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第17話 動き出す陰謀

「はい、これで採寸は以上になります」

 そう仕立屋が言うと、僕は「ハァ~ッ」と大きな息を吐きながら、ミナが持って来た椅子に腰を下ろす。

「お疲れさまでした、ヴィルマー様」

 更にミナは、素早く紅茶を僕と仕立屋に出して来る。

「本当だよ、もう。採寸の間、じっとしてなきゃいけないんだから、体中が凝っちゃったよ」

 言いながら僕は紅茶を口に運ぶ。

「その位で何を年寄りじみた事を言っとるか、ヴィルマー」

 すると、御爺様が部屋に入って来る。

「この後もまだ、仮縫いや仕上げがあるんだぞ。御披露目会で着る衣装なんだから、しっかりせんか」

「本当にやるんですか? 僕の御披露目会を」

 思い切り気が進まなそうに僕が尋ねる。

「当たり前だろうが! 貴族の子はスキル適性の鑑定を受けたら、それを御披露目会で他家に公表するのが習わしだ。まして其方は公爵家の跡継ぎなのだぞ!」

「それは適性がまともなスキルだった場合の話でしょう? 闇魔法だなんて公表したら、ノルドベルク家の家名に泥を塗るどころじゃないですよ」

「だからこそ、其方が精霊の加護を受け、アーヴマンの大神殿を破壊した事をアピールせんといかんのだ。そのためにも御披露目会で着る衣装には、それらを表す意匠を施すようにな」

 御爺様の言葉の後半は、仕立屋に向けてのもので、仕立屋も「承知致しております」と返す。

「既に其方の修道院送りと去勢の処分は大司教が取り消しているが、ノルドベルク家の将来を危ぶむ声は貴族社会でもまだ多いと聞く。だが御披露目会で其方が受けた精霊の加護と、為した偉業が広まれば、不安は完全に払拭され、其方の次期公爵の地位は盤石となるであろう」

「たまたまそうなっただけでしょう? 他ならない僕が、これから先が不安で仕方ないんですけど。やはり世界の平和と人類の未来のために、一日でも早く死ななくちゃ……」

「まだそんな事を言っとるのか!? 公爵家を継ぎ、王国を繁栄させるために努力するという考えは無いのか!?」

「ありません」

 僕は即答する。

「もし何かのきっかけで僕が闇堕ちしてしまったら、これまでの事なんて一発でパーだし、そうでなくても神体兵器を破壊したというのに、ナリシアの奴が未だに僕を利用しようと付きまとって来るんですよ。だったら今のうちに死ぬのが最良だと思わないんですか?」

「一体全体どうしたらそういう考えになるんだ……」

 御爺様は額を押さえてうつむき、仕立屋も理解不能という顔をしている。それでフッと気付いて、

「あっ、そう言えばナリシアをこの間から見てませんけど、ようやく処刑しましたか?」

「しとらん。ナリシアは先日儂の手紙を持たせて使いに出した所だ」

 僕の僅かな期待はすぐに打ち砕かれたのでした。

「とにかく、この後の衣装作りの工程もしっかり協力して、御披露目会にもちゃんと出るんだぞ。分かったな!」

「それでは私もこれで。また次の仮縫いの時に──」

 そう言って、御爺様と仕立屋は部屋を出て行く。

「それじゃ、僕達も行こうか。あれはちゃんと頼んである?」

「はい、公爵様達に知られないよう、密かに進めるように言ってあります」

「流石はミナだ。じゃあ研究所へ戻ろうか」

 僕は席を立つと、ミナと一緒に部屋の出口へ向かうのだった。




 この後も僕は自殺を、多い時には日に数回試みるのだけど、すっかり監視が厳しくなってしまったせいで、どれも未然に防がれてしまって、世界に平和が訪れる事は無かった。せっかくナリシアが僕の側からいなくなってチャンスだったのに。

 それでも僕は挫けずにチャンスを待ち、御披露目会まであと数日になって、状況は大きく動き出した──




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その日、仕立屋はノルドベルク公爵家に品物を納めるため、馬車に乗って公爵家の屋敷へ向かっていた。

 彼の店は王都でも屈指の高級店で、客が裕福な平民なら向こうから品物を取りに来て、貴族でも男爵・子爵家──いわゆる下級貴族なら店員に届けに行かせる位の格式を誇っていたが、流石に上級貴族、それも最高位の公爵家ともなれば、主が自ら届けに行かなくてはならなかった。

