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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イミテーション

作者: 蘭薇

 大宮陽翔(はると)は公園のベンチでうなだれていた。友人と思っていた人間に裏切られたのだ。


「もう誰も信じられない。これからどう生きていけばいいんだ。」


 ぶつぶつと呟いていると胡散臭い笑顔を浮かべたスーツの若者が一人、大宮の目の前に立った。


「だから言ったでしょう?あの男は信じないほうが良いと。」

「……確かにそうだったけれども、アンタには言われたくない。」

「アンタではない。金子(ひかる)だ。君、高額の借金を背負ったそうだな。仕事もクビにされて、本当に憐れな男だ。」

「馬鹿にしに来たのか?ほんと、あんたら兄弟は性格が悪いよ。」

(すず)が来ていたのか?」


 大宮は首を振った。


「今日は会ってないぜ。来たのはお前のあの忠告の直後だ。『金子グループに来ないか?』って勧誘が来たんだ。なんの前フリもなくな。アンタみたいな胡散臭さはないが、な。あの子に勧誘されるのはなんかな。」

「じゃあ、俺に勧誘されるのは、アリか?」

「は?」

「大宮陽翔、君、金子グループに入らないか?」


 大宮は理解できなかった。何故、この兄弟はたいした能力もない自分をこんなにも勧誘してくるのかと。


 金子グループといえば、トップクラスの企業で建設から飲食、製造に医療と様々な業種で活躍している。また、かなり福利厚生がしっかりしていると評判がよく、退職率が低いため、入社するのは新卒でもかなり難しいといわれている会社だ。


「お前たちは何度、俺を馬鹿にしたら気が済むんだ?いや、錫君のは悪意がないかも知れないが、お前のはどう考えても馬鹿にしているとしか思えない。なんで俺にそんなことを言うんだ?俺が何をしたって言うんだ?」

「そんな意味深に考えなくてもいいんだけど。ただ、錫が君を気に入っている。ほんと、ただ、それだけなんだよ。」


 光は微笑むかのようにそう答える。こんなにも胡散臭さ全開の男の言葉なのに、何故かわからないが今の言葉はすんなりと真実なのではないかと思った。


「ほんと、アンタ、錫君を溺愛してるだな。」

「違うな。俺たちは愛し合っているんだ。深い深い兄弟愛という愛でね。」


 光は恍惚の表情で空を見上げた。そんな姿を見た大宮は顔を引き攣らせ、少し距離を置いた。


「おいおい、距離を置くなよ。あ!金なし職なしハルちゃんよ、どうせ時間あるだろ?今から、錫に会いに行かないか?」

「は?いや、確かに暇だけど、急すぎじゃね?」

「そこ、俺の車停めてあるから行こうぜ!」

「いや、話聞けよ。」


 大宮の言葉には全く反応せず、スタスタと公園の外へと向かう光。大宮は深くため息をつくと、公園のベンチから立ち上がり、光を追いかけた。





 大宮は渋々ながらも光の軽自動車の後部座席に乗り込むと、車のエンジンがかかり、窓の外の景色が流れ始める。


「ハルちゃんはさ、神様とか信じる?」

「いや、信じないが。ってか、さっきからその呼び方はなんだよ。気持ち悪いなぁ。」

「えー、『大宮さん』は堅苦しい感じするしさ、ならいっそフレンドリーな感じで『ハルちゃん』ってよくない?」

「距離を急に詰めすぎだろ。」

「っで、神様の話に戻るんだけどさ、俺も神様とかいう存在、嫌いなんだよねぇ。気まぐれで、意地悪。」


 そう、神を否定する光の声はとても冷たく、無機質な感じがした。なんか不安を感じた大宮はおそるおそるバックミラーに映る光を見てみれば、そんな声を出したとは思えない相変わらずの胡散臭さ全開の笑みで運転をしていた。


「いやー、そんな心配そうな顔をしなくてもいいじゃないか。確かに急に変なことをきいたなと、ちょっと俺も反省してるだぜ。」


 と、バックミラー越しに光と目があい、慌てて大宮は目をそらした。


「いや、錫がいるところまで少し時間があるから、ちょっとしたお話をしようかと思ってさ。神様は残酷だっていうお話を……ね?別に聞き流してくれててもいいよ。寝物語にしてもいい。俺が暇だから話すんだ。」


