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2 異世界からやってきた少女

 ギルドで手当てを終えたザック達は、行きつけの酒場で今日の反省会兼これからの対策会議を開いていた。


 多くの客で賑わう酒場の中で、ザック達のテーブルだけが重苦しい雰囲気に包まれていた。

 今後のパーティについて様々な案が出たが、どれも全員の同意を得るまではいかず、会議はすっかり行き詰ってしまった。


 ちなみにザックは「自分も前線に加えて、攻撃力を上げてみてはどうか」という提案をしたが、テリーから「お前には無理だ」と一蹴され、以後ザックは何も提案することは無かった。これでもC級以下の魔獣であればほぼ全て一撃で倒せるのだから、一度くらいは試してほしいものなのだが――


 頭を抱えていると、周りの客たちがざわめき始めた。彼らの視線は今しがた酒場に入ってきた五人組に注がれている。


「あれは確か……【ファンタジスタ】だっけ。最近A級パーティに昇格したらしいわよ」

「ファンタジスタってこの間までC級パーティじゃなかったっけ?」

「何でも凄腕の魔法使いが加入したらしいわ。ほら、あの女の子よ」

 方舟の中でも一番の情報通であるユーリが、スフィアの疑問に答える。


 ファンタジスタの面々を見てみると、いかにもひ弱そうな男4人の中に見目麗しい女性が一人紛れ込んでいる。


 さらさらとした金髪は腰の長さまで伸ばしており、歩く度にふわりふわりと揺れている。

 大きな瞳に整った鼻と可愛らしい唇、顔立ちも非常に整っており、その美貌は舞台女優顔負けだ。それでいて手足は冒険者と思えないほど細く、スタイルも良い。身に纏う白いローブは汚れが目立ちみすぼらしさを感じさせるが、服装のマイナスを打ち消すほどの輝かしさがある。


 店中の男たちの視線はすっかり彼女に釘付けになっている。ザックの隣に座っているテリーもすっかり彼女の虜のようだ。鼻の下を伸ばし切っている。


 そんなテリーに、ユーリ、スフィア、ウィステリアの女性陣三人は白い目を向ける。


「……んんっ。にしても彼女一人が入ったからといってC級がA級になれるものなのか?俺たちでさえB級で足踏みしてるのに」

 ユーリたちの視線に気付いたテリーは咳払いをして、話題を逸らそうと試みる。


「どうやら彼女、――確かアヤメちゃんっていうらしいけど、どうも転生者らしいのよ。攻撃魔法は全属性使えて、回復魔法や補助魔法も完璧って噂よ。しかも魔力は普通の魔法使いの数百倍らしいわ」

 同じ魔法使いであるユーリが羨ましそうにする。


 彼女の言葉が真実ならばファンタジスタの躍進にも説明がつく。

 

 この世界には時折、「転生者」と呼ばれる異世界出身の人間が現れることがある。そして転生者には決まって何かしらの才能があるというのがもっぱらの噂だ。転生者の才能は剣技や弓矢の扱いなど戦闘用のものから、政治や商売に関わるものまで多岐にわたると聞く。

 おそらくアヤメという女の子には魔法使いの才能があったのだろう。


 魔獣に対して的確な攻撃ができて、仲間のサポートも可能な魔法使いがいれば、他のメンバーがどんなに弱くともクエスト達成は不可能ではないはずだ。


「うちのパーティにも転生者がいればなぁ……」

 ファンタジスタの転生者を眺めながら、ウィステリアが羨ましそうにボソッと呟く。


「それだっ!」

 テリーがウィステリアを指差しながら大声を出しながら勢いよく立ち上がった。

 あまりの勢いにウィステリアはビクッと肩を跳ねさせる。


「……どういうこと?」

「まさか転生者を探すってこと?」

 スフィアとユーリが首を傾げると、テリーは意気揚々と語り始めた。


「転生者じゃなくてもいい。とにかく格上の冒険者に加入してもらうんだよ!S級でもA級でもいいからさ!経験豊富な冒険者が入れば俺たちもA級になれるはずだ」


 テリーの言う通り、A級まであと一歩のところにある【方舟】に強力な冒険者が加われば、A級パーティになれることは間違いないだろう。


 しかし、デメリットが無い訳ではない。

「六人パーティになったら分け前がかなり減るんじゃないのか?」


 一人メンバーが増えるということはその分、報酬の分け前が減ることを意味する。しかも単に分け前が減るだけではない。回復薬などクエストに必要な資材も増えるため、さらに各々の取り分が減ることになるのだ。


 ザックの反対意見に他のメンバーもうんうんと頷く。


 それでもテリーの自信は少しも衰えない。


「ザックの言うことも一理ある。だがA級パーティになれば高報酬のA級クエストを受注することができる。それならみんなの取り分は十分にあるはずだ」


「確かにテリーの言う通りね」

「A級クエストの報酬はB級クエストの二倍以上らしいから十分おつりがくると思うわ」

「そうだね、私も新メンバー入れるの賛成!」

 テリーの意見に、ザック以外の三人も納得してしまったようだ。


 こうなってしまえば、パーティの中で一番の格下である露払いのザックになす術はない。

 納得はいっていないものの、ザックも静かに首肯する。


「決まりだな。とりあえず候補は俺が探しておくから、新メンバーが見つかるまではみんな休んでいてくれ」

 かくして反省会はお開きとなった。


(足元を見られなければいいけどな……)

 ザックは一抹の不安を抱えたまま帰宅の途に就いた。


 続きは明日に投稿します。明日は多めに投稿できそうなので、引き続き閲覧していただけたら幸いです。


 あとこの作品とは全く関係ない短編も本日投稿していますので、よろしければご覧ください。

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