第4話 ダンゴムシ進化論
ダンゴムシはユニークだ。右に曲がれば左に曲がる。
いや、こんな説明では何のことか解らないだろう。逆に、この説明だけで解った人は凄いと思う。
分かりやすい話をしよう。例えば、入り組んだ迷路がある。ダンゴムシは進路上の最初の分岐点を右に曲がると、次は超高確率で左に曲がる。分岐点が延々と続けば、右、左、右、左、と交互に曲がり続ける。
これは「交替性転向反応」という習性だそうだ。
私はこの話を知人から聞いて初めて知った。そして、ネットでその動画を見つけた。
確かに右、左、と規則正しく曲がり続ける。
ダンゴムシのこの習性は、他の生物に比べて強く顕著だという。
ちなみに分岐点がない場合は、50cmほど直進した後に落ち着きなくUターンしたりして彷徨き出すらしい。
ちょっと早いが、私の個人的で勝手な結論。
『繰り返えされるジグザグの動きとUターン。きっと、ダンゴムシは何らかのアスリートを目指している。たとえアスリートになれなくても、丸まってボール扱いで良いからスポーツ参戦をしたいと考えている』
………。
「そんなワケあるかぁぁぁ!!!」
ということで、本日の本当のテーマは
『近代ダンゴムシたちの抱える大問題』についてだ。
ダンゴムシは身体を丸めることで身を守る。しかし近代社会の舗装で塗り固められた地面はダンゴムシを窮地に陥いれた。
己の命を守るために丸まったダンゴムシは、平坦な地面の上でその球体を解除した時に、ほぼ仰向け状態になってしまう。
そのまま起き上がれずに命を落としてしまう者は数知れない。
命を守るための防衛行動が逆に自らの寿命を縮める結果になってしまうのだ。
おそらく、ダンゴムシたちの目下の議題になっているであろうと思うのが
『地面舗装化コロコロジタバタ問題』だ。
私は気まぐれに、仰向けダンゴムシ救済パトロールを行うことがある。
そしてその時、ふと、あることに気付いた。
時々、背中が擦り傷だらけになっているダンゴムシがいるのだ。
おそらくはコンクリートの上などでひっくり返り、長時間の悪戦苦闘の末に自力で起き上がった強者と思われる。
私は、ダンゴムシが自力で起き上がれるものか観察することにした。
結論から言おう。全部が起き上がれるわけではなかった。しかし、起き上がることのできる個体は少なからず存在した。
そして、共通して言えることは、起き上がることができるダンゴムシは比較的、身体が柔軟に感じるということだ。
右に左にと仰け反り続け、地に着きそうなほうの足をジタバタと動かして、やがて何とか起き上がる。
ダンゴムシの暮らす環境は土の大地から平坦な舗装へと、多くの土地が移り変わった。
これからの時代、ダンゴムシは新しい環境への適応をしなければならない。
ダーウィンの進化論では、生物は環境に適応して進化するという。
そう!
今こそダンゴムシは数億年の時を越え、進化の刻を迎えたのだ!!!
進化の刻を迎えたのだぁっ!!!
大切そうなことだと思ったから二度言ってみた。とは言っても、進化なんてものはそう簡単にはできないだろう。だから私は身体の固いダンゴムシのストレッチを行う。
起き上がれないダンゴムシの中にはジタバタすることを諦めてじっとしているうちに背中が丸く凝り固まってしまう個体もいるからだ。
そんな凝り固まったダンゴムシを、私は繊細で微小な力加減で時間をかけて身体を伸ばしてあげるのだ。
人間だって凝り固まった身体を伸ばす時には痛みを伴う。ダンゴムシもきっと痛かろう。
ストレッチを終えたダンゴムシは完全に身体が伸びたわけではないが、少し丸まった姿勢のままヨボヨボと帰っていく。その姿はまるで年輩のご老人のようだ。
もう転ぶんじゃないぞ、と私はその姿を見送る。
しかし、塗り固められた地面での仰向け転倒はダンゴムシにとっては逃れられない宿命だろう。
近い未来、身体の硬いダンゴムシは絶滅していくのだろうか。身体の柔軟なダンゴムシだけが生き残って子孫を残し、新たなダンゴムシの時代がやって来るのだろうか。
5億年以上の昔、カンブリア紀の三葉虫から始まったダンゴムシの歴史は今、新たな進化の選択を迫られているのかもしれない。
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ダンゴムシは正式名をオカダンゴムシといいます。蟹などの甲殻類の仲間です。
生殖は卵胎生という方法で、この繁殖形態は、卵生から胎生への進化の階段と考えることができるそうです。
オカダンゴムシは元々は地中海沿岸に生息する種で、日本には明治時代に船の積み荷に混じって入ってきたという説が有力です。