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第13話 ミツバチは優しく地球を守る

 2022年12月29日、アメリカにてミツバチの病気を予防するワクチンが承認された。

 アメリカ腐蛆(ふそ)病というミツバチの細菌感染症を予防する、ミツバチのための初のワクチンである。


 ミツバチは農作物の受粉を助ける花粉媒介者として自然界の中で役立っている。そんなミツバチを感染症から助けて保護しようという。


 腐蛆(ふそ)病はミツバチの巣を死滅させてしまう感染症で、これまでは養蜂場(ようほうじょう)で感染したミツバチへの対処法は「抗生剤による治療」または「焼却処分」となっていた。


 腐蛆(ふそ)病ワクチンの接種方法は、餌に混ぜて投与する経口摂取方式。

 ワクチンを使用した蜂群(コロニー)から新たに生まれたミツバチは腐蛆(ふそ)病に対する抵抗力が30~50%高まる、という研究結果が示されている。


 病気になったら殺処分というのは、私は以前からずっと、気の毒に思っていた。それが薬で予防と治療ができるというのなら、それは喜ばしく、とても素晴らしいことだと思う。



 蜂といえば、私は蜂に苦い経験がある。七歳の時にアシナガバチの集団に襲われたのだ。

 隣家の幼馴染(おさななじみ)と自宅近くの蜜柑(みかん)畑を走り回っていた時に、突然、訳も分からずアシナガバチの大群の襲撃に遭って全身を毒針で大量に刺された。


 それ以来、私は蜂といえばミツバチさえも恐れるようになった。私にとっては全ての蜂が恐ろしい存在になってしまった。


 当時、自宅から1km(キロ) ほど離れた場所に我が家の茶畑があり、時々、私は茶摘みの手伝いをするために徒歩でその茶畑に向かっていた。

 その道中に養蜂(ようほう)を営む農家の養蜂場があった。


「何も悪さをしなければミツバチのほうから人間を襲うことはないよ」


 そう教わっていた。でも怖かった。


 その養蜂場を通り抜ける時、私はミツバチを刺激しないように、静かにゆっくり歩くことを心掛けた。

 ミツバチたちは(おび)える私の横をすり抜け、どこかに蜜を採集するために飛んでいく。

 ミツバチたちは私に全くの無関心だった。

 きっと蜜集めの仕事に忙しくて私なんぞに(かま)っている暇など無かったのだろう。


 ある時、私は幼馴染みと二人で四つ葉のクローバー探しをしていた。

 クローバーの和名はシロツメクサ。そのシロツメクサの花にミツバチが蜜を吸いに飛来した。私のすぐ目の前での出来事だった。

 私は静かにじっと、ミツバチの行動を見つめた。

 ミツバチは私に構うことなく、せっせ黙々と自分の作業を(こな)し、そしてどこかに飛び去っていった。

 ミツバチは怖い蜂ではなかった。仕事に忠実に一生懸命なだけの優しい蜂だった。


 この日以来、私にとってミツバチは怖い存在ではなくなった。



 日本に暮らすミツバチは主に二種類である。古来より日本に暮らすニホンミツバチと、外来種の西洋ミツバチだ。

 ちなみに西洋ミツバチの多くは、養蜂のためにイタリアから日本に招かれたミツバチだ。ボンジョールノ!


