真珠の耳飾りの少女
作品に関係する事ならどんなものでもいいので、ご意見・感想をいただきたいです。
この作品のテーマは「振り返る人」で、800文字以内の文章です。
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「はい。では今日はですね、えー。西洋美術について学んでいただきます。えー。それでですね、その後皆さんには来週と再来週で好きな西洋絵画を選んで模写してもらいます。えー。じゃ、教科書52ページです。」
お弁当を食べた後の五時間目の美術は本当に眠い。あくびが出ているのを右手で抑えながら左手でページを捲る。
若干視界がぼける。それをそのまま左袖で拭って教科書に視線を落とすと、そこには死んだ姉が載っていた。
「はい。これがですね、フェルメールの有名な『真珠の耳飾りの少女』です。」
「フェルメール……?」
この絵画の少女は、どうしようもないほど、病室の窓際で日に日に弱っていく姉の姿を彷彿とさせる。
姉は白血病だった。僕の記憶の中での彼女はいつも、あの少女のように頭に何かを被っていた。当時の僕には、その意味が分からなくて、毎日のように「ねぇ、何でいつも帽子つけてるの?」と聞いていた。
「どうしてお姉ちゃんは髪の毛がないの?」と聞いたこともあった。
それでも姉は、顔色一つ変えることなく、太陽のように優しく明るく、「何でだろうね。」と微笑んでいたのを覚えている。
当時12歳の彼女にとって、現実はどれほど辛いものだったのだろう、幼く無知であった僕はどれだけ彼女を見えないナイフで傷つけたのだろう。
それなのに僕は、彼女の笑顔しか思い出すことができない。
涙が込み上げてくるのが分かると、僕は苦しくて。恥ずかしくて。悔しくて。情けなくて。悲しくて。
色んな感情に耐えられずに、机に突っ伏して寝たフリをするしかなかった。
「おい、起きろよ。授業終わったぞ。」
気がついて顔を上げると後ろからアイツが肩を揺らしている。僕は思いっきり深呼吸して「おう!」と元気よく振り返った。