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身近に暮らす小さな隣人たち  作者: Tatsu。


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おまけ話 お正月とハエトリ姫

 前話、アメリカのオオスズメバチ根絶の話を執筆している最中に、私の視界の端を横切る小さな何者かがいた。

 見るとそれはハエトリグモだった。体色はグレー色。ハエトリ姫だ。だが、ハエトリグモの寿命を一年と考慮すると、昨年に見かけたハエトリ姫とは別の個体だろう。


 調度その時、私の(そば)にブリックパックの飲みかけのキャラメルオレがあった。

 ハエトリグモは甘い砂糖水が大好きだ。甘いキャラメルオレもきっと気に入ってくれるだろう。

 私はキャラメルオレの(しずく)の付いたストローをハエトリ姫の前に差し出してみた。

 すると……


 お? おおお!? おおおおお!!


 何ということだ。ハエトリ姫は前脚をストローにしがみつかせるように伸ばして、キャラメルオレを飲み始めた。


 これだよ! この反応だよ! こんなハエトリ姫の仕草をずっと待っていたんだよ!


 私は内心、とても嬉しくなった。

 ハエトリ姫、可愛いなぁ。よしよし。沢山飲め。

 それにしても、昨年の私に冷たかったハエトリ姫とは全くの別人、いや、別蜘蛛のようだ。おそらく、実際に別蜘蛛なのだろうが。


 しばらく見守り続けた私にいたずら心が強烈に湧いた。


 蜘蛛はカフェインに酔う。キャラメルオレにはカフェインが入っている。そして今はめでたい新春。お正月。人間たちは食っては飲んで酔っぱらう。

 ハエトリ姫にも大いに酔っぱらってもらおうではないか。


 私はハエトリ姫をキャラメルオレの中に突き落とした。

 極寒の季節だ。ちょっと可哀想だったか。

 転落したハエトリ姫をすぐに掬い上げてティッシュで身体からキャラメルオレを拭った。

 ハエトリ姫はきっと怖かったのだろう。全ての脚を縮み込ませて小さく丸まっていた。

 ごめんな、ハエトリ姫。

 次にハエトリ姫を日射しの当たる暖かな場所にそっと置いた。

 5秒ほどするとハエトリ姫は動き出した。


 !!!


 斜行だ。3cmほどゆっくりと斜めに歩いた。

 もうすでに出来上がってしまっているようだ。


 少しだけ歩くと立ち止まり、片半身を持ち上げて脚を擦り合わせ始めた。

 ハエトリグモは酔うと身体がムズムズするのだろうか?

 私が今までに接してきたハエトリグモたちは酔うと皆、同じ仕草を見せた。

 ハエトリ姫は脚を、右側を擦り合わせ左側を擦り合わせ、時には前脚で顔を拭い、そんな仕草を幾度も幾度も繰り返している。


 そのうちに、片半身を持ち上げ過ぎて今度は仰向けにひっくり返った。仰向けになって脚をジタバタと1秒ほどバタつかせると、再び起き上がった。


 泥酔? これはきっと泥酔だろう。

 正月だ。大いに酔っぱらってくれ。


 私はハエトリ姫の隣でゴロンと横になり、〝酔っぱらいハエトリ姫〟をずっと見守り続けた。


 特に何があったというわけではない。

 めでたい正月にハエトリ姫が酔っぱらった。ただそれだけのこと。


 私の新春の平和で穏やかな昼下がりの時間が過ぎていった。


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