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第6話 冒険者パーティー『灰色の鴉』

 私の名はフィデリオ。

 冒険者パーティー『灰色のからす』のリーダー。それ以上でもそれ以下でもない。

 そしてそれでいい。


 私達のパーティーは、王都からノルドベルク公爵領の公都まで行く隊商を護衛する依頼を引き受けて、公都に到着した後、隊商が商売と仕入れをしている間しばらく滞在中だ。

 その間は護衛の必要は無いので、他の依頼を受けるなり自由に行動して構わないという事だったので、公都の冒険者ギルドに出向いたのだが──




「丁度良い仕事が無かったな……」

 夜、逗留している宿屋の一階にある酒場で私が溜息を吐くと、パーティーの仲間達も頷く。

「この辺りは公爵様が軍をしっかり整えていて、治安も余所と比べて良いからね」

 酒場の給仕を務める娘が、エールの入ったジョッキをテーブルに置きながら言ってくる。

「だから灰色狼やゴブリンの群れの討伐依頼しか無いのか」

 女戦士のウルズラが、料理を自分の皿に取りながら言う。パーティーで一番の長身で力も強いが、以前誤って友人に大怪我をさせてしまい、それで故郷の村にいられなくなり、冒険者になったそうだ。

「けど、それもいつまで続くかね?」

 魔術士のジーモンが、そう言ってエールを喉に流し込む。

「公爵様の息子の、たった一人の忘れ形見が、スキル適性で闇魔法と出たって噂で聞いたぞ。そうなれば廃嫡・去勢は確実で、跡目争いは避けられないだろ。そうなったら、この辺りも今みたいにはいかないだろうよ」

 スキル適性が他の魔法と比べて地味と言われる土魔法であるため、私達のパーティーに入る前は幾つものパーティーで、火魔法など攻撃力のある魔法が使える魔術士が見つかる度に追い出されるのを繰り返してきたせいで、ひねくれた物言いが多いが、根は悪い奴じゃないのはパーティーの皆がよく知っている。

「ちょっとジーモン。そんな事言うものじゃないよ」

 斥候せっこうのペーターがジーモンをいさめる。パーティーの中では最年少だが、昔私の財布を狙ってきた孤児の少年を、ちょうど大きな依頼を達成して気が大きくなっていた故の気まぐれで食事をおごって以来、今ではすばしっこさと目端が利く、パーティーでは一番長い付き合いで、皆の弟分的存在だ。

「いいっていいって」

 給仕娘が笑って返す。

「それにお客さん、情報が古いよ。確かに公爵様の孫のヴィルマー様はスキル適性で闇魔法と出たみたいだけど、それを恥じてお城の塔から飛び降り自殺しようとしたら、風の精霊様が助けた上に加護まで授けたそうだよ。いくら聖教会だって、精霊様の加護を受けた子のアソコをちょん切るなんて出来やしないさ」

 酒場の給仕をやっていると、そういう噂話をいち早く耳に入ってくるようだ。

「そういう訳だから、公爵領はこれからも安泰って事さ」

 隣のテーブルから他の客も話に入ってくる。

「公爵家に乾杯!」

「俺達の生活の安泰に乾杯!」

 客がジョッキを掲げると、既に出来上がっている別のテーブルからも続けざまに声が上がる。

 本当に、ノルドベルク公爵は地元の人達から慕われているらしい。




「おい聞いたか。ヴィルマー様がまた自殺を図ったってよ」

「お城の古井戸に入って溺れ死のうとしたって話だろ?」

「それはこの間の事だろ。煮えたぎった大釜に入って死のうとしたそうだぞ」

「大釜? 頭から油を被って焼け死のうとしたんじゃないのか?」

 公都に滞在して数日が経った頃、町は公爵の孫がその後も繰り返し自殺を図ったという噂でもちきりになり、酒場でも真偽が定かでない話が飛び交っていた。

「精霊様の加護が闇魔法の適性よりも上だって事くらい、あたしだって分かるのにね。何でまた自殺なんて図るのかな?」

 呆れた口調でウルズラが言いながら、揚げ芋(ポメス)を口に放り込む。

「スキル適性が闇魔法だと分かった時、とっくに正気を失ってたんじゃないのか?」

「こら、そんな事を言うんじゃない!」

 相変わらずの憎まれ口を叩くジーモンを、私が即座に注意する。

「それにしても、貴族の子というの大変だね。生まれてからずっと親や使用人にチヤホヤされて育ったのが、スキル適性一つで手の平を返されて、生き地獄へ急降下だもの。平民に生まれて悲しむな、貴族に生まれて喜ぶな、か」

 ペーターがやれやれと肩をすくめる。

「……そうだな」

 私も頷いて、エールのジョッキを傾ける。


「飲んでる最中悪いけど、良いかい?」

 そこへ酒場の給仕がやって来る。

「何だい、追加はまだ良いよ」

 料理とエールがまだ十分に残っているテーブルを指さして、ウルズラが言う。

「そうじゃなくて、こっちの人達が話があるってさ」

 給仕が後ろに立つ二人を指で示す。一人は冒険者ギルドの窓口で何度か顔を合わせた事がある男で、もう一人はフード付きのマントをまとっていた。

「済まん。ギルドに呼び出すと他の冒険者達の目に付くから嫌だそうでな。実力があって、尚且つノルドベルク公爵領が本拠地でないパーティーをという希望で、ちょうどおたくらが暇を持て余しているようだったから」

 ギルドの男はそう詫びると、隣にいたもう一人に話の続きを促す。

(「冒険者ギルドでない場所で、わざわざギルドの職員に同行と仲介を頼むとは、相当な金額をあの職員に握らせてるな。そこまでして他の冒険者達に知られたくないような依頼だとすると、表に出せない仕事──よほど後ろ暗い仕事か、それとも貴族とかのお偉いさんが絡んだ仕事か、どちらにしても厄介な事になりそうだな……」)

 テーブルを見回すと、ウルズラは面白そうに口の端を上げ、ジーモンは不機嫌そうな顔だがジョッキをテーブルの端に遣って仕事に意識を切り替え、ペーターはどんな事になっても僕は付いていきますよという目で私の方を見る。


 それでこそ『灰色の鴉』のパーティーメンバーか。ならば私もリーダーとして期待に応えなくてはな──


「良いだろう。上の階に部屋を取っているから、詳しい話はそこで聞こうか」

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