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06-08:忘れない者

これまでの話:チュウカーン王都で潜入調査をしていたヘルメイジ達は、兵士に追われるも無事、根城であるシラカバ塔へと帰ってきた。

 ヘルメイジ一行は、シラカバ塔の入り口をくぐった。


「はぁ。やっぱり我が家が一番ですね」


 見慣れた塔内は緊張の続いた一日が終わった事を感じ、本当に安堵できた。

 

「そうでゲコね。それにやっぱりこの姿が落ち着きますでゲコ」


 ヘルメイジも、レッドフロッグも本来の姿に戻っていた。

 兵士に化けて、森まで逃げた後心身転写(フルコピー)を解除し、キャッスルベアが荷車に乗せてきた本物のゲーンズ一家を街道に解放したのだ。

 

「しかし寝かせたままでよかったのでしょうか」


 クレイマンも本来の土人形の姿に戻っていた。

 

「大丈夫ですよ。街道はすぐに人間が通りますからね。起こしてくれますよ」

「はん。へんなヤローだぜ。人間の心配をするなんてよ」


 キャッスルベアは呆れている。

 まあ、キャッスルベアが理解できないのは仕方ないとヘルメイジは思った。確かにモンスターが人間の心配をするのは不自然な事だが、これは心身転写(フルコピー)を使用した者にしか理解できないかもしれない。対象となって二日間過ごしたために、あの姿に愛着があるのだ。

 

「いいじゃないですか。ではクレイマンはしばらくこの塔で休んでいきなさい。案内はキャッスルベアがしてくれるので」


 名指しされ、一瞬「何で俺が」と反論しようとしたキャッスルベアだが、すぐに「仕方ねえ。案内してやるからついて来い」と歩き出した。 

「では。お世話になります」


 そう言って、キャッスルベアに続くクレイマンを見てヘルメイジは気づいた。

 

「おや?その腕のかざりはどうしたのですか?」


 クレイマンの腕には紐を結った物が括ってあった。

 

「ホイルの姿の時に、ディアンに貰ったのですが……。申し訳ありません返すのを忘れてました」


 クレイマンは困ったように、俯く。

 ヘルメイジもレッドフロッグも衣類などは、すべて本物に着せてきた。もちろんクレイマンも。

 

「まあ、それくらいなら貰ってしまっても問題ないでしょう」


 クレイマンは嬉しそうに腕の飾りを見て、そして頭を下げキャッスルベアに追いつこうと小走りで行ってしまった。

 

「変化の専門家もミスをすることがあるゲコね」

「さあ、ミスじゃないかもしれませんよ」


 不思議そうな顔をするレッドフロッグ。

 心身転写(フルコピー)をすればその姿の人間に愛着を持つ。そして関わった人間にもそういった感情を持つことはあり得るのだ。

 

「私達も行きましょう。魔王様に報告をしなければなりません」


 歩き出すと、レッドフロッグが後ろからついて来る足音がペタペタと聞こえる。

 戻ってきた実感をふみしめながら。ヘルメイジは通信室へと向かった。

 

 ◇◆◇◆◇ 

 

 塔のモンスターの多くが眠りにつく時間。

 ヘルメイジは会議室でレッドフロッグと留守の間に停滞していた仕事片づけていた。

 

「備品申請の確認終わりましたゲコ。サインお願いします」

「ありがとうございます。こちらも傷病報告の資料作成が終わったところです」

「ようやく、片付きますゲコ」


 汗を拭くようなしぐさをするレッドフロッグ。

 ヘルメイジとレッドフロッグの前のテーブルには書類が積まれている。

 

「今日中に終わってよかったですよ」


 ヘルメイジはレッドフロッグから渡された備品申請の書類にサインをして一息つく。

 その時部屋のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 部屋に入って来たのは、金属の身体を持つ蝙蝠モンスター。シルバーバットだった。

 

「報告を2件ほど」

「どうぞ」


 ヘルメイジはそう言って、座ったままシルバーバットの方に居直る。

 

「まず。先日瘴気の実を食べて行方不明になっていたアリゲータソルジャーですが、人間達に倒されたのを目撃したと部下から報告がありました。人間達は複数いたようでそれぞれが武器を手にしていたようです」

「人間に討伐されたという事ですか……残念です。瘴気の実を食して崩壊を免れた個体だったので、ぜひ長期観察を行いたかったのですが」


 未だはっきりしない瘴気の実の効用を、調べるいい実験台になると思っていたので、これは本当に残念だとヘルメイジは思った。

 

「もう一つ。ヘルメイジ様から捜索の指示をいただいていた、あのモンスターを見つける事が出来ました」

「ほ、本当ですか!?」


 ヘルメイジは思わず腰を浮かせる。


「あのモンスター?」

「長い事、各地域を転々としているモンスターが居まして、数年前からこの辺りでの目撃証言があったので、時間のある時に捜索するようお願いしていたのです」


 事情を知らない、レッドフロッグに説明する。

 

「ええ……。それで、今ここに居るのですが……」


 シルバーバットの歯切れが悪い。いや、あれをここまで連れてきたのだ、その反応は妥当だと言える。

 

「通してください」


 ヘルメイジの言葉に、シルバーバットは廊下にでて「こっちへ」と誰かに呼びかける。

 廊下から戻ってきたシルバーバットの後ろからそれは付いてきた。

 頭の無い戦士の姿。干からびた身体に、ボロボロの鎧とマントを身に着けている。一見アンデット系モンスターの、ガイコツソルジャーにも見えるが、瘴気の量が比較にならない程多い。

 霧と化した瘴気が会議室に薄っすらと立ち込める。

 

「一、死期を逃し、されど迫害の元に混迷せず」


 それは朧げで静かな声だった。

 

「え?なに?何を行ってるゲコ?」


 レッドフロッグが戸惑いの声を上げる。

 

「確かに私が捜していた者のようですね」


 ヘルメイジは、席を立ちそれに近づいた。

 

「私はこの塔の管理者です。あなたの望みをかなえる事が出来ます。その時までこの塔内で待っていて下さい」


 首無しの戦士はゆっくりと歩いて廊下へ出る。

 どうやら承諾してくれたようだ。

 

「シルバーバット。彼に空いている部屋をあてがってください」

「わ、分かりました」


 シルバーバットも首無しの戦士を追って慌てて部屋を出た。

 

「あれは何者ですかゲコ」

 

 緊張をしていたのかレッドフロッグは大きく息をつく。

 

「次回作戦のための秘密兵器です」

「私の持っている、『月刊魔王通信増刊付録モンスター百科』でも見た事ないモンスターでしたゲコ」

「なるほど……、モンスター百科には載ってないでしょうね」


 レッドフロッグは不思議そうに「どうしてですかゲコ」と聞いてくる。

 

「何せ彼はモンスターではなく人間ですからね」

「に、にんげ