 そういうと光は静かに話し始めた。


------------------------------------------------------


 それは雪降るクリスマス、両親が共働きで独りぼっちでお留守番をしていた少年がサンタを名乗る男を家に招き入れたことで起きた悲劇から始まる。


しんしんと降る雪と対照的にゴォゴォと燃える屋敷が一軒、そして、その燃える我が家を茫然と見続ける男が一人。


「突然爆発したんでしょ?」

「本当に事故なのかしら?」

「え、クリスマスなのに子供が一人で?」

「瀕死状態らしいよ。」


 野次馬が有る事無い事、言い合っている。家主である男の脳裏ではそれどころではなかった。


 もしも、息子が死んだら、俺は父親として同情してもらえるのだろうか、いや、おそらく罵詈雑言を浴びせられる気がしてならない。男はふらつきながらも子供の搬送先をききだし、タクシーでその病院へと向かう。


「お客さん、顔真っ青ですよ。」

「うるさい。家が爆発して、息子がそれに巻き込まれたんだ。そんな顔色いいわけないだろ。」

「そりゃあ、お気の毒に。あぁ、それでこの時間に病院。なるほど。」


 胡散臭い笑顔の運転手は勝手に話しかけたかと思うと納得をし、黙る。


「もっと早く飛ばせないのか?」

「今日はクリスマスでただでさえ道が混んでる上に、雪が降ってる。飛ばしたくても飛ばせないよ。」


 それもそうかと思いつつ、男はガタガタと貧乏ゆすりが止まらなかった。


「お客さん、お子さんが大変な時にこんなこと聞くのは残酷かと思いますけどねぇ、その、もしも息子さんが死にかけてたとして、『どんな姿でも息子さんに生きてほしい』と思うのか、それとも、『事件に巻き込まれる前の息子の姿であればどんな状況でもいい』と思うのか、お客さんはどちらなんですかね?」

「何を言っているのかわかってんのか?」


 運転手の空気の読めない質問に男は静かに怒りをあらわした。


「もしもの話ですよ。きっと凄腕のお医者さんが息子さんを助けてくれてますよ。」

「……そりゃあ、可能な限り、事故にあったなんて思えないくらい元気な息子の姿が見れたらと思うよ。これで、もしも障がいが残るような事があれば、息子一人で留守番させた俺にどれだけ………、いや、なんでもない。」


 今、自分は何を口走ろうとしていたのかと男は怖くなった。息子のことが一番心配に決まってるじゃないか。


「まぁ、そんな気負わないでくださいな。あ、病院着きましたよ。」

「おぉ、ありがとう。これ、お釣りはいいや。」

「こちらこそ、ありがとうございました。どうぞ、最悪の地獄を…。」


 運転手が最後何を言ったのか分からず、男が聞き返そうと振り返れば、そこには既にタクシーはなかった。


 

 結果、息子は包帯ぐるぐる巻きの状態ではあったが命に別状はなかったとのことだった。けど、包帯が取れて綺麗な姿に戻っても、暑い夏が来ても、そして、再びクリスマスが訪れても、息子は目を覚さなかった。心臓もちゃんと動いていて、呼吸も安定しており、いつ目覚めてもおかしくないのに、息子は人形のようだった。


 事件から一年以上経って自宅療養にうつっても、彼は深い深い眠りから覚めることはなく、生命維持装置は取れないままだった。父親は気を狂わせていた。家族であるはずの母親は長男は死んだと思いこむようになり、新たに生まれた子供に愛情を過剰に注いだ。父親は仕事に打ち込むことでしか正気を保つ方法がなかった。少しでも仕事のことから離れようものなら、息子が元気に過ごしていた時の記憶がフラッシュバックして、それから、あの雪の中、燃える自宅が頭の中で何度も何度も繰り返し再生される。あの日、どうしてあんな爆発が起きたのか、結局原因は分からず終いのまま。


 男がそんな狂った状態でいながらも仕事は何故か順調どころか大成功して、あのクリスマスから五年後、大企業を築き上げた亡き父と比べられないようになったある日、次男が長男の眠る部屋にやってきた。いや、男がいない時間に度々この部屋に訪れていたようだが、初めてこの日鉢合わせだのだった。男は父親であるにも関わらず、次男とこうして向き合うのは初めてだった。まだ四歳になったばかりの次男に対して、男は変に緊張していた。


