出航、長き宇宙の旅
暗い宇宙に白銀の巨大な装置が浮かび、周りには多くの宇宙船。これを昔の人が見れば卒倒するだろう。
今から54年前、人類は宇宙に新たな故郷を作り上げたことから始まった宇宙歴は、長い戦争を乗り越え新たな段階へと移行した。宇宙歴54年。人類は初めて遠く離れた星系の開拓に着手した。2期に分けられたこの計画の1期目で出発して行った人たちは多くの宇宙船に乗りこみ意気揚々とワープゲートを潜り、人類の第二の故郷とも呼ばれる宇宙都市を建造したそうだ。
俺はその開拓の2期団としての厳しい教育と訓練を受け、首席の地位を得ることができ、1区開拓αチーム指揮官に任命された。そして今、俺はブリッジで出発のための用意をしている。
「リアーク、ワープエンジン出力確認、超速航行用意急げ。ヴェル、艦隊のAIへの命令はできたか?」
「ワープエンジン出力安定。2番、3番艦も安定域。ノーマルエンジンアイドリング、ロングワープ航行準備完了、いつでも行けるぜ」
「艦隊リンククリア。2、3番艦AIへの命令完了、自動ワープ航行システムの設定も完了、後は進入許可待ちだよ」
ブリッジの外では次々に他の開拓チームがワープゲートを潜って行っている。拠点を作る場所は事前に通達され、ワープゲートの開通先もそれぞれに割り振られているとはいえ、俺たちが周りから遅れていることには変わりない。
送られてくる行き先周辺のデータに目を通しながら、仲間たちに指示を出していく。
「ガルシア、兵装点検は?」
「問題ない、いきなり宙賊が出てもぶちかませる!」
「よし。ワープゲート通過管制センターから通信は!」
「管制センターから、「貴艦隊の通過順は現在通過中の艦隊から数えて10番目、スムーズな管制の為、準備出来次第連絡を求む」とのこと」
「わかった、クラムとユウナの方はどうなっている?」
「ミナト、気持ちはわかるが落ち着け。緊張が伝わってきてるぞ」
その声を聞いて初めて肩に力が入っていたのに気づいた。一言謝った後、緊張をほぐすために一度深呼吸して周りを見る。
「落ち着いたな。こっちは物資搬入が終わった。ユウナの方も「汎用UAVの用意ができた、向こうに着いたらすぐ動かせる」と言っていたよ」
「わかった。ユウキ、簡易操舵モードに切り替えていい。航行は待機だ」
「りょーかい。Command AI. Changed the steering mode setting from "manual operation" to "simple steering mode". Navigation is on standby.」
『Accepting orders.Set to simple steering mode, standby for navigation.』
これで出発の全ての準備が完了した。後は管制からの進入許可を得るのみだ
「プレメア、管制センターに繋いでくれ。」
「わかりました。管制センターに接続……完了。繋ぎます」
『こちらワープゲート管制センター、あなたのチームの登録コード及び担当区域を求む』
「登録コード、SPK01。担当区域は1」
『登録情報確認。1区担当、アルファチームですね。現在あなたの通過順は現在通過中の艦隊から数えて9番目です』
「出発に関する全ての準備完了。前のチームの中で出発準備中の艦隊がいるならば順番の繰り上げと進入許可を要求する」
『要求を了解。通過順を繰り上げ……3番目への繰り上げが可能です。どうしますか?』
「3番目への繰り上げを要求」
『了解、3番目に繰り上げます。アルファチームへの管制を開始、ゲート前待機ポイントCへの直通航行を許可。移動終了後報告を』
「了解。ゲート前待機ポイントCへの直通航行を許可、移動終了後報告する」
通信を切り、ヘッドセットをフックに掛けて立ち上がる。仲間達の視線が俺に集まった。
「これより、我々アルファチームは遠く離れた新星系へと出発する。これまでの訓練と教育はプロローグにすぎない、ここからが本番だ。俺たちの目的は星系の開拓。俺たちならばなんだってできる、この宇宙に俺たちの名を示すぞ!」
「オー!」
「艦隊出航。進路はワープゲート待機ポイントC、コース直通」
「進路ポイントC、直通航行!」
号令と共に3隻の多目的フリゲート艦からなる俺たちの艦隊が動き出し、港を離れてワープゲートを目指す。
「いよいよだな。無事に着けると思うか?」
「大丈夫だろう、基本的にはどのチームも外縁寄りか都市周辺の位置に飛べるようになっているからな。」
「もし出てきたらぶちかましゃいいだろ」
「管制センターから通信。次が私たちの順番みたいです」
「了解、ポイントCまでは後何分だ?」
「後3分と言ったところだな」
「プレメア、直接進入の許可申請を。クラム、ユウナを呼んできてくれ。ワープゲート進入後、ブリーフィングだ。」
「わかった。すぐ呼んでくる」
クラムがブリッジから退出し、プレメアがゲートへの進入許可を管制から得る。間もなく長い旅の始まりだ。
「管制センターから通信。スピーカーモードにせよとのこと」
「わかった。リアーク、ユウキ、進入前最終チェックは?」
「終わってる。いつでも進入できるぞ」
「よし。プレメア、艦内放送で繋いでくれ」
一度外したヘッドセットを付け直して通信を繋いでもらう。無線の先は俺の父でもあるマーク開拓団統制長官だ。このタイミングだ、開拓団の総責任者という役としての通信だろう
『アルファチームだな?私は開拓団統制長官、マークだ。』
「感度良好。アルファチーム指揮官、ミナトです。」
『通信クリア。君たちの出立前に長官として一言を。修了の時にも伝えたが、この地に帰れる保証のない開拓計画に参加してくれたことにはとても感謝している。我々も本来手伝いたいところではあるが、我々はこの場を離れることができず、現地の部隊も法によって宙賊討伐以外には支援ができない。よって、君たちの身は自分自身で守ってもらうほかない。だが君たちにはその力がある。他の開拓団と共に勢力を作ってもよし、単独勢力として開拓をしていくのもよし、しかしその力を間違った方向に使わないことをお願いしたい。以上だ。』
「胸に刻み行動します」
『では、健闘を祈る。オーバー』
通信が切れ、艦隊はワープゲートへの誘導に乗る。進入前の最後の準備だ
「総員、これより艦隊はワープゲートへ進入し現地へと向かう!ワープ航行用意!」
「ワープエンジン出力、航行モードに設定。ノーマルエンジン出力、ワープ航行出力への調整完了!」
「兵装格納完了、ワープ航行への移行用意完了だ!」
「自動ワープ航行システムの座標設定は終わってるよ」
「航路セットクリア、進入開始!」
船は加速し、ワープゲートを潜る。周りの景色が瞬時に変わり光が流れていくような光景になっていく。そしてAIの自動航行が始まった。