 馬車が商業地区を抜け、貴族の居住地区との境目に当たる川に架けられた橋を渡ろうとした所で、対岸側からフード付きの黒マントに身を包んだ者達が三人現れる。

 御者が知らせて仕立屋が身を乗り出すと、黒マント達は剣を抜いて馬車に向かって来る。

「まずい、引き返せ!」

 御者が急いで方向転換を試みるが、商業地区側からも武装した黒マント姿が四人走って来て、馬車は黒マント達に前後を挟まれる。

「ノルドベルク公爵家へ行くのか?」

 貴族地区側から来た黒マントの一人が訊いて来る。

「そ、そうだが、何が狙いだ?」

 仕立屋が聞き返す。貴族地区から警備兵が来るまで時間を稼ぐため、少しでも長く話を引き延ばそうと試みるが、

「そいつは公爵の孫の御披露目会用の服だな? こちらに渡してもらおうか」

 仕立屋が抱きかかえている鞄を指さし、黒マント達が迫って来る。

「こ、これは確かに公爵様の孫のヴィルマー様が着る御披露目会用の服だが、特注品だから売ろうとしてもすぐに足が付くぞ!」

「我々を金目当ての強盗と同じにするな!」

 仕立屋が諦めさせようとするが、黒マントに怒声で返される。

「我々の目的は、偉大なる神アーヴマン様の神敵に鉄槌を下す事だ!」

 黒マント達は御者を剣の柄で殴って御者台から落とすと、馬車に乗り込んで来る。

「そいつを寄越せ!」

 黒マントのリーダーと思しき男が仕立屋から鞄を奪おうとするが、仕立屋は必死で鞄にしがみついて離さない。

「このっ!」

 リーダーは仕立屋の胸倉を掴むと、鞄ごと仕立屋を馬車から引きずり出す。

 黒マント達は仕立屋を取り囲むと、仕立屋に殴る蹴るの暴行を加える。鼻血に塗れ、仕立屋の力が緩んだ所で黒マントの一人が鞄をひったくる。

「間違いない、これだ!」

 鞄を開けると、中から土、水、火、風で四元素を表す色を散りばめながらも、悪趣味にならないよう調和の取れたデザインを施された子供用のサイズの服が出て来る。

 黒マント達は服を鞄から出すと、剣で何度も引き裂き、地面に捨てると念入りに踏みにじり、更に杖を持った黒マントが火魔法を放つ。

「あぁぁぁぁっ!」

 仕立屋が自身の体で服の上に覆いかぶさって火を消すが、既にそれは『服』ではなく、『服だったもの』と言った方が良かった。

「良し、引き上げだ!」

 服の惨状を確認すると、黒マント達は商業地区側へ撤収に掛かる。が──

「そこまでだ、暗黒神の信徒ども!」

 貴族地区側から四人の少年達が現れると、先頭に立つ背の高い少年が声高らかに叫ぶ。

「何だ、あんたか──」

 ピリピリした様子で振り向いた黒マント達だったが、少年たちを見ると安心したように黒マントのリーダー格がそう言いかけて、

「ムガッ──!?」

 背の高い少年が伸ばした左手で、不意打ちの形で口を押さえられると、右手で抜いた剣で深々と胸を刺される。

「ゴフッ──ウッ、ゴハッ──」

 背中から剣の先が抜け、リーダーはそれでも何かを叫ぼうとする多、口を押さえられた指の間からは咳と血だけが漏れ、間もなくそれも止まって地面に崩れ落ちる。

 残りの黒マント達も応戦するが、他の少年達に剣で切り伏せられ、魔法で燃やされ、ことごとく倒れていく。

 そして貴族地区の警備を担当する兵士達が到着した時には、

「やあ、お役目ご苦労」

 既に黒マント達は全員息絶えており、少年達が余裕の面持ちで兵士達を迎える。

「失礼ですが、どちらの家中の方ですか?」

 少年達の身なりの良さを見て、兵士達を率いる騎士が少年達に身元を尋ねる。

「シュタール侯爵家嫡子、ハインリヒ・フォン・シュタールだ。王立学園の学友達と一緒にノルドベルク公爵家へ向かう途中、暗黒神の信徒どもがあの馬車を襲っている所を見つけたので成敗した」

 服の残骸の側で呆然としている仕立屋の方を指さして、ハインリヒは答えた。

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