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01-06:そのウサギ凶暴につき

これまでの話:モンスターを探して、いかにも出そうな場所まで来た、ボンクラとアリエル。

 森を見上げると濃い瘴気を感じた。森の端に沿うように歩く。ここまでモンスターの気配すらなかったが、さすがに今にでも現れそうだ。


「さぁ、モンスター出て来なさい。勇者様がコテンパンにして差し上げますわ」


 アリエルは両手を振り上げて叫ぶ。

 その時、草影から白い影がいくつも飛び掛かってきた。

 ボンクラはとっさに構えたが、わき腹と頬に強打を受け倒れてしまう。

 倒れてからアリエルの方を確認すると、襲ってきた対象のうち一匹を蹴り飛ばしていた。怪我はないようで安堵するが、戦闘は自分以上に出来るようで少し複雑だった。


 襲ってきたのはマッスルウサギ。名前の通りウサギの姿をした筋肉隆々のモンスターだ。下級モンスターとされているが、動きが素早く、攻撃力も十分ある。集団で襲われれば熟練の冒険者ですら命を落とすこともある。


 身体を起こしながら、対峙するマッスルウサギ4匹から視線をそらさないようにする。これはヤバいな、一瞬で理解する自分の身体が思った以上に動かない。そうなるとマッスルウサギ4匹はかなりの脅威に感じる。昔はこの程度の攻撃かすりもしなかったのにな。

 アリエルが全部片付けてくれればよいのではないかと、期待の視線を向けてみる。


「勇者様、ちゃっちゃと片づけてください」


 少し後方に下がって、頑張ってと言わんとばかりにこちらにガッツポーズを向けてくる。頑張りたくないです。

 覚悟を決め、剣を抜き構える。マッスルウサギたちは「マッソーマッソー」と鳴き声を上げている。

 大きく息を吐いて、いつでも動けるように踵を浮かす。複数の敵と対峙するときは、足を止めたままでは袋たたきにされてしまう。動きながら戦うことを心掛けないといけない。


 マッスルウサギ達がこちらへ跳躍する。4匹を同時に相手するのは避けたい、横に駆け出し相手のタイミングをずらす。

 一番最初に追いついてきた1匹の攻撃を剣を振ってけん制する。剣はわずかにマッスルウサギの耳をかする。すぐに2匹目が拳を突き出してくる。体勢が悪いので、ダメージは覚悟して肩で受けて耳をつかみ放り投げる。3匹目に向かって放り投げたが、あっさりとかわされ懐まで近寄られ、そのまま足を払われる。まずいと思いながら、体勢が崩れたところに4匹目が踵落としを浴びせてくる、と同時に体制を整えた1匹目が拳を突き出して――。


「ムリムリムリ!」


 ボンクラは4匹の非道なウサギたちの連続攻撃に全身を打たれながら叫んだ。


「痛ってぇ。もういきなりムリだから。げふっ」


 かっこ悪いとか言ってられない。殺されてしまう。アリエルを見ると少し離れた場所にしゃがんで傍観している。


「もう少し頑張ってほしいんですけど」

「頑張った、俺もう十分頑張った。ちょっ、マジ助けて。うっ」


 ちょっと泣き声交じりだったかもしれない、何せ全身をぼこぼこ殴られて実際痛いのと怖いので涙はでた。


「仕方ないですね」と歩きながら呪文を詠唱をするアリエル。そして右手をこちらに向けると「圧風(プレッシャー)」の呪文を唱えた。


 吹き飛ぶほどの風に、俺もウサギたちもその場で踏ん張るのが精一杯になる。そこへ走りこんで来たアリエルは、ウサギを千切っては投げ、千切っては投げとあっという間に俺を助けてくれました。

 世界中を一人旅をして勇者を捜していたという事実と、最初に襲われた時の動きから、かなり強いであろうことは想像できていた。しかし外見とは裏腹にここまでパワフルな立ち回りを見せてくれるとは予想外だ。


「それだけ、強いんならもっと早く助けてくれ。」


 少女に強く抗議する俺を誰が攻めることができようか。

 なんでマッスルウサギ程度で苦戦しているのと言いたげにこちらを見てくるアリエル。


「何言ってるんです、忘れたんですか私との約束。今のままじゃ守れませんよ」


 忘れてたが昨日思い出した。もう一度忘れることを強く望む。

 千切って投げられたウサギたちは体制を整えて再度の攻撃をするべく身構えている。アリエルが意図的に手を抜いたようで、ダメージは大して無さそうだ。

 とりあえず剣を構える。


「魔法も使ってください。使えるんですよね」


 生徒に教えるような口調のアリエル。確かに魔法も使えるが、俺の魔法弱いんだよな。

 仕方ない、腹をくくってもう一度マッスルウサギ達とやりあってみよう、いざとなったらまたアリエルに助けてもらえばいい。

 10代少女からの救援を期待しつつ。今度はこちらからマッスルウサギに向かって駆け出した。

 身構えるマッスルウサギ、左から2番目の個体に向けて左手を突き出し、詠唱を終えた呪文を唱える。


水球(ウォータードット)


 カボチャほどの大きさの水の塊が、マッスルウサギめがけて発射される。

 狙った通り顔面に命中するもダメージは無さげ、そりゃそうだ水だもの。しかし濡れた顔を振って脱水に必死になっている。

 脱水中以外の3匹はこちらと同じく駆け出していた。

同時に相手はできない、次なる呪文「火花(スパーク)」を唱えると一瞬赤い火線が空中を走り左はしのマッスルウサギの目の前で、バチンと炎が小さく弾ける。これもたいしてダメージは与えていない。しかし一瞬ひるんでくれる。


 残り二匹は既に魔法が間に合うタイミングではない。片方に剣を振り下ろす。しかし素早い動きで避けられてしまう。同時にもう一方が殴りかかってきていた。

 

 防ぐことのできるタイミングではない、顔面を2度殴られる。振り払うように剣を振り回し多少の距離をとるも、脱水を終えたマッスルウサギと、火花から立ち直ったマッスルウサギがすぐに距離を詰めてきた。片方の繰り出してきた蹴りを腕で受け止め、もう一方のこぶしはぎりぎりでかわす――


「だあああ。ムリムリムリ。助けて。げふっ」


 結局マッスルウサギにぼこぼこにされ、再度アリエルに助けてもらった。


「顔面ぼこぼこだし、頭モヒカンだし。昨日の勇者様と比べると別人ですね」


 そう言いながら、アリエルはクスクスと笑う。


「いや、モヒカンお前のせいだろ」


 アリエルは口をとがらせ明後日の方向に目をやる。私知りませんけどって態度だ。


「それにしても、マッスルウサギ一匹も倒せてませんね」

「モンスターとの戦闘も10年ぶりだからな。というかまともな運動自体が10年ぶりだぞ、気持ちは身体を動かしているのに、身体がついて来ないんだよ」


 眉間にしわを寄せ、言っていることが分からないといった表情をするアリエル、まあ10代の若者には伝わらんよな。


「仕方ないですね。半分は私が対処しますよ。2匹なら今の勇者様でも倒せるでしょう」


 よし、難易度が下がった。2匹なら俺でもなんとかなるかもしれない…。


「まあ、2匹なら余裕だな」


 自信満々風に言っておいた。

これからの話:ダメダメ勇者に更なる試練が……。

次回「ある日森の外クマさんに出会った」

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