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6 ヒーロー


 自分を露払い以外の役割で仲間にする冒険者はもういない。経歴の詐称は処罰の対象になりかねないので、ザックのことを誰も知らないギルドへの移籍という選択肢も閉ざされている。


 ならば単独でクエストを攻略するしかない。


 ウィルと会った次の日からザックは一人でクエストを受注し、ダンジョンに潜り込んでいた。

 B級冒険者のザックは最高でB級クエストが受注できるが、ひとまずは薬草の採集や弱い魔獣狩りといった低級のクエストで肩慣らしに専念することにした。


 今日もまた、一人でC級クエストに挑戦している。


 一人でダンジョンに入るということは、戦闘以外の警戒や野営なども全て自分一人でやらなければならなかったが、さほど苦痛にはならなかった。

 露払いの練習のために単独でクエストに挑戦していたということもあるが、

「よくよく考えたら、いつも一人で全部やってたもんなぁ」


 休憩中の周囲の警戒や拠点となる野営の準備は見習いの仕事として露払いがやるのが慣例となっている。それは方舟においても変わることは無く、いつも警戒や野営を担当していたのはザックであった。

 だから戦闘以外のほとんどのことは一人になったところで支障とはならない。むしろ一人分の準備さえすればいいのだから負担はかなり軽減されている。


 一つだけ問題があるとすれば、

「肉ばっかりはさすがに飽きるな……」

 ザックは料理ができないことだ。


 方舟にいたときは女性陣が料理を担当していたので、ザックがクエスト中に料理を作ることはほとんど無かった。食事も外食ばかりで家でも料理を作らないため、ザックの料理スキルは無いに等しい。肉を焼くことだけは得意なので、今はひたすら焼いた肉がクエストのお供だ。



 討伐対象である口から火を噴く猟犬のような魔獣――フレイムハウンドの群れを狩り終えたところで、ザックは一息ついていた。


「さて、そろそろ帰るか」

 狩りを終えてから一時間近くが経っていた。

 あまり遅くなると日が出ているうちにギルドへ帰れなくなってしまう。疲れた体を動かして野営を片付け始める。

 


「うわあああああああああ!!」


 撤収作業をしていると、ダンジョンの奥からただならぬ悲鳴が聞こえてきた。


 悲鳴から遅れること数分、四人の男たちがこちらに向かってきた。

 剣士に弓使い、盾使いと槍使いであろうか。四人の身なりから彼らがザックと同じ冒険者であると分かるが、どうも様子がおかしい。

 傷を負っているわけではないようだが、その表情からは明らかな恐怖が感じ取れる。


「おい、何があったんだ?」

 何かに怯えている男たちを呼び止めて事情を尋ねる。


「マジックオルトロスが出たんだよ!」

「しかもメチャクチャでけぇやつだ!」

「あんなの勝てるわけがねえよ!」

「こっちへ向かってきてるぞ!あんたも早く逃げた方が良い」

 ひ弱そうな男たちは口早に俺の質問に答えると、全速力でダンジョンの出口に向かっていった。


「マジックオルトロスか……俺も早く逃げないと……」


 マジックオルトロスは、一つの体に二つの首を持つ獰猛な魔獣、オルトロスの亜種である。その大きな体躯と凶暴性もさることながら、最大の特徴は体中に生えている魔石である。


 魔石とはあらゆる魔法を吸収する特殊な石だ。

 魔石の力でマジックオルトロスは一切の魔法を吸収してしまう。魔法使いはなす術なく食い殺されてしまうことも多く、「魔法使いキラー」の二つ名を持つ危険な魔獣である。

 その危険性から、マジックオルトロスの討伐クエストはA級クエストに設定されている。とてもB級冒険者のザックに敵う相手では無い。


 手際よく荷物をまとめ終えたザックはダンジョンの出口へ歩き始めようとした。


 しかしその時、

「きゃああああああっ!」


 先ほどの男たちがやって来た方から、女性のものと思しき叫び声が聞こえてきた。

 しかし、さっきとは違いこちらに向かってくる人影はない。


「――逃げ遅れた奴がいるのか?」


 助けに行くべきだろうか。


 今のザックが救出に行っても助けられるか分からない。下手に魔獣を刺激してしまい、事態を悪化させてしまう可能性もある。

 そして、何よりザック自身の身を危険にさらすことになる。


 ギルドが階級制度を導入しているのは冒険者の命を守るためである。S級からF級までの7段階の階級を設定し、自分の階級を超えるクエストへの挑戦を禁止することでそれを実現している。


 だからB級冒険者のザックがA級レベルのマジックオルトロス相手に逃亡してもそれを咎める者はきっといない。たとえ目の前に助けを求める人がいたとしても――



 違う。


「そんなのは……俺が憧れた冒険者の姿じゃない!」


 ザックの脳裏には少年時代の自分の姿がよぎった。人々の生活を脅かす魔獣を狩る英雄に憧れていたころの自分だ。

 あの時の自分なら危険を顧みず助けに行ってたはずだ。助けられるかどうか、自分が助かるかどうかは関係ない。ザックが憧れたヒーローは、きっとそんなこと考えない。


 大事なことを思い出したザックはダンジョンの奥、叫び声がした方へ向かっていた。


 マジックオルトロスを倒せる自信は無い。頭の中はオルトロスへの恐怖と不安でいっぱいだった。それでもザックの足は動きを止めることはなかった。



 木々が生い茂る森林地帯を抜けると、開けた場所に出た。


「あれは……!」

「はぁ……はぁ……」


 ザックの目前では、白いローブに身を包んだ金髪の少女がマジックオルトロスと戦っていた。



 続きは明日投稿します。

 話の展開が遅いと感じられるかもしれませんが、ここからお話が展開していくので、興味を持っていただけましたらどうかお付き合いください。


 本作品とは別の短編も昨日投稿していますので、そちらも見ていただけると嬉しいです。

 こちらはコメディ寄りなので、本作品とはかなり作風が違いますがお楽しみいただければ幸いです。


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