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災害の姉

 十一月十一日の金曜日、私は管理人の転送能力で月出島に来ていた。

 本来、この島は上陸を禁止されているが今日は中村公平とライアと戦う為に上陸した。

 島の周辺を確認してみると、高い樹々が多く、上空にはたくさんのツバメが飛んでいる。


「美穂君。緊張しているかい?」

「そりゃあね。だって今回の戦いで世界の運命が決まっちゃうんでしょ?」

「うん。だけど、君達ならきっと大丈夫さ」

「不安だけど、信じてやってみるしかないわね。ねぇ、勇斗君はどこにいるのかしら?」


 勇斗君とライアの姿が見当たらなかった。原子爆弾を使って中村拓郎とライアを倒す作戦を実行すると聞いていたのだが、二人がいなければ作戦を実行できない。


「二人はもう来ている。勇斗君には別行動してもらうつもりだよ。とりあえず、作戦は覚えているね」

「ええ、勿論よ」

 上手くいくかどうか不安だがやるしかない。私だって血縁力が五千を超えることに成功したんだ。

「二人ともあれを見てくれ。どうやら来たみたいだよ」


 前方に広がる海を見つめると、小型ボートが近づいてきているのが確認できた。ボートは志島の十メートル手前で止まると、ボートに乗っていた二人が大ジャンプして島に上陸した。


「久しぶりだね。中村拓郎、ライア」

「お久しぶりですね。会えて嬉しいです」


 こいつがライアか。灰色の髪をした修道服の少女。前に熊谷綾河と戦った時に私達の前に現れた。あの時は手も足も出なかったが今回は違う。

 中村拓郎という人物は予想以上に若々しい容姿をしていた。必ずこいつらの動きを止めてみせる。


「確か、そちらのシスターとお嬢さんは前に会いましたよね」

「ええ、あの時は本当に驚いたわ」

「ヴェル。少し顔を見せてくれませんか? 少し話をしましょう」

 ヴェルがひょっこりと晃平の胸ポケットから顔を出した。実は戦う前にヴェルを元のサイズに戻してはどうかと晃平に提案したのだが、あえなく却下された。

 ヴェルはあまり肉弾戦が得意ではないらしく、さらにヴェルはこの位置を気に入っているとのことだった。

「何? お姉ちゃん」

 ちらっと腕時計を確認すると時刻は午後四時五十九分になっていた。

「私から提案があります。よろしければお互い戦いなどやめませんか? お嬢さんは理想の世界に旅立ち、晃平とヴェルはここで死を受け入れるのです」

「もしも断ると言ったら、どうするのかしら?」

「残念ですが、予定通り戦うしかありませんね」

 時刻は午後五時を回った。私はスールの手を握る。すぐさま親縁術を使うことにした。

「なら、お断りよ。親縁術、雷光(ライトニング)()(シスター)

 牽制のつもりで中村拓郎とライアに雷を落とした。しかし、二人は避けた。とんでもない反射神経である。

「晃平が言っていた通りだ。親縁術を使えるようになった奴が現れたというのは本当みたいだな。けど、俺達には到底届かない。なぜなら今の俺達の血縁力は30221だからな」

「さ、30221ですって?」


 私達の六倍くらい高い。こんなに差があるのに勝てるのか疑問が湧き上がってきた。


――落ち着け美穂。ブラフかもしれない。ここは冷静に攻撃していこう。


「そう、そうよね!」

 私は中村拓郎に向かって走り出した。彼の背後を取り、両手をかざす。手から高圧電流を流し、麻痺させようと試みた。

「なるほど、結構速いな」


 しかし、中村拓郎はいつの間にか私の後ろにいた。親縁術を使っていないのに私よりも早く動けるという事実を知り、恐怖に陥りそうだった。

 防御に転じるのが遅れてしまい、中村拓郎の蹴りに対処することができなかった。思いっきり吹っ飛ばされた。

 海に落ちそうになるのを晃平の転送能力によって、免れた。


「よ、よくもやってくれたわね……」

「お嬢ちゃん、もうよせ。君じゃ俺達には敵わない」

「黙りなさい!」

 せめてライアだけでも拘束しようと思い、彼女に飛び掛かった。

「やれやれ、仕方ありませんね。少しお灸を据えて差し上げましょう。災害(テンペスト)()(シスター)