「お父さん、顔真っ青ですよ。」


 次男は満面の作り笑顔でそう男に声をかけてきた。子供らしくない口調で話し、そのあと、口角をニチャッと上げた姿は、自分の息子とは思いたくないくらいとても不気味だった。


「俺、これから仕事があるから………」

「そんなすぐバレる嘘なんてつかなくていいよ。俺には何でもお見通しなんだから。ねぇ、お父さん、お兄ちゃんはとっくに意識を戻してるって知ってた?」


 男が慌てて部屋から出ようとしたら、次男は不気味な笑みを浮かべたまま、そう告げた。


「今、何で言った?」

「あぁ、やっぱり知らなかったか。そりゃあ、お気の毒に。時間さえあればここに来るようにしていたのに一切気付かなかったなんて、ほんと子供に興味ないんだね。いや、人に興味がないのか。」

「お前は何者なんだ?息子じゃないだろ?何なんだ?」

「いやぁ、正真正銘お父さんの子供だよ。ただ、前世からの記憶や能力をうっかり引き継いじゃってるっていうだけの四歳児だよ。」

「前世?何を言ってるんだ?」

「俺、お父さんと前世でも会ったことあるんだ。あのクリスマスの日、病院まで連れてったの、俺だよ。あのタクシー運転手。あ、でも、お父さん、人に興味がないから覚えてないか。」

 

 男は、ハッと胡散臭い笑顔のタクシー運転手のことを思い出した。息子が生きるか死ぬかって時にとんでもなく空気の読めない質問をしてきた、失礼な男。この笑い方、口調、確かにあの男と同じだった。


「あ、思い出してくれたようだね。嬉しいよ。それで話は戻すけど、お兄ちゃんは去年の今頃から意識は戻ってて、俺と少しずつリハビリしてたんだよ。」

 

 ニヤニヤと笑いながらそう告げる次男に腹を立たせながらも、男はずんずんとベッドに横になる長男の元へ近づく。


「あぁ、今は眠ってるから起こさないようにね。意識が戻ってきてリハビリしているとはいえ、食事は未だ出来ず点滴で生きているんだ。体力は全くないんだよ。」

「……何故俺に知らせてくれなかったんだ。」

「バカ言ってるの分かってる?俺とお父さんがこうやって会うのは初めてなんだよ。いつどう伝えれば良かったと?それに、気付かなかったのはお父さんであり、また意識を戻したのに伝えようとしなかったのはお兄ちゃんなんだ。俺はいつまで経っても何も変わらない現状につまらなすぎて伝えただけだ。別に言わないままでもよかったんだけど。」

「つまらないっていうのはどういうことだ。この状況を面白がってみていたのか?ふざけている!」

「ふざけてる?俺はいたって真面目だ。人の苦しむ表情、歪んだ感情を見ることに誠心誠意、力を入れている。超真面目に向き合っていると思わないか?ただ、今回やり過ぎたが為に最期まで見届けるようにとこの姿にされただけで……。」

 

 男は次男の発する言葉が全く理解できなかった。


「俺、前世、人ではないんだ。わかりやすく言えば悪魔という存在に近いか?契約を結んで、願いを叶える召喚されし、異界の存在。まぁ、願いを叶えるって言っても俺がやりたい、楽しいと思える契約しか結ばないけどな。例えば、復讐とかそういった類?」

「復讐………。」


 男には復讐される心当たりがあった。その男は大親友だった。彼はいつでも助けてくれていた。ある日、父親によって縁を切られた。縁を切られた後でも彼は手を差し伸べようとしてくれた。なのに、彼が困っている時、父親によって妨害されていることも知っていたのに見て見ぬふりをした。父親に逆らうことができなかった。


「そうだよ、その男だよ。お父さんせいで家族を見殺しにされた彼による復讐だよ。お父さんは事故だと思い込んでだけど、違うよ。彼が自作の爆弾を持ち込んで、自らの命共々、爆発したんだよ。当然、お兄ちゃんもお家も一緒にドカーンってね。」


