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守りたいもの

 次の日、約束通り午後五時に転送された。転送された場所は研究所ではなくどこかの空き地であった。


「みんな揃ったね。それじゃ、早速作戦会議を始めようか」

「それで、一体何をすればいいんだ?」

「そうだね。まずは親縁術を使ってもらおうか」

「おいおい、そんな簡単に言うなよ。昨日、ようやく使えるようになったばかりだぞ」

「そうか。まだ自由に親縁術は使えないみたいだね。ひとまず僕達と戦ってもらおうかな。後、美穂君も僕と組んでもらおう。二対四の戦いだね」


「二対四か……分かった。思いっきりやってもいいんだな?」

「私達を甘く見るんじゃないぞ。この一ヶ月で私達の血縁力も上がっているんだ」

「それは面白そうだな。それじゃ、こっちからいくぞ!」


 晃平に向かって走り出し、攻撃しようとした。しかし、血縁術で自身を転送し、避けた。


「さすがに速いね。血縁力が格段に上がっただけのことはあるよ」

 晃平のやつ、余裕そうだな。血縁力は俺の方が高いがあいつの血縁術は厄介だ。

「今度は当てる。死なないように手加減してやるから安心しろ」


 美穂さんが上空から踵落としをしてきた。身体を反転し、かわすと今度はスールが顔面に拳を入れようとしたため、右手首を掴んで防いだ。


「なんか少し痺れるな」

「ぐ……離せ、三浦勇斗!」


 美穂さんとスールは身体に電気のようなものを纏っている。一般人なら触れただけで感電死するんだろうが、今の俺にとっては少し痛いくらいである。


「なら、望み通り放してやるよ」

 スールを晃平に目掛けて投げ飛ばした。予想通り、晃平はスールを転送し、衝突するのを食い止めた。

「隙あり」

 晃平に急接近し、晃平を殴り飛ばす。晃平は木にぶつかり、痛そうに背中をさすった。

「痛いなぁ」

「これでも大分手加減してるぞ。それと、お前のその転送能力は一度使うとインターバルが生じるみたいだな」


 こんなチート能力、無制限で使える方がどうかしている。


「うん。まぁ、そうだね。僕の能力のタイムラグは大体十秒くらいかな」

 晃平は血縁術を使い、俺の頭上にたくさんの岩石を落としてきた。すぐにその場から離れ、下敷きになるのを回避する。

雷光(ライトニング)()(シスター)


 スールが呟く。空を見上げると、雲がチカチカと光っている。落雷を引き起こすつもりか。

 すぐさまこの場から移動し、雷を避けた。


「お兄ちゃん、危ない」


 美穂さんが背後から蹴りをかまそうとするのをソラが防御した。

 俺は爆弾を作成しながら、明美さんとの距離を取る。そして、爆弾を投げつけた。


「ゲホ、ゲホ……何これ?」

 美穂さんは涙を流していた。さっき投げた爆弾が効いているようである。

「催涙効果のある爆弾です。しばらく、視界は見えなくなるでしょう」


「いやぁ、勇斗君は本当に強くなってるね。ちなみに君が一番威力のある爆弾を作ったらどれくらいの威力になるのかな?」

「さぁな。やったことがないからな」

 破壊力のある爆弾は諸刃の剣である。下手すれば自分も爆発に巻き込まれる恐れがあるからだ。

「そうか。美穂君、スール。君達も全力で戦うといい」

「美穂、今回は私がいく」


 スールが美穂さんの肩に手を置くと、二人の身体が光った。これはまさか……


「「親縁術、雷光(ライトニング)()(シスター)」」

 明美さんの姿が消えた。血縁力が飛躍的に向上したことが何となく俺にも分かる。

「どうだ。驚いたか? 三浦勇斗」

「ああ、驚いたさ。まさか、親縁術を使えるようになっていたとはな」

 しかし、親縁術はシスターの方が身体の主導権を持つこともできるのか。

「明美君とスールの血縁力は3000くらいだよ」


 3000か……俺達の方が三倍くらい高いが、血縁力の数値がそのまま強さに直結するわけではない。気を引き締めていかないとな。


「それじゃ、いくぞ」


 いつの間にか目の前にスールが移動していた。首に飛んでくる回し蹴りを左腕でガードする。

 動きが全く見えなかった。晃平がスールを転送したのか?

