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エッセイ

サブスクによって人類は何を失うのか?

作者: 徒花ミノリ

 サブスク。

 昨今、その言葉をとてもよく耳にする。

 おわかりの方には説明の必要はないと思うが、この語はサブスクリプションの省略形であり、サブスクリプションというのは定額料金制のサービスやコンテンツのことである。

 その意味で言えば、新聞やNHK、もっと拡げて言うなら健康保険や国民年金も、サブスクと言えるのかもしれない。

 しかしここでは、ネット上のサービスに限定して話したい。

 

 わたしはアニメや映画が好きなので動画配信系のサブスクに複数入っている。

 ほぼ毎日、何らかの動画コンテンツを消費しているので、金額的には高いと感じることはなく、むしろ費用対効果(コストパフォーマンス)がとても良いように感じている。

 では不満は無いのか、というとそんなこともなく、コンテンツが〈人気作品〉にばかり偏っているのはどのサブスクにも共通で感じている不満である。

 わたしとしてはもっとマニアックな作品を充実させてもらいたい。有名作品ばかりでなく、誰も知らないようなB級作品や、今どき誰がこんなの見るんだというような古い作品、あるいは自主制作映画のようなニッチでコアな作品も置いてもらいたい。

 あと、海外の作品にはなるべく日本語吹替版を用意してもらいたい。その理由は、原語で見ることに抵抗があるからではなく〈ながら見〉ができるからである。

 テレビというオールドメディアをまだ利用していた頃は、もっぱら〈ながら見〉だった。2時間の番組を2時間ずっと座って集中して凝視し続けるなどということは、よっぽど面白い番組でもなければなかった。ご飯を食べながら見たり、雑誌を読みながら見たり、作業をしながら見たり……。そういう消費の仕方だった。

 なので、わたしとしてはサブスク動画サービスも同じように消費したいのだ。だから日本語吹替版が多いと非常にありがたい。もしかすると、わたしは映像よりも音声をラジオのように環境音として楽しみたいのかもしれない。

 

 さて、不満は多少ありつつも概ね満足しながら利用しているサブスクだが、サブスク生活が長くなってきたことによって、自分の意識のなかにある変化が生じていることにふと気付いた。

 物欲があまり無くなったのである。

 以前は、DVDが欲しいBlu-rayボックスが欲しい、といったわかりやすい物欲に支配されながら生きていた感覚があったが、ここ数年はそういう物欲がまったくと言っていいほど湧かなくなってしまった。

 単純に年をとった、という理由もあるのかもしれない。でも、たぶんそれだけでは説明不可能で、明らかにサブスクの影響でそういう〈円盤〉系のメディアには興味を失ってしまったのだ。

 以前は、アニメや映画の円盤の発売日が楽しみでしかたがなかった。金額的にも決して安くはない商品が多かった(アニメDVDだと1枚5000~6000円が当たり前、Blu-rayボックスにもなれば数万円するものも珍しくなかった)ので、そのぶん仕事がんばろうというモチベーションの源泉にもなっていた。

 

 しかし今では、毎月のサブスク料金を支払うためにのみ仕事をしているという有り様で、そこにはかつての、よくわからない何かに体の内部から衝き動かされるようなモチベーションは微塵もない。

 今のわたしは、ただ毎月のサブスク料金を払うために生命を維持しているだけの肉の自動機械である。そこには、発売日までは何としても生きねばという強靭な意志も謎の使命感もなければ、コンテンツに対する恋い焦がれるようなどこか背徳的で甘美な官能性ももはや皆無である。

 世の多くのサブスク利用者が、わたしのような燃えカスになっていないことを祈りたい。

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