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43 VS雷嵐龍 前編


「でっけぇ……あんな大きさの魔獣初めてだよ……」

 ブレイが雷嵐龍の影を目の当たりにして率直な感想を口にする。


 まだ雷嵐龍はこちらを認識できないほど離れているが、遠くからでもその姿ははっきりと見えている。


「お顔は確かに龍っぽいですけど、これでは龍というよりも怪獣ですね」

「カイジュウ……?アヤメの世界にはこんな化け物みたいのがいたのか?」

「全部フィクション――創作の中の存在ですけどね。人類の味方の場合もありますけど、ほとんどは敵として描かれていました」


「ちなみにその創作の中で怪獣はどうやって倒されてたんだ?」

「怪獣と同じくらいの大きさの光の巨人がやって来て倒してくれるのが最もポピュラーですね。もちろんこちらも創作の産物です」

「この世界にも光の巨人とやらは来てくれないのかね」

「そんな不確かな存在に頼り切りになって痛い目を見るというエピソードがありましたね。ギリギリまで頑張って、どうにもならない時じゃないと来てくれないらしいですよ」

「随分と人間に厳しい巨人様だな」


 だが、当てにならないものに頼らないという作品の教訓自体には共感できる。冒険者になって五年半。希望的観測が当たったことなんてほとんど無い。想定よりも悪いことの方が圧倒的に多いのだ。おそらく今回もそうなのだろう。




「アヤメさん!そろそろ魔法の射程距離に入るんじゃないっすか?」

 雷嵐龍との距離はかなり近づいていた。ブレイの言う通り、この距離ならばアヤメの魔法が正確に届くだろう。


「いきますっ!……ふぅ……【フリージング・バナザード】!」


 大きく息を吸い込んだアヤメは両手を雷嵐龍の前に翳して魔法を唱える。

 アヤメの目の前に現れた魔法陣から青白い光が放たれる。光は瞬く間に、雷嵐龍の両足を地面ごと氷漬けにしていく。

 両足を氷で固められ、前進ができなくなったところで雷嵐龍はこちらの存在に気付く。


 ガアアアアアッ!!


 こちらに向けて咆哮で威嚇してきたかと思えば、自分の足元目がけて口から光弾を放った。

 紫電を纏った光弾はいとも容易く、自らを縛る氷を吹き飛ばす。


「アヤメの魔法が全然効いてない奴なんて初めてだな……」

「やっぱり今の雷嵐龍は激昂状態……」


 バーナードの話によれば、雷嵐龍には氷属性の攻撃が有効であるらしい。激昂状態でなければ動きを封じることができたかもしれないが、残念ながらその目論見は早々に潰えた。アヤメが言うように、雷嵐龍は激昂状態にあるとみていいだろう。


「そういうわけだ。アヤメ、俺の防御力を上げてくれ」

「絶対に死なないでくださいね」

「大丈夫だよ、アヤメの魔法が守ってくれるって信じてるから」

「分かりました……【サバイビング・ブースト】!」


 アヤメが魔法を唱えると、ザックの体は赤い光に包まれる。心なしか体が少し重くなったような気がする。


「それじゃあ行ってくる!お前ら、アヤメのこと頼んだぞ!」


 四人が後ろの下がったのを確認して、ザックは雷嵐龍の左足目がけて走り出した。


(まずは俺だけに注意を向けさせる……!)


「【迅雷断】!」


 渾身の力で斬りつけた第一撃は鱗を切り裂くも、その奥の肉までは殆ど傷つけることはできなかった。その証拠に刃には全く血が付いていない。


 だが注意を引くことには成功した。


 雷嵐龍は足元のザックを睨みつけ、斬られた左足でストンピングをしてきた。巨大かつ鈍重な体のせいか。動きそのものは遅く、容易に躱すことはできる。だがその圧倒的な質量から生み出される大地の振動と風圧までは躱しきれない。思わずよろけそうになるが、重心を低く落とし、衝撃に耐える。


「ザックさん!さっきの光弾がまた来ます!」


 気を抜く暇もなく上を見上げると、足元を見る雷嵐龍の口がバチバチと帯電していた。


「まずいっ!」


 光弾が放たれると同時に右側に跳ぶ。俯せに倒れ込む形となるが、辛うじて回避には成功した。頭上を光弾で吹き飛ばされた石の礫が飛んでくる。


(ギリギリだな……早く体勢を立て直さないと――)


「……!ザック!目の前!」


 立ち上がろうと片膝をついた瞬間のことだった。アヤメの声が耳に入ると同時に視界に入ってきたのは、横長に伸びた雷嵐龍の尻尾であった。

 避けるのは間に合わない!やむを得ず両腕を体の前でクロスさせて防御態勢をとる。


「ぐうっ!?」


 アヤメの魔法のおかげでダメージはそれほど大きくはない。だが巨大な尻尾で薙ぎ払われれば体は吹き飛ばされる。


「っつぅ~」


 威力が軽減されているとはいえ、多少の痛みは感じる。掌を何度か閉じ開き、骨が折れていないことを確認する。

 後方のアヤメ達は心配そうな表情を浮かべている。


「来るなよ!俺が吹き飛ばされた意味がなくなる!」

 今にもこちらに駆け寄ってきそうだったので、改めて釘をさす。


「作戦続行だ!アヤメは俺への回復魔法と補助魔法を継続!ブレイ達はアヤメのサポートだ!絶対にこっちに来るな!」


 四人に強く言い放ったところで雷嵐龍の方へ向き直る。

 雷嵐龍はこちらを向いている。幸いにも雷嵐龍の意識は引き続きザックにのみ向いているようだ。


「お前の相手は俺だ。ここから先には進ませねえよ」

 言葉が通じないであろう雷嵐龍に、刀の切先を向けて宣戦布告をする。

 いつ終わるかもわからない戦いの火蓋が切って落とされた。



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