 スールは足を降ろすと、素早く周囲を動き回った。木の陰に隠れながら俺の様子を伺っていた。

 爆弾を投げても避けられるだろう。とはいえ、追いかけっこして捕まえるのもかなり大変そうだ。


 ここは向こうから仕掛けてくるのを待つか。

「勇斗君、棒立ちのままでいいのかい? 転送(テレポート)()(シスター)

 右腕に強烈な痛みを感じた。気づくと俺の右腕が無くなっていた。

「隙あり!」


 しまった。動揺のあまり、反応が遅れてしまった。頭部にスールの飛び膝蹴りを喰らう。脳震盪を起こし、視界がグラグラと歪んだ。


「驚いたかい? 君の腕だけを転送したんだ。ま、今の君なら右腕くらいすぐに直せると思うけどね」

 晃平の言う通り、痛みはすぐに消え、右腕が再生した。

「なるほどな。確かに治った。けど、そう何度も腕を失いたくはないな」


 さっき晃平は「棒立ちのままでいいのかい?」と言った。その言葉から推測するに、転移させる対象に狙いを定めていると考えられる。


 つまり、動き回ればさっきの技を喰らう恐れはなくなる。


「ソラ、俺達もやるぞ。親縁術を」

 親縁術を使うことにした。そして、俺も美穂さんのように身体の主導権をシスターに託してみようと考えた。

「うん、分かった」


 ソラと手を握り、親縁術を発動する。視界の先にスールが映っているが自分の精神がソラの中にいることに気づく。


 ――ソラ、任せたぞ。


「うん。スール、絶対に捕まえる」

「いいだろう。シスター同士、とことんやり合おう」

 ソラは地面を強く蹴るとスールとの距離を一瞬にして縮めてしまった。

「捕まえた」

「何!?」


 身体能力に関していえば、俺よりもソラの方が高い。俺であれば捕まえるのに相当苦労していたことだろう。


「捕まえた」

 ソラはスールを羽交い締めした。しかし、スールは電流を流し、必死に抵抗する。

「く……離せソラ!」

「絶対に離さないもん!」


 ソラの精神の中にいる俺に全く痛みはないが、当のソラはとても苦しそうである。


 ――おいソラ。一旦、俺が変わってやる。


「いい。大丈夫」

 すると、ソラは何を思ったのかスールの首筋を舐めた。

「ひゃ! お前、何をするんだ……」

 スールは力が抜けたのか、電流が明らかに弱まっていた。

「こうするといつもお兄ちゃん、力が抜けるからスールにも効くか試した。効果あり」

「お、お前ら……いつもこんなことをしてるのか。正直引くわ」

 スールにドン引きされてしまった。結構ショックである。

「あははは。何してんだか。転送(テレポート)()(シスター)


 晃平は俺達をどこかに転送した。飛ばされたのはガラスのように透明な壁が取り囲んでいる長方形状の部屋のような空間であり、見渡すと他にも同じような空間が無数に存在していた。


 ――なんだここは。


「マスター、ここはどこ?」

「元の世界と平行世界の間ってところかな。僕は『時空の狭間』って呼んでる」

 ――ソラ、変わってくれるか?

