死

人間は、死を恐れる

それは、正しいことだ。

死してなお生きることはまず不可能だし、それは矛盾する

死ということは、魂がなくなることだと私は思う。

生命活動を終え、そしてその後の展開は宗教にもよるが

私は、記憶を除去された後、赤子として他の物語に入るのだ。

しかし、本当に恐ろしいのは、死ではないように思える。

この世の中には、死よりも恐ろしいものが確実にある。

私は、タイピングするための手を失うことが怖い

今まで見えていた世界が見えなくなるのが怖い

知っていた人間が死んでゆく様を見るのが怖い

本当に怖いのは己の死ではない。

死とは一瞬で、その過程が非常に長いのだ。

今まであったものが、意識を落とす瞬間にただその瞬間に崩れていく

それを見ることも、意識することもできない。

それが生命の終わりである。

一方で、失ったものを取り戻すというのは非常に難しい。

人を蘇らせることは難しい、化学でも、目や手を取り戻すことは難しいと考える。

すなわち、本来の死は己の望むことをできなくなった瞬間に訪れるものなのだ。

一方で、生命の死というのは行動を行えるリミットに過ぎない。

人は、常にそのリミットを刻んでいて、そして生命の死へと近づく

仮にリミットがなければ、それは真なる意味での絶望と苦悩を覚えることになると思う。

たとえ話をしよう。

もし、自分一人が無限の寿命を持つとすれば。

それは、とても幸せなことに思うだろう。

事実私だってそう思う。

しかし、それはある意味で絶望だ。

本来人は、死というリミットに恐怖する。

事実私も、自分が死ぬ瞬間というのに怯えながら暮らしている。

しかし、逆に自分が死なないということに怯えだすのだ。

立場などもあるかもしれないが、本質的な恐怖はそこではない。

世界というものが目まぐるしく回り、繫栄しては崩壊する様を常に目の前で見ることになるのだ。

それは、真なる意味での恐怖のように私は思う。

崩壊する様というのも、様々だ

それが己の作った世界なのか、それとも他の人間が作ったものなのか

例えば、それが目の前で友情によって繋がれていったものであれ、それを守ることは難しい

戦争などが起これば、永遠の命のある己を置いて皆が川の先へ行ってしまう。

それを見ながら死にゆくことはできない。

本質的な死は来ない。

そして、生命的な死も来ない。

ただただ、その絶望に明け暮れるのだ。

それでも、不死を望むのだろうか。

そうだ。不死といえば不老も来る。

不老不死というやつだ。

永遠の若さと永遠の寿命。

それは、人間には到底不可能だが

仮に自分がそうだとしたら。

人生というのはやり直しがある。

それは、すなわち転生であり。

はたまた、生命のある中でもそれを体験することはできる。

一方で、そのやり直しが仮に不老不死であれば効かない。

その場合、いっそ教祖となるのが正しい。

目の前の神と不老不死の教祖となることで、導いてゆくのだ。

そうすれば、さして己の寿命や不老に恐怖することはないだろう。

様々な困難はあるだろうし。

周りの人間との別れもあるだろうが。

選択としては間違いないように思える。

宗教とは誰かを支えるものであり。

己を支えるものだ。

時には、その身を苦しめることになるが。

その見返りとして、救われたという実感を得ることができる。

本質はそこにあるように思える。

信じることで救われると同時に、教祖は対外的には誰かを救った実感を得ることができると私は感じる。

そこに、形式はいらない。

ただ、その空間が必要だ。

神秘的な、壺に絵画、どこか不思議と目を引かれ耳を引かれる雰囲気を醸し出した場所で

永遠を約束された自分が、教典を読む。

信じることで真なる意味で救われるわけではない。

何故なら、救いとは絶望の終わり

すなわち人生の終わりに近いと私は解釈するからだ。

これは前述に意味がある。

幸も不幸も、人生の中で生まれていくものであり。

死してなおそれは続かない。

果たして、死んだ人間に絶望はあるだろうか。

否、その感覚はない。

仮に魂がそこに滞留していても、それは身体ではない。

痛みがなければ、知ることもできない。

体裁上かもしれないが

人は命を終えて死を迎えた時点で終わりだ。

そうだ。

もひとつ仮の話をしよう

仮に、周りの人間も無限の命であればという話だ。

もしそうだとしたら、夢のようだろう。

終わりがないのだから。

一方、終わりがないと約束されることは絶望なのだ。

なるべくわかりやすい例えをするならば。

仮に、夏休みが4か月あれば、君はどのタイミングでするだろうか。

否、他にもなにかわかりやすい例えがいる。

例えば、君がある研究をする

それには、今期限がある。　それは寿命である。

一方で、無限に寿命があればその研究は無限にできる。

さぁ、君は真面目に研究するだろうか。

きっと、できない人が多いように思える。

良く人は、過去にもどったら...という話をする。

一方で、私は過去に戻っても、真面目に勉強なんかしないだろうと考える。

これは、他人への啓発や軽蔑的なものではない。

己への核心だ。

口では何とでも言うが、私は学生生活を無駄にしてしまう自信がある。

これは、確実なものだ。

私は、世界を何度見ても同じ選択を取る。

己の怠惰を知っているから尚現状を変えない。

これがどんな未来を招こうともきっと似た選択を取ってしまう。

これが無限の恐怖だ。

人は無限を知ると怠惰になる。

期限がないというのは、期限という縛りを取っ払うことで。

実質的に期間を考慮せずに行動ができる。

その代償として、緊迫感や切迫感がなくなり。

先にできる、そしてもっと先にできる。

無限にあれば、いつまで先だろうが構わない。

そして、文明が終わる。

仮に一人が、それはおかしいと言っても。

おかしいのはその一人なのだ。

だから、進まない。

進まない。進まない。進まない。

そして、止まる

止まれば後は後退していく。

そう考えるのが人間の常であると勝手に認識している。

人にとって、死とは重要である。

その期間でいかに、世に何かを残し。

そして、世で活躍できるかが問われる。

もし、何も残せなくても、人生は次がある、

記憶のない別人だろうが、私はその前の人生で何か行動を起こした偉人を尊敬する。

ただ、それになるために努力をすることで。

死という恐怖は乗り切ることができる。

本当の死とは一方で、そこにはない。

だから、我々には選択肢がある。

そして、それを常に選択し続けることこそが。

我々の権利であり義務なのだと考える。

もし、明日君が生命的な死を迎えるとすれば

その一日で何ができるだろうか。

そして、もし無限の命を得れば君は明日何をするのだろうか。

私には分からない。