第51話 エピローグ(宮子視点)(β)
アタシは走った。
走って、走って、走った。
あんなにカタカタとうるさかった怒りの箱は、母の幻影と共に消えていた。
アタシの心の中は空っぽで、どうにもバランスが悪い。
ならば、そこにほかの何かを詰め込まなければならないのだろう。
アタシの中に、何が溜まっていくのかは分からないけれど、一つ言えることがある。
それはユカリさんやお父さんに話を聞けば、自然と溜まっていくだろうということ。
だからアタシは心のバランスのためにも、二人に話を聞かねばならない。
「ただいま」
そうしてアタシは自宅についた。
まるで海の底に沈んでしまったように生活音がしない――リビング。
アタシの到着を待っていたかのように、お父さんと、ユカリさんがソファに座っていた。
ユカリさんの顔は幽霊のように真っ白だったが、それでもなぜか活力に満ちているように見えるのが不思議だ。
アタシは荒くなった呼吸を肩で押さえつけるように、落ち着かせた。
その間に、父ではなく――ユカリさんが、口を開いた。
「ごめんなさい、ミヤコちゃん。アルバム、みたのね……。……怒っているでしょう?」
アタシは頷こうとしたが――すぐに首を振った。
「怒りはもう、アタシの中にないの――だから、教えて。ユカリさん……アナタはいったい――、アナタはアタシにとって、一体、なんなんですか……?」
ユカリさんは、アタシの目を見た。
それはやはり、力がないようでいて――しかし何かの決意を秘めた瞳に見えた。
「わたしは……、アタシは……」
そうして始まる物語を、アタシは一生忘れないだろう。
「アタシは、あなたが生まれた時から、ずっと傍に居た――」
カチリ、と。
どこからか、時計の針が進む音がした。
“アタシ”たちの時間は今、再び動き始めたのだ。
◇
●Princess of Ryugu
●fin
◇