「うん、分かった」


 ソラに身体の主導権を譲ってもらった。部屋の広さは学校の教室分くらいで、壁に触れてみると、水紋のようなものが発生した。


「この壁は壊せるのか?」

「不可能ではないと言いたいところだけど……かなり強い衝撃を与えないと無理かな。少なくも美穂君とスールの親縁術では壊せなかった。君達ならいけるかもね。例えば、原子爆弾とかを使えば」


 原子爆弾か。学校の授業で習ったことがある。確か第二次世界大戦で日本に落とす予定だったらしい。

 結局、その前に日本が降伏宣言したため使われることはなかったらしいが。

 核兵器級の威力ならこの空間を破壊できるということか。しかし、そんな兵器を俺に作れるとは到底思えない。


「戦いの日までに勇斗君には原子爆弾を作れるようになってもらいたいんだ。中村拓郎とライアを倒すにはこれくらいの力がだからね」

「それってつまり、普通の爆弾では二人を倒せないということなのか?」

「ま、そういうことだね。あの二人の耐久力はもはや人智を凌駕している。頭や心臓を潰しても一瞬で再生するし、二人を倒すには核兵器しかない。取り敢えず、今作れる中で一番威力の高い爆弾を作ってくれるかい? 言っておくけどここで爆発はさせないでね」


「分かった。ソラ、頼む」

 再び身体の主導権をソラに渡した。強い威力を作ることに関してはソラの方が得意である。


爆砕(ダイナマイト)()(シスター)

 ソラはまるで岩のような大きさのダイナマイトを作り出した。

「み、見るからにやばそうな爆弾だな……」

「確かにね。それじゃみんな。少し離れるよ」

 晃平が俺達を別の部屋に転送した。視界の十メートル程先には先ほど、ソラが作ったダイナマイトが見えた。

「ソラ、爆発させてごらん。ここなら安全だから」


 ソラはダイナマイトを爆発させた。爆炎が長方形状に止まり、爆発音は全く聞こえない。

 ソラの爆弾では部屋の壁は傷一つ付かなかった。


「やっぱり普通のダイナマイトじゃ無理みたいだね。それじゃ、戻ろうか」

 研究室に戻された俺達は親縁術を解除した。美穂さんとスールもまた親縁術を解く。

「なぁ、さっきの空間に中村拓郎とライアをずっと閉じ込めておくことはできないのか?」


「残念だけど、それはできない。あそこはかなり時空が不安定な場所だから十分経つと強制的に元の世界に戻されるんだ。だから、勇斗君には原子爆弾を作れるようになってもらって、時空の狭間で二人を倒して欲しい」

「つってもな、正直作れる気がしないんだが……」

「生成系の血縁術は作る物の構造を理解することで精度が高まる。これから勇斗君には原子爆弾についてひたすら勉強してもらう。同じ核兵器の水素爆弾よりはいくらか作りやすいからきっと勇斗君ならできるとおもうんだ」

「原子爆弾の作り方か……分かった。やれるだけのことはやってみるわ」

「明美君とスールには中村拓郎とライアの動きを封じて欲しい。転送の妹は相手の血縁力が高いと対象者を転送するのが極端に難しくなる。だから、二人の動きを封じ込めてさっきの場所に飛ばす。やってくれるかい?」

「分かった。やってみるわ」


 こうして、この日から泊まりがけで原子爆弾の勉強を開始した。晃平が言うには平行世界のいくつかは日本に原子爆弾を落とされたらしい。


 原子爆弾に使われている素材、核分裂によって大きな衝撃が発生する原理を試験勉強の要領で頭に叩き込んだ。

 俺達が生成を試みているのは別の世界において『リトルボーイ』と呼ばれる原子爆弾である。 

 細長い金属の両端に核分裂物質であるウランを爆発させるための量まで詰める。本来であれば、火薬が必要になるのだが、爆砕(ダイナマイト)()(シスター)は自在に爆発させることができるため、実戦では使わない。


爆砕(ダイナマイト)()(シスター)

