらの攻撃を防ぐことはなかった。
ドカーン!
(うーん……)
優勢なアキラだが、その剣さばきはたどたどしく、自分がズブの素人であることを痛感した。青銅剣闘士タロスのもとで少し習った程度では大して変わっていない。
レティの腕も自分と同程度に見える。
なんなら黒巾力士のほうが動きは堂にいっていた。こちらが対処できるようゆっくり振っているだけで、本当は向こうのほうが強いのに手加減されている気分になる。
それでも剣を振って敵を倒すのは気持ちよかった。そうして戦う内、初めは数えきれないほどいた黒巾力士が残りわずかになった──その時。
『『⁉』』
残りの黒巾力士たちが1箇所に集まり、地面の上に折りかさなった。すると、それらの姿が光りながら溶けあい……これまでに倍する全高8メートルほどの、1体の黒巾力士へと合体した!
『『そんな機能、原作にない!』』
先手必勝、文句を言いながらも2人の機体は合体力士へ突進する。大人と子供ほども背丈の違う今、最も狙いやすい相手の脚へと斬りかかり──
カァン!
『『ッ!』』
翠王丸と翡王丸の剣は弾かれた。さっきまで簡単に斬れていたのに。合体して防御力が上がっている──それなら!
『『必殺!』』
2人はここに来るまでに予習しておいた必殺技の使用法を実践した。音声入力により、翠王丸の剣が青く、翡王丸の剣が赤く輝きだす。続く技名は叫ぶ必要はないが、叫びたいので──
『『屠龍剣‼』』
叫びながら横薙ぎに振りぬかれた2本の剣は、光によって威力を増しており、今度は合体力士の両脚の脛をそれぞれ切断した。合体力士の体が倒れふし、地響きを立てる。
『『やったーっ!』』
バキィィィッ!
『『えっ⁉』』
翠王丸と翡王丸が宙を舞い、地面を転がる。
合体力士は生きていた。必殺技を両脚の下腿に受けても、下腿が破壊されただけで他の部位は無事だった。耐久値が部位ごとに設定されていたからだ。ロボットゲームでは珍しくない。
(油断した!)
そして這ったまま剣から離した手を振って攻撃してきた。
そのたった一撃で2機は耐久値が危険域に。しかも必殺技を放ったことで、もう同じ技を出すエネルギーが残っていない──相手にダメージを与える手段が、なくなった。
2機とも片脚がもげて動くこともできない。
合体巨人が2機ににじりよる──万事休す。
『レティ‼』
『アキラ‼』
『おっまたせーっ♪』
バチーン!
ドカーン‼
『『……え?』』
セイネの声に続いて空から降ってきた巨大な──合体力士よりさらにずっと巨大な人型ロボットの手が、合体巨人を虫けらのように叩きつぶし、爆散させた。




