2ページ スライム
辺留幅は仕事場に着いた。
前回、初めてはともかくとして色々起こりすぎてマンドレイクしか記入できなかったからなのだ。今回はせめて、余裕を持ってモンスターの記入にとりかかりたいところだ。
というわけで、もう少し前回と同じレベルのクエストを受けることにした。
前は、対象が動かなかったので、記入が楽だった。とはいえ、ほとんどのモンスターは当然ながら動いているわけで、記入が楽ではない。
辺留幅が目通しして選んでいると、「スライム」の文字が書かれていた。
これならば例え動いても、簡単に描けるからだと思ったからだ。
例によって同行者なのだが、赤の他人にするのも着いていけなさそうなので、前回と同じパーティ(2人)に頼むことにした。
向こうさんも経験の足りなさを補うため、記述依頼の同行することにした。
さあ、いざ行かん!というタイミングで
「おう!あんちゃん方!ちぃと、待ちな!!」
と呼び止められた。
声の方向を見ると、サイボーグのようなモンスターが見えた。
彼の名は「イクリエヒ」。
かつては、異界生まれの冒険者だったが、出過ぎた好奇心でゲートの先にて的といわんばかりにダメージを負わされ、現在のサイボーグ姿に至るという所だ。
現在は、遠出ができないかわりにアイテムクリエイターの職を活用して製作屋を営んでいた。
「あんたら、スライムのクエスト行くなら、こいつを貸してやるぜ。」
と言って、出してきたのは、背負うタイプのバキュームだった。
イクリエヒ曰く、スライムは死ぬと形状が崩れ溶け出してしまうのだ。そうなると、地面が汚染される問題が発生し、拡がれば生態系に影響が出てしまうのだ。
他の死体はともかく、スライムに至ってはそれを防ぎ、アイテムに活用させようということらしい。スライムの体は、塗り薬やランタン油などに活用できるようだ。物質的に食用には向かないとのこと。
バキュームを借り、今度こそクエスト開始!
場所は、「チゼラ林」。スライムが多く生息する場所で、わるいスライムがいないほど、人間と共生して生活している。
今回のクエストは傭兵仕事。報酬は、薬草類と種、1ランク上のアイテムの採取場所情報である。お金はギルドが報酬に追加してもらえるので、問題ない。
頭の回る種族モンスター以外は、お金を使わないのだ。
チゼラ林に向かう途中、ゼリー状の塊を見つけた。
これが、スライムの死骸だ。端から見れば、これが汚染物質にはとても見えない。しかし、死骸を処分するモンスターが確認されてない以上、現段階では道具で回収するしかないのだ。そして、廃棄するわけにもいかず、有効活用という手段を、この世界の人々は選択した事を
辺留幅は死骸をバキュームで回収しながら思った。
チゼラ林に着くと、とりどりの色をしたスライムの集団が待っていた。今回の依頼人?ということらしい。
スライムの基本食となる実殻や、樹液を持ち帰るまでの道中の護衛のようだ。樹液は、人間でいうところの、仕事後の酒のようなものと例えれば分かりやすいだろうけど、酒は飲まない主義なので、たとえでしかわからない。
個人的には、仕事後は酢だこを食べたい気分だった。
辺留幅達は、クエストを開始することにした。
道中、辺留幅は、スライムの事を考えてた。
最もイメージが強いのは、やはり「竜探険シリーズ」だろう。RPGで、弱いモンスターとして登場することが多く、そのゲームに至っては種類も多いのが特徴だ。最近は軟体であるがゆえに「実は厄介」という設定が徐々に増えてきている。この世界のスライムはどうなのだろう?
なんの襲来もなく目的地に着いた御一行。
樹液を採集しようとした矢先、違和感を感じた辺留幅。
ゲームなどでは大抵こういう時に襲来が来るからだ。
案の定、それは的中した。元の世界より一段とでかい蜂や、アナコンダが一斉に襲いかかってきた。
そのなかに二足歩行、剣盾装備、トカゲのモンスターがいた。
図鑑を読まなくてもわかった。あのモンスターはリザードマンだ!
リザードマンがこの群れを利用して襲撃してきたのだろう。なかなか、頭が回るとみた。しかし、突然の事すぎたためか、図鑑記入の隙がなかった。
(死ぬっ!!)と思ったその刹那
「グギャアアアア!」
リザードマンの奇声が轟いた!
見ると、リザードマンの腕にスライムが絡みついていた。
それは、きつく締め付けるのではなく、締め付けた部分を強酸で溶かしていた。
それにより、リザードマンは酸の痛みで武器を落とした。そして、もう一体のスライムが勢いつけて体当たりをしかけた。見事、腹部にクリーンヒットし、勢いからして肋骨1~2本は折れるほどに
地面に叩き倒れるリザードマン。ケダシカの剣で尻尾を切られた。まあ、リザードマンは、まだ生きてはいるけど
ラミィナは魔法ファイアを弱火で威嚇し、モンスターの集団を撤退させた。
無事に樹液を採取し、これにて一件コンプリートとなった。
チゼラのような特殊な樹液が、スライムの固体を維持してるのでないかと仮説が頭に浮かんだ。ただ、この樹液が素材としてどのような結果をもたらすのか、下手に情報を拡げたら乱獲の恐れがあり、生態系、最悪多種族との共生に亀裂を入れることになるだろう
そう考えると、人に限らずこういったモンスターも生きるには、やりくりを慎重にしないといけない。
今回の報酬を受け取りながら、そう思うのだった。