 元の世界と平行世界の間にある空間にて、俺は原子爆弾の生成を試みた。しかし、生成することができなかった。

「ダメ……みたいだね」

「クソ! どうして作れないんだ!」

 親縁術が解け、俺はその場に倒れこんだ。ソラと身体の主導権を交代しながら何度も試してみたが、一度も成功しない。

 頭では理解できているのに、作れないというのは何とも歯痒いのだろうか。

 戦いの日まで残された時間は三日。できなければ作戦を実行することができない。

「二人とも、今日はもうここまでにしよう」

「い、いや……でも」

「この数日間、二人は相当無理をしていた。明日の午後五時からまた特訓しよう。それまではリフレッシュするといい。それじゃまた」

 俺とソラは自宅に転送された。しょうがない。ここは晃平の言う通り、気晴らしでもするか。

「ソラ、明日どこか行きたいところはあるか?」

「うん。私、サオンに行きたい」

「サオンか……よし、分かった。明日行こう」



 次の日、午前九時半頃に家を出た俺達は盛岡駅からバスに乗って、サオンに向かった。

 今日行くのは前に行った盛岡南サオンではなく、高速道路付近にある舞潟サオンと呼ばれるサオンである。

 距離的には南サオンの方が近いのだが、店の規模的には舞潟サオンの方が大きい。

 国道を走っていたバスは高速道路を右に曲がり、駐車場に入り、停車場所に止まる。


「着いたな。ソラ、行こう」

「うん!」


 ソラと手を繋ぎ、店の中に入る。今日は休日の為、人が多く、店内が賑わっている。

 服屋の専門店に入り、ソラに似合いそうな服を選んだ。


「お兄ちゃん、どうかな?」


 ソラが水色のワンピース姿を披露した。目に入れても痛くはないほどの可愛らしい姿である。

「超可愛いよソラ!」

 感極まった俺はスラの姿をスマホで何枚も写真に収めた。


「えへへへ……お兄ちゃんに褒められて私、すごく嬉しい」


 喜んだソラは様々な服装を試着した。カジュアル系からストリート系までソラはどんな服も着こなしていく。

 試着したいくつかの服を購入した。お店を出た後、二階のフロアにあるゲームコーナーに入り、シューティングゲームをプレイした。

 迫り来るゾンビの集団をソラと協力しながら倒していく。


「おりゃ、くらえ!」

 ソラは絶妙なタイミングで手榴弾をボスゾンビに投げた。ボスゾンビの体力がごっそりと削れ、トドメに銃弾を浴びせる。

「ナイス、ソラ!」


 ボスゾンビは倒れ、一時間程でゲームクリアとなった。ちなみにノーコンティニューである。


「すっごく楽しかったね!」

「そうだな。そろそろお昼にするか」

 フードコートでにあるミクロナルドでチーズバーガーセットを二つ購入した。ソラは大きく口を開けてチーズバーガーに齧り付く。

「何これ! すっごく美味しい!」


 幸せそうに食べているソラを見ていると心が和む。

 ああ、幸せだな。もしも可能なら戦わなくてもいい場所でソラと暮らしたい。

 けど、安全な場所なんてない。だから戦うしかない。

 大切な物を守る為なら、平行世界の日本を恐怖に陥れた爆弾だって作ってみせる。


「お兄ちゃん、どうしたの? ぼーっとして」

「あ、いやなんでもない」

 昼食を食べた後もソラと本屋やCDショップなどを見て回った。

「ソラ。最後に寄りたい場所があるんだ。付き合ってくれるか?」

「うん。どこに行くの?」

「それは着いてからのお楽しみだ」

 エスカレーターで屋上へと上がると、目的の場所が見えてきた。

「うわ! 何あれすごい!」


 ソラが指差す方向にあるのは最近できたばかりの小型観覧車である。幸いにも列は出来ておらず、すぐにでも乗れそうであった。

 購入権を購入し、観覧車に乗り込む。観覧車はゆっくりと上へと上がっていき、周辺の街並みが一望できた。


「ソラ。一緒に写真を撮ろう」

「うん!」


 晃平から借りていたスマホを使って、背後にある盛岡の街並みを背景にソラと写真を撮った。

 この場所とソラを守る為なら俺は何だってやってみせる。

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