 次男は楽しそうに男にそう告げる。まるで心の声が聞こえているようで、そして、父親の反応を見て心の底から愉しんでいる姿に恐怖を感じた。


「俺はあの時した質問を覚えてる?お父さん、君は『どんな状況でもいいから事故に巻き込まれる前の息子の姿』と答えたんだ。そして、世間体を気にした。息子ではなく、自分の事を心配したんだ。」

「違う!!俺は息子の心配をしていた!!あの質問だって、息子に不自由な生活をしてほしくないと、怪我ひとつない方がいいじゃないかって親なら思うだろ………。」

「親………ねぇ。なら、クリスマス一緒に過ごしてあげたら良かったのに。仕事を言い訳に子供と向き合おうとしなかった君が親を語るんだ。」

「クリスマス一緒に過ごせなかったのは俺だけじゃない。妻だって…。」

「あぁ、そうだね!!両親二人して仕事を理由にお兄ちゃんを一人で留守番させた。でも、恨まれるようなことをして復讐されたのはお父さんなんだよ?お母さんを引き合いに出さないでよ。ほんと、お兄ちゃんがかわいそうだ。俺と契約して正解だった。」

「契約?お前が契約したのは………」

「一人と契約したとは一言も言ってない。あんたが見捨てた元大親友と、ずっと独りぼっちにさせられていたお兄ちゃんと、俺はそれぞれ契約をしたんだ。復讐をしたい、両親に後悔をさせたいという二人の人間とね。」


 男は、息子から後悔させてやると思われているとは夢にも思っていなかった。習い事も好きなことをさせていたし、最新のおもちゃやゲームは常に購入してあげていた、そう、何不自由ないよう生活をさせていたはずだった。

 

「理解できないって顔をしているね。そんなんだから、息子がこんなのと契約しちゃうんだよ。まっ、そのおかげというかそのせいで俺がここにいるんだけど。いやぁ、お兄ちゃんはすごいんだよ。例え自分が消えていなくなっても構わないから、両親を、特に父親をどん底に突き落として後悔させてやりたいってさ。だから、ちょうど復讐したいって強く願っていたあの男に声をかけたんだ。ただ1人の家族だった母親を失ったのは全て裏切りのせい、だから、復讐は彼の家族を奪うべきだって。彼は血の涙を流して俺と契約結んでくれたよ。こうして、俺は最高のシチュエーションを作り出したんだ。いま、そのいろんな感情でぐちゃぐちゃになったお父さんの顔が見れて、あぁ、こうやって人間に生まれ変わってしまったけど悪いことばかりじゃないなと悦びの感情に浸れてるよ。」


 すると、スクッと突然、長男が上半身を起き上がらせた。


「お兄ちゃん、まだ寝ててよかったのに。」

「いや、2人の会話をきいていたら、今、起きるべきかなって思って。」

 

 男はずっと待ち望んでいたはずなのに、長男の顔が見れなかった。ずっと眠ったふりをしていた長男に対して、自分をどん底に突き落としたいと願った息子に対して、恐怖を感じてしまったのだ。


「ずっと待ってたんでしょ?僕が起きる日を。自分の血を引き継いだ息子という器が起きる日を。」


 変なことを口にする長男の方を男は思わず見てしまえば、その顔は優しく微笑んでいるようで目は全く笑ってなくて、ヒッと小さく叫んでしまった。


「怖がらないでよ。そう望んだのは、(まさる)、キミなんだ。僕は全て壊そうって言ったんだけど、最終的にキミに決めてもらった方がより一層苦しめられるだろうって。」


 声変わりしてない幼い声色なのに、静かな口調で、あの日から全く変わらない姿をした少年は、父親の健にそう告げる。健は今自分の名前を呼ばれてから、長男に更なる違和感と不安を感じた。頭の中で警鐘が強く鳴る。


「僕はね、そこにいる悪魔に全て捧げるつもりで契約したんだ。実際、色々失ったけど、まさかこうして生かされてしまうとは思わなかったよ。ねぇ、健、僕はね、そんな怖がる顔より絶望した顔が見たいんだ。」

