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3 ファーストコンタクト

3/2 口調がおかしかった部分があったので修正しました。

 テリーが新メンバーを探している間、ザックは単独で低級クエストに挑戦していた。


 ザックは以前から露払いの役割を完璧にこなすために、こうして単独でクエストに挑戦しては己の腕を磨き続けている。


 そのおかげでつい先日、ザックは個人の冒険者としてもB級冒険者に昇格することができた。


 パーティの階級とパーティに所属する個人の階級のうち、より高い方の階級を上限としてクエストへの挑戦が認められている。

 つまり今のザックは単独でもB級クエストに挑戦することができるようになったが、魔法が使えないザックが一人でB級に挑む予定は今のところはない。


 それに方舟は間もなくA級パーティに昇格する。単独でB級クエストに挑戦する余裕などきっとなくなるだろう。


 魔法が使えないザックが冒険者として食っていくには、誰かとパーティを組む他ない。魔獣の中には魔法攻撃でしか倒せない種族が一定数いるからだ。

 しかしザックを受け入れてくれているのは、露払い扱いを続ける方舟しかいない。


 方舟での存在価値を守るため、ザックは露払いとしての能力を高め続けなければならないのだ。


「クエストお疲れ様でしたー!こちらが今回の報酬となりまーす」

 自分よりも若い受付嬢から報酬の銀貨を数枚受け取り、ギルドを後にする。


「確か明後日だったよな。新メンバーがこの街に来るの」


 数日前、自宅を訪ねてきたテリーが喜びを隠しきれないほど舞い上がっていたのを思い出す。

 彼は僅か十日ほどの間に様々な街のギルドを巡り、その中で優秀な冒険者のスカウトに成功したらしい。


 仲間が増えたところでザックの役割はおそらく変わらないだろうが、それでもやはり緊張はするものだ。

(ちょっとでもいいから俺の意見を受け入れてくれる人だといいなぁ)

 淡い期待を胸に抱きつつ街道を歩いていると、一人の少女の姿が目に入った。



「あれは確か……転生者の――」

 目の前にいたのは、A級パーティ【ファンタジスタ】に所属する魔法使いのアヤメであった。

 以前酒場で見かけた時と同じで、みすぼらしい白のローブに身を包み、辺りをキョロキョロとしている。


(何か探してるのかな?)

 アヤメの表情はどこか困り果てているようにも見える。


 行き交う人たちは彼女の様子に気付いていないのか、あるいは気付いていないふりをしているのか。彼女の横を通り過ぎていくだけだ。

 アヤメの顔立ちは非常に整っているが、服装がボロボロで訳アリのようにもみえる。彼女のことを知らない人からすれば、厄介事に巻き込まれるのではないかと考えてもおかしくはないだろう。

 冒険者であることを知っているザックであっても、素性をほとんど知らない人なので声を掛けづらい。


(かといって見過ごすのも何だか悪い気がするしなぁ……)

 パーティが違うとはいえ、アヤメは同じギルドに所属する冒険者だ。広い意味で言えば彼女も同じ職場の同僚だ。同僚が困っているのを見過ごすのもいささかモヤモヤする。

 心の中で意を決したザックはアヤメに声を掛ける。


「何か探しているのか?」

「…………あっ!私に話しかけてるんですか?」

 ワンテンポ遅れてアヤメから声が返ってくる。

「そうだよ。何か探しているような感じだったから……」

 アヤメを驚かせないように、できるだけ声を優しく丁寧にして尋ね直す。


「その……クエスト用の資材を買いに来たのですけど、お店の場所が分からなくて……」

「仲間に聞いたりしなかったの?」

「えっと……皆さん『ラビットファーム』って場所に行くらしくて……クエストが終わるとすぐに解散になってしまったので……」


(仲間が困ってんならさぁ。酒飲み行くのくらい少しは我慢してやれよ……)