「え……」


 両足が斬られてしまい、私は地面に倒れた。なんで……斬られた感じはなかったのに。


「おい、晃平。勇斗君はどこにいる?」

「聞いてどうするつもりだい?」

「勿論、戦うんだよ。彼と戦うの楽しみにしていたからな。そこのお嬢ちゃんははっきり言って戦力にならない。期待外れもいいところだ」


 残念だけど、中村拓郎の言う通りである。あんなに特訓したのにここまで差があるなんて。

 管理人は勿論、勇斗君だってきっと勝てない。


 ――美穂。変われ。


「スール止めとこうよ。もう無理だって」

 私の心は折れかけていた。しかし、スールは強引に私から身体の主導権を奪い取った。

「ライア。私が相手をする」

「もうよろしいんじゃないですか? 力の差は歴然……スール、どうしてあなたはそこまで戦おうとするのですか?」




 どうして戦うのかか……ふん、そうなの決まっている。

 かつて美穂と契約する前、私は三人の人間と契約をしていた。

 しかし、契約した人間はいずれも私より先に死んでいった。


「スール、また君だけ生き残ったのか。契約者を命懸けで守るようにと前に言ったはずだよ」


 私だけ生き残る状況をマスターは良しとしなかった。しかし、私はどうにも契約した人間と協力して戦う気になれなかった。


「あいつら気に食わない。どいつもこいつも金の為に戦いやがって。そんなの真の戦士ではない」

「戦士ねぇ。それじゃ、君はどんな人物が戦士だと思うんだい?」

「大切なものを守る為に戦い、死をも厭わない人間。そんな人物と出会うことができるなら私は本気で戦う」


 その後、私は美穂と出会い、契約した。美穂もお金を稼ぐ為に戦っているという。

 しかし、美穂はこれまで私が契約した人間とは違った。実の妹を守る為、どんな局面に陥っても必死に戦ってきた。

 私が危なくなった時、美穂は身を挺して守ってくれた。そんな美穂が弱気になっている。

 今こそ、私が何とかしなくてはならない。

「美穂と一緒に過ごすこの世界を守りたいからだ。私は美穂のことが好きだ。どんな人間よりもな」

 ――スール、あなた……

「あなたの契約者への思い。確かに伝わりました。ですが、立ち向かうというのなら私も本気で戦わなければなりません」

「望むところだ。いくぞ、雷光(ライトニング)()(シスター)

 両手から黒い雷を放出する。中村拓郎とライアは雷を避ける。

「逃すか」

 雷の軌道を変え、何とか二人に攻撃を当てようと試みた。

「しつこいですね」


 二人は苛立たしそうに逃げ続けている。マスターに目配せした。

 マスターは私をライアの背後に転送し、奴の背中を蹴る。

 先ほど放った雷にぶつかったライアは苦しそうな表情をしながらも私に腕を向ける。


災害(テンペスト)()(シスター)

 ――気をつけてスール!

「分かってる」

 すぐさまライアから距離を取った。樹々が次々となぎ倒されていく。何とか目で捉えることができた。

「よく避けましたわね」

「まぁな。さっきの風だな?」

「ええ、その通りですわ。しかし、驚きました。想像以上に強いのですね」

「いい加減、余裕ぶっこないでお前らも親縁術を使ったらどうだ?」

 マスターは二人の頭上に巨大な岩石を転送させた。しかし、二人の周囲には強烈な竜巻が発生し、岩石は吹き飛び、海面に落ちていった。

「いいだろう。そこまで見たいのなら俺達の力、見せてやるよ」

「行きますよ拓郎。親縁術」


 ライアと拓郎は手を握り、親縁術を発動させた。拓郎の姿が消え、ライアから強い力を感じる。

 逆立ちしたって私達じゃ勝てない。だが少しの時間、動きを止めることくらいできるはずだ。


「ようやく使ったね。親縁術。それじゃ、行くよ!」

「それを待っていた。転送のテレポート・シスター

 マスターは大量の毒ガス爆弾をライアの周りに転送させた。あれはおそらく勇斗とソラが生成したものだろう。

「次から次へと色んなものを……」

 巨大な爆発音と共に周囲が紫色の煙で満たされた。しかし、あまり効いていないのかライアは平然とこちらに歩いてきた。

「効かないか……なら、これはどうだ!」


 雷の矢をライアに向けて放つ。肩、脚、腹と突き刺さるが刺された箇所が瞬時に再生していく。その上、麻痺する様子がない。


 ――き、効いてないの!?


