28 みんなの希望
本日最後の投稿です。
「ザック、おはようございます。それと、昨日はご迷惑をおかけしました」
すっかり体調がよくなったらしいアヤメは朝食を配膳する手を止めて、寝室から出てきたザックに頭を下げる。
「おはようアヤメ。あれくらいの看病なんて大したことないんだから気にしなくてもいいよ。それに昨日言っただろ。俺たちは同じ夢を目指して共に支え合う仲間だ。こういうときは謝るんじゃなくてさ――」
「そうでしたね」
昨日、お互いの内心を見せ合ったザックとアヤメは、ある誓いを立てた。
「魔獣を倒してヒーローになる」というザックの夢と、「自分の力で誰かの希望になる」というアヤメの夢は、冒険者という仕事に限ればその中身には大差がないものである。
そこでザックとアヤメは「『二人で』みんなの希望となる」という共通の夢を立てることにした。
相も変わらず掴みどころのない抽象的な夢ではあるが、ひとまずは困っている人たちのために冒険者としてクエストをこなし続けていくことで二人の思いは一致した。
そしてその夢を叶えるために、クエスト中だけでなく家にいる間や日常の些細な事であっても共に協力し合っていくことを誓い合ったのだ。
それぞれが頑張るのではなく、二人の夢の実現のために協力し合う。
アヤメはザックのために戦うのではなく、ザックと共に戦うことを選んでくれた。
「昨日はありがとうございました。今度ザックが倒れた時の看病は任せてくださいね」
お互いに助けられることがあったら、申し訳なさそうに謝るのではなくお礼を言うこと。二人が協力していくために決めたルールの一つだ。
ザックとアヤメは背中を預け合う仲間だ。お互いを助け合うのは当然のことなのだから、それを申し訳なく思う必要はない。感謝の気持ちを忘れないように、それを伝えてくれれば十分だ、とザックが提案したのである。
「その前に病気で倒れないように健康な食事を作ってくれよ」
「そうですね。でも体調を崩す理由は何も食事だけではないのですよ?無理を続けてもダメなんですからね」
「分かってるよ。目の前にいい例がいるからな」
「ううっ……何か困ったことがあれば、これからはちゃんとザックに相談します……」
昨日の体調不良をつっつかれたアヤメはしょげた顔になったが、今後はザックを頼ってくれるそうなのでもう大丈夫だろう。
「よし、さっさと朝食を食べてギルドに行こう。病み上がりができるクエストが無くなっちまう」
「そうですね。それじゃあいただきましょうか」
「いただきます」
椅子に座って手を合わせたザックは、アヤメお手製のリンゴのジャムが付いたパンにかぶりついた。
一月前は仲間から見捨てられ、冒険者を辞める瀬戸際までいっていたのが嘘のように、今のザックは希望に満ち溢れている。
ザック一人の力だけではできないことも、アヤメと二人なら不可能なんてないとさえ感じる。方舟の連中とは決して違う。お互いを信じ合い、背中を預けられる仲間。彼女と一緒なら最上級のS級冒険者も夢ではないかもしれない。
そんなアヤメとの出会いは人生で一番の幸運だったといえよう。
そう思うと、無性に感謝を伝えたくなった
「ありがとな。アヤメ」
「?……どうしましたか?」
「何でもないよ。お礼が言いたくなったんだ」
首を傾げるアヤメをよそに、ザックは残りのパンにかぶりついた。
今回で第一章が終わりとなります。
明日以降も更新をする予定ですが、個人的な事情で一日に一、二話しか更新できなくなる予定です。
小説投稿を始めて一週間。少しずつではありますがこの作品を見ていただいている方が増えていったのがとても励みになりました。
第2章はザックとアヤメの距離が色んな意味で近づいていくお話です。
登録タグの要素を回収していく予定なので、タグ検索でこの作品を見つけてくださった方たちにはお楽しみいただけるかと思います。
まだまだこの作品を見てくださっている方は少ないですが、多くの人に愛される作品にしていきたいと思っています。
面白い・続きが気になると思って頂けた方は、評価・ブックマーク登録して応援していただけると嬉しいです。
これからもこの作品並びにやまたいこくをよろしくお願いします。