 ザックは内心でアヤメの仲間に毒づく。


 ラビットファームというのは、可愛い女の子と一緒にお酒を飲む夜のお店だ。

 ザックはお金の無駄だと考えるので一度も行ったことは無いが、リーダーのテリーはラビットファームの常連客らしい。


 クエストで稼いだ報酬を如何様に使うのも自由だとは思うが、仲間が困っているのならせめて手助けをしてやるべきではないか。

 身近な存在に助けてもらえなければ、アヤメが困り果てるのも仕方がないだろう。


「どんな資材を買いたいの?」

「お店の場所知ってるんですか!?」

「俺も冒険者だからね」

 そう言って腰に携える刀を見せる。


「刀……この世界にきて初めて見ました」

 ザックの刀を見て、アヤメは目を見開いて驚きの表情を見せる。

「へぇ……刀のこと知ってるんだ」

「はい。写真では見たことあるんですけど、本物を見るのは初めてです」

 この国で剣と言えば、諸刃の剣が主流である。片刃の刀は異国で作られたものらしく、冒険者や騎士団の間でも認知度は低いのだ。

 ひょっとしたら刀はアヤメのいた世界から伝えられた武器なのかもしれない。色々聞いてみたいとも思ったが、話が脱線し始めていることに気付いた。


「――っと。それよりも今は君のことだ。早くしないと店じまいになる」

「は、はいっ……その……節約をしたいので、できるだけ安価で揃えられるところがあると聞いたのですが」

「あー……多分あの店かな?」


 ザックの頭の中には一か所心当たりがあった。冒険者になりたての新人がこぞって訪れる店だ。比較的安価でクエスト用の資材が揃えられることで有名なのだ。かくいうザックもかつて何度か利用したことがある。

 ただし、一つだけ問題がある。


「場所は分かるけど、あんまりおすすめはしないよ?」

「どうしてですか?」

「全体的に品質が良くないんだよ。装備品も長持ちしないし」


 安物買いの銭失いをあれ程までに的確に表現したお店もそうそうない。

 回復薬は一本飲み切ってもさほど傷が癒えず、結局普通なものを一本買ったのと出費が変わらない。剥ぎ取り用のナイフもすぐに切れ味が落ち、何度も買い替えなければならなくなる。

 結果として使うお金は他のお店とさほど変わらなくなるのだ。


「そ、それでも安いお店の方がいいんです……」

(お金に困っているのかな?A級パーティにいるのに……)


 どうやら何か訳がありそうだが、初対面の人にあまり突っ込まれた話をされても困るだろう。ここはあえて触れず、彼女の希望を叶えることにしよう。


「分かった。ここから歩いて数分くらいだから」

「案内していただけるんですか?」

「この後何も予定ないし、すぐに終わるからね」

「ありがとうございます!」


「安い……!銅貨十枚でこんなに買えるなんて……」

 数分後、無事に辿り着いたお店でアヤメは目を輝かせている。

 彼女の姿を見ていると、冒険者になりたての頃を思い出す。五年前のザックも今のアヤメと同じように目を輝かせていた。

 数日後に性能の悪さにがっかりするところまでがワンセットだ。


「本当にいいの?このお店で?」

「はい。物足りない部分は魔法でカバーするつもりなので」

 そういえば彼女は魔法の天才だった。多種多様な魔法が使えるらしいので、回復薬や罠のような資材は彼女にはふようなのかもしれない。正直その才能が羨ましくて仕方がない。


 そんなことを考えていると、アヤメがこちらに向かってお辞儀をしてきた。

「助けていただきありがとうございました。そのお礼は後日で――」

「いいよこれくらい。たった数分だし」

 お金に困っていそうなアヤメから何かしてもらうのは良心が痛む。適当にあしらうことにしよう。


「ですが……」

「いいのいいの。それじゃあ俺用事あるから」

「ち、ちょっと……!さっき予定は無いって言ってたじゃないですか」

 彼女の指摘を聞き流しながら、来た道を戻る。


 アヤメほどの才能の持ち主ならば、近いうちに王都ギルドからお声がかかるだろう。下働きを続ける今のザックとは天と地の差がある存在。二度と線が交わることは無いだろう。


「まっ、俺のことなんてすぐに忘れるだろ」

 アヤメと関わるのはこれが最初で最後。この時はそう思っていた。


続きは1時間後に投稿します。

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