「そんな攻撃、私達には通用しません」

「しまっ……!」

 一瞬で間合いを詰められた。速すぎる。この私が全く反応できないだなんて。ライアは私の頭に手を翳した。

転送(テレポート)()(シスター)

 マスターは私が自然発火能力の餌食になる前に転送能力で助けてくれた。

「あ、危なかった……マスター助かった。感謝する」

「気をつけなよ。あれは防御不可能だ」


 マスターから既に話は聞いていた。災害の姉には自然発火現象を発生させる力があると。

 自然発火能力をまともに喰らうと助かる道はない。


「あらら、避けられてしまいましたね。晃平、ヴェル。あなた達の能力はやはり厄介です。先にあなた達から倒すことにしましょう」

 まずい……狙いがマスターに定められた。マスターが死んだら作戦が完全に破綻する。

「ふざけるな! やるなら、私からやれ!」

 雷を纏わせた足でライアの頭を蹴る。頭部を失うもやはり一瞬で再生してしまう。


 ――スール、落ち着いて!


「わ、分かってる。なら、これでどうだ!」

 雷の渦でライアを閉じ込めた。狂った強さを誇るこいつでもこれならこいつでも……

「聞き分けが悪い妹ですね」

「え……」


 眩い閃光が視界に走った。鼓膜が破けるほどの防音が聞こえ、強烈な痺れが体全体を巡る。


 ――スール!


 ど、どうして私の身体が倒れている? あいつ、雷の渦から脱出したのか。

 ダメだ身体が動かない……ここまでか。足止めすらままならなかった。

 すると、ライアは何を思ったか涙を流し、パチパチパチと拍手をした。


「素晴らしい……とても素晴らしい。こんなに実力差があるにも関わらず必死で戦う姿に私は大変感動いたしました。きっと死んだ後、あなたの魂は天国へと向かうことでしょう」

「ふ……ざ、けるな。私はまだやれる……」

「もういいでしょう。ゆっくり休みなさい」


 ライアが私の頭を撫でてきた。まずい、消される。自然発火能力で殺されてしまう。

 こんなところで……死ぬ訳には。


爆砕(ダイナマイト)()(シスター)


 爆発音が聞こえた。私はマスターの近くに転送されていた。目の前には勇斗がおり、ライアは爆弾を喰らったのか、頭から血を流していた。


「ようやく来たみたいですね」

「美穂さん、スール。休んでて。ここからは俺がやる」


 ダメージを負い過ぎたせいか親縁術が解けてしまった。美穂が心配そうに私に話しかけてくる。

 だが、心配すべきなのは勇斗の方だ。原子爆弾を作るには膨大な血縁力だと必要と聞いている。

 勇斗がライアの動きを止める為に無闇に血縁力を消費すれば原子爆弾を作れなくなってしまう。


「美穂、頼みがある……」

「何?」

 美穂にライアを喰い止める為の作戦を伝えた。

「そ、そんなことできる訳ないじゃない!」

「奴らに勝つにはそれしかない! 頼む、やってくれ」

 美穂は苦悶の表情を浮かべたが、やがて頭を縦に振った。

「分かった。やるわ」


「三浦勇斗さん、それに我が妹、ソラ。こうして直接お会いするのは初めてですね。私はライアと申します」


 この灰色の髪をした少女がライアか。姉タイプのシスターとは二度戦った経験があるが、アデルともエルマとも違う雰囲気を持っている。


「中村拓郎の姿が見えないな……もう親縁術を使っているのか?」

「その通りです。あなた達こそ、今までどこに隠れていたのですか?」


 晃平から離れた場所で毒ガス爆弾を生成するように言われていた。

 血縁力を温存する為、基本的には晃平から指定された場所に待機するように言われていたが、不測の事態に陥った場合は戦場に転送するとのことだった。

 案の定、転送されやいなやスールが襲われているのが目に入り、咄嗟に爆弾を投げた。

 運良く爆弾は命中したが、すぐにライアの傷が修復されていく。


「お前らをぶっ倒す為に体力を温存しようと思っていたんだが、そういう訳にもいかないみたいだな……」


 中村拓郎とライアを時空の狭間に飛ばし次第、原子爆弾でぶっ倒すという作戦だったが、晃平達だけでは厳しかったみたいだ。

 とはいえ、無闇に爆弾を作って、作戦の肝である原子爆弾を作れなくなっては意味がない。

 俺は莉子から譲り受けた刀を鞘から抜く。


「刀ですか……うふふ、そんなもので私を倒すつもりですか?」

「まぁな。こう見えても劍術は得意なんだ。厳しい師匠に鍛えられたからな。行くぞ、ソラ」

「うん」


 ソラと手を繋ぎ、親縁術を発動した。ひとまず身体の主導権は俺が握ることにした。

 今すぐにでも間合いに入りたいところだが、下手に近づけば災害(テンペスト)()(シスター)の餌食になる。

 タイミングを測っていると、ライアは急に両腕を上げた。ライアの上に土石流が落ちてきた。

 これは晃平の血縁術か。ライアは自身の血縁術で暴風を発生させ、土石流を周囲に吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた小さな石が頬を掠める。僅かだが隙でできた。ライアに近づき、刀を振り抜く。