 外観はほぼ同じだが、実はこの二種には大きな違いがある。西洋ミツバチは日本国内では野生で生きていけないのだ。全てが養蜂家に家畜として飼われている。


 理由はミツバチの天敵であるスズメバチの存在だ。


 スズメバチは肉食である。ミツバチの巣を襲って幼虫を(さら)う。

 スズメバチとの(いにしえ)からの永き戦いを繰り広げてきたニホンミツバチには『蜂球(ほうきゅう)』と呼ばれる、対スズメバチのための必殺技がある。

 しかし、スズメバチという天敵の存在しなかったイタリア生まれのミツバチは、この必殺技『蜂球』が使えない。

 近年は蜂球を使う西洋ミツバチが見られるそうだが、その技にはニホンミツバチほどの必殺力はないという。


 つまり、天敵スズメバチの暮らす日本では、西洋ミツバチは野生下での生存は困難なのだ。


 ちなみに蜂球とは熱でスズメバチを倒す技のことで『熱殺蜂球』ともいう。興味のある方は是非、ネットで検索していただきたい。



 社会性を持つ虫であるミツバチの世界はとてもよくできている。ミツバチの巣の内部(コミュニティ)には、一匹の女王蜂と、仕事をしないぐうたらな少数の雄蜂(オスバチ)、そして働き蜂である大量の雌蜂(メスバチ)が暮らす。この一群全てが家族である。


 働き蜂は(さなぎ)から羽化すると初仕事として巣内の掃除係を任される。

 その後、幼虫たちの世話係、巣の修復係、女王蜂の世話係、などと経験を積み上げ、そして初めて蜜集め(外回り)の仕事を任される。


 つまり、蜂蜜(はちみつ)を採集するミツバチはベテラン中のベテランであり、年長者なのだ。


「年長の働き蜂が外回り仕事なのは、寿命を迎えた時に巣の外で亡くなってミツバチの巣にとって都合がいいから」という人がいる。だが、その考え方を私は好ましく思わないし、寂しくも思う。


 新しい女王蜂が誕生すると旧女王蜂は巣を出ていく。これを分蜂(ぶんぽう)という。

 この時には半数の働き蜂が旧女王蜂に付いていく。

 きっとミツバチは家族思いで義理堅い生物なのだと私は思う。



 少し前の話だが、私はある時、コタツでうたた寝をしていた。

 ふと目を覚ますと、どこから侵入したのか、コタツテーブルの上に一匹のミツバチがいた。深夜のことだった。もう飛ぶこともできないほどに衰弱していた。


 見つめる私にミツバチはブブブッと羽を羽ばたかせてみせた。ミツバチ同士はダンスと羽ばたきで情報伝達をする。私に何か伝えたいことがあるのかもしれない。

 だが、残念なことに私にミツバチの言葉は分からない。


 何か栄養の採れる物を与えたいと思ったが、この時には液状の物は牛乳しかなかった。


 私は牛乳を一滴だけ、ミツバチの眼前に垂らした。 


 その一滴の牛乳をミツバチは全て飲み干した。胃袋なのか、お腹が真っ白に染まっていた。この時の私にできることはこれくらいしかなかった。


 翌朝、ミツバチはもう静かに動かなくなっていた。


 ミツバチの寿命は長くはない。長く生きても平均3ヶ月ほどだ。その短い命を、様々な経験を積みながら巣の家族のために懸命に働いた。そして静かにその寿命を(まっと)うしたのだ。


 私はミツバチの亡骸を庭の雑草の葉の上にそっと乗せた。せめて最期は自然の中に帰してあげたいと思った。

「お疲れ様でした」と心の中で静かに(つぶや)いた。



 ミツバチは地球を守っている。

 植物たちの命の連鎖を手助けし、自然界のバランスを保っている。

 ミツバチは余程のことがない限り(みずか)ら戦うことのない、巣で待つ家族のために懸命に働く仲間思いの優しい蜂なのだ。


 かつて、アインシュタインは言った。

『ミツバチが絶滅したら人類も4年後に滅ぶだろう』


 これからもミツバチは地球の自然を守っていくだろう。

 今日もミツバチは花から花へと蜜を集めて飛び回る。



 巣へのお土産(みやげ)に、後脚に沢山の黄色い花粉を抱えながら飛ぶミツバチ。


 その姿を私は実に愛らしく思う。


◆◇◆


 ミツバチをペットとして可愛がって飼う人がいます。

 木箱などを用意して、その中に巣を作って住み着いてくれれば、案外簡単に飼えるそうです。

 飼う場合は、養蜂振興方法に基づき「蜜蜂飼育者の都道府県に対する届出義務」が法律で定められています。

 但し、これはあくまでも「届出」であり、国や行政機関による許可や免許が交付されるというものではありません。

 飼育届けは簡単な手続きで提出できるそうです。



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