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【書籍化】シンデレラは探さない。  作者: 斎藤ニコ
【シンデレラは探さない。】
19/51

第19話 過去の話・前編(真堂礼視点)

 彼と出会ったのは雨の匂いすらしない4月のことだった。


   ◇


 わたしは、わたしが好きになれない。

 理由を聞かれたら答えはとてもシンプルなのだろうけれど、それを口にしたくはない。


 わたしには、母親が居た。らしい。 

 とても美しい顔をしていたと皆は口を揃えて言う。あなたに良く似ていたよ、と。

 そして次にこう言う――昔から美人薄命というんだよ、と。


 美人だから命が短いのか、命が儚いからこそ美貌が際立つのかは知らないが、人から美しいと誉められつづけた母親は、とある金持ちと結婚した末に亡くなった。


 昔から出産は命懸け。

 そんなこと当たり前。

 でも、現代でのそれは安全で当たり前。


 まあ、そんなことはどうでもいい。

 ついでに父親が再婚するにあたって、私が邪魔になったことも別にいい。

 

『高校にももう慣れたろう? 大学生活の前に一人暮らしになれておくといい』


 父親の言葉は、半紙よりぺらっぺらだった。


 手切れ金は一億超えのマンション。

 空は近く、しかし羽のない人間には自由は遠い。

 

 わたしは、気がつく。

 

 ああ、なるほど――檻の中から出てくるなと、わたしはそう言われているのか。

 

 もしも、そのとき。

 わたしがわたしを嫌いなままであれば。

 わたしは羽もないのに空を飛ぼうとしたかもしれない。


 でもわたしは、地面に降り立った。

 エレベーターなんていう、文明の利器を使って、しれっとした顔で生きている。


 彼のおかげだ。


   ◇


 彼と出会ったのは雨の匂いすらしない4月のことだった。

 それは梅雨の気配すら見えない、高校一年のことだった。


 その頃はまだ半一人暮らしといったところで……まあいい、とにかくまだタワーマンションには住んではいなかった。


 わたしは、わたしの全てが嫌いだった。


 キレイな顔?――薄命なんでしょ。

 お金持ち?――戸籍上の父親がね。

 白い肌に細い四肢がすてき?――荼毘に付されたら同じですけど。


 ああ、うざったい。


 高校入学数日で、わたしはわたしがもっと嫌いになって、わたしはわたし以外の人間もだいぶ嫌いになっていた。


 なんて言えばいいのだろうか。

 あの『色々な感情が混ざった、みえみえの汚い表情』は。

 わたしは人が作り出す表情が大嫌いだ。


 人は上っ面だけをわたしに提示してくる。そして心でひっそりと本音を呟く。

 それらは必ずセットになっているのだ。ついでにポテトもつけてくれたら、わたしは喜んでトレーごと相手の顔に叩きつける。


 キレイな顔。

 お金持ち。

 肌がキレイで、すべてが――うらやましいと、薄皮一枚挟んで叫んでいる奴ら。


 それがうじゃうじゃ居る世界。


 シャーデンフロイデだったっけ。

 残念だけれど、わかる。

 本を読んで知ったけれど、他人の不幸は蜜の味。

 きっとわたしが無一文になったら、彼ら彼女らは、蜘蛛の子を散らすように消えていくだろう。


 だからわたしは笑わない。

 わたしはあんな、人間になりたくない。


 誉められる全てが憎い。

 でもわたしは、親からの生活費がなければ生きていけない矛盾の子供。


 だから、かしら。

『綺麗だね』と誉められ続けた『栗色の髪』。

『それ本当に地毛なの? 可愛いからって特例なわけ?』と妬まれ続けた『栗色の髪』。


 父親から受け継いでしまった、色素の薄いその『栗色の髪』を、わたしは広大な敷地の片隅のベンチに座って。


 うざったいからばっさりと。


 片手でまとめて、ハサミで切ろうとしたのだ。


 その時だった。


「え! もったいない……っ!」

「は?」


 聞こえてきたのは、男子の言葉。

 本当に『もったいなさそうな』声音のセリフ。

 まるで高級レストランで残された料理を、ゴミ箱に捨てるのを端で見ている子供みたいな反応。


 どうせうわっつらだけの表情で、『綺麗なのにもったいない』などと決まり文句を口にするのだろう。


 むかつく。

 なんでわたしの人生、いつも邪魔ばかりはいるのだろうか。


「もったいない? ふざけないで。あんたなんかに関係ないでしょ?」


 髪の毛の束に、開いたハサミを当てたまま、わたしは声のほうへ視線を向けた――。

【ひとこと】

活動報告にも書きましたが、パソコンが初期化されて全てが消えました!

かなしい!

でもまけない!


【おしらせ】

ブクマそして正直な評価を「↓」からしてくださると元気になれて嬉しいですお時間がありましたら何卒よろしくおねがいします(まがお)

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