 まずは両腕を斬り落とすことに成功する。だが、いくら切り刻んでも再生するのは承知の上である。

 腕が再生する前に身体を真っ二つに斬る。刀を思いっきり振り落とした。


「危ないところでした」

 ライアは後ろに飛んで避けた。少しライアの身体を斬ることができたが、すぐに傷が塞がっていく。

 まずい……避けないと。

 しかし、行動に移す前に螺旋状の風が俺に襲いかかる。刀を地面に深く突き刺し、遠くに吹っ飛ばされるのを回避した。

「ち、流石に強いな」


 左腕が千切れてしまったが放っておけば回復するだろう。だが、回復を行うと血縁力が消費してしまう為、好ましくない。

 出来るだけライアの攻撃を避けながら攻撃するんだ。ライアは間髪入れずに風の刃を放ってきた。

 片手で刀を振るい、何とかライアの攻撃を防ぎきる。


「これで終わりです。災害(テンペスト)()(シスター)


 周囲がピカッと光った。強烈な雷に身体を打たれ、痺れで身動きが取れなかった。

 渦巻く風がものすごい速度で俺の方に近づいてくる。死を覚悟したその時だった。


「全く、世話が焼ける奴だ」

 スールが俺のことを別の場所に運び、助けてくれた。スールが助けてくれなかったら多分、俺は死んでいた。

「勇斗君。ここからは私達がやるわ」

 親縁術が解けているにも関わらず、美穂さんは再び戦おうとした。

「無茶です! 親縁術だって解けているのに……」


 俺の経験上、親縁術が強制的に解けると、再び使用するのにしばらく時間が必要となる。

 それでも無理に使おうとすると……試したことがないからはっきりとは分からないがおそらく命に関わる。


「分かっているわ。だから……これを使うわ。絶縁術!」


 美穂さんは雷の矢を放ち、スールの肩に当てた。

 そうか絶縁術……だが、親縁術よりも劣る絶縁術がライアに通用するのか?

 スールの骨格がメキメキと音を立てて変わっていき、三つ目のライオンのような姿に変貌した。


「絶縁術……そのような力に頼ってしまうなんて、私はとても悲しいです」

「私達の絆は決して切れることはないわ。例え絶縁術を使ってもね。そうでしょ、スール?」


 スールが頷いた。驚いた。理性があるのか。

 スールは口から黒い電を放ち、それに対抗すべくライアは両手から螺旋状の風を放つ。

 雷と風がぶつかり合い、周囲の空気がビリビリと振動する。

 ライアの動きが止まった。今なら……


「転送のテレポート・シスター

 しかし、ライアは晃平の力を恐れたのか宙に大きくジャンプし、転送を回避した。

「逃げさないわ! 雷光(ライトニング)()(シスター)!」

 美穂さんが雷の矢を三つライアに向けて放つ。一直線状に放たれる矢はライアが出した風の刃で打ち消されてしまった。

「ゼッタイ二ニガサナイ!」

 スールが勢いよく地を駆け巡り、ライアに向かってジャンプした。風の刃で身体を傷つけられうも決して怯むことなく、ライアの右腕に噛り付いた。

「ああああ! し、痺れる……離しなさい! 災害のテンペスト・シスター!」


 スールとライアが地面に降り立った。ライアの右腕は食い千切られ、苦しそうにうなだれていた。

 一方、スールの身体から青い炎が出ていた。どうやら、自然発火能力をまともに喰らってしまったみたいだ。


「今だよ勇斗君、ライアを転送する!」

「スール……感謝する。必ずライアを倒す!」

「わ、私はこんなところで終われない……」


 晃平は俺とライアを時空の狭間に転送した。ライアは俺達のいる部屋とは別の部屋にいる。

 ここまでは何とか作戦通りである。後は原子爆弾さえ作ることができれば……

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