「違う、違う…。こんなの、息子じゃ、錫じゃない。」


 次男は父親の歪み慄く表情に子供らしい笑顔で喜ぶ。


「いや、そこにいるのはお父さんがちゃんと望んだ、『爆破に巻き込まれる前の姿のままの息子の姿』だよ。ただし、爆破に巻き込まれる前の姿だから一生成長することはないし、そもそも復元する際に本物の脳みそは綺麗に破裂してたから損傷の少なかった彼を代わりに使ったんだ。でも、どうせ本物だろうが模造された息子だろうが構わないだろう?お父さんは今日まで気付かなかったわけだし、それに元々他人に興味がなく自分さえよければ関係ないでしょ?」

「健、僕は『    』だったが、もうそんな人間がいたことを認識しているのはキミを含めたここにいる三人だけなんだ。彼と契約した時、僕は全て捧げたからね。『    』はあのクリスマス以降、存在しない人間となったんだ。だから、何故爆発したか誰も解明できない。キミの息子として生きるのは少し不本意だが、でも………」


 健の精神は限界を超えた。廃人と化し、目の焦点はおかしな方を向いており、人の言葉が話せなくなっていた。


「錫、君の名前はもう『金子錫』なんだからね。いつまでも過去の名前は………」

「わかってるよ。そうだ、よかったら『お兄ちゃん』じゃなくて名前で呼んでほしい。彼の人生をいただいてしまった戒めと感謝を込めて。」

「ま、本物の錫はこんな父親と不倫だらけの母親の子供であることをひどく嫌がっていたからね。結果的に君に身体を譲ったのはよかったんじゃないかな?さて、これからが大変だよ。この男が廃人と化したのをバレないようにしつつ、会社を俺らのものにしないとなぁ!!」


 そう言うと、次男、いや、光がずるずると父親だったものを部屋の端へと引き摺り寄せる。


「将来的に僕らが会社を継ぐとして、僕は表舞台には立てそうにないな。光、いい案はないか?」

「あるよ。父親も君自身も偽物、影武者を用意すればいいんだよ。母親も既に偽物なんだし。そんときは、戸籍のない女性に声かけて了承を得た上で母親役してもらう。そのかわり、金に困らない、いい生活をさせてるんだ。他も同じように用意すればいい。弱みを握ってやらせるのもいいかな?」

「そんなうまくいくのかな?」

「いくのかじゃない、俺達の手でうまくいかせるんだ。さぁ、まずは本物の父親をどう処分するか考えよう。」


------------------------------------------------------


「着いたぞ。」

「…うぇ?」


 大宮は気付けば眠っていた。光が何か話していたはずなのに、その話も全く覚えてないどころか聞いた記憶すらない。口から少しこぼれていた涎をシャツで拭きながら記憶を探るが、やはり思い出せないので諦めた。


「ほんとぐっすり眠っていたね。まぁ、君にとって都合がよかったかもしれないけどね。」


 どこかの地下駐車場らしきところで車から降ろされると、光の案内でどこかホテルのロビーのような広間と通り、一台のエレベーターへ乗せられる。


「今日からハルちゃんにお願いしたいお仕事があってね。そんな難しいお仕事じゃないよ。」


 ボタンは一つしかなく、グングン上へと上がっていく。何故だかわからないが、不安なのか緊張なのかドクドクと心臓が大きく鳴っているの身体で感じる。


「君にお願いしたい仕事はただ一つ。うちの新社長の影武者だよ。」


 光は胡散臭い笑顔で大宮にそう伝える。


「え、影武者って。」


 そして、チーンとエレベーターが目的地に着き、扉が開く。


「やぁ、いらっしゃい、大宮陽翔君。今日から顔を変えてもらって、大人の『金子錫』として生きてもらうよ。大丈夫。今までの君は僕達のほうでどうにかするから。」


 機械だらけの部屋の中心、背中にたくさんの配線が繋がれている少年が微笑みながらそういう。


「錫君、もし今俺が断りたいっと言ったら?」

「残念だけど、光にココに連れてこられた時点でその選択肢は消えてるんだ。大丈夫。ちゃんと役さえ演じてくれれば、悪いようにはしないから。」


 神様は残酷だ、僕達をこうして野放しにしているのだから。

こちらの作品は、昔どっかのサイトにて掲載した作品のリメイク作品です。

全く書ききれなかったのを短編として完結した形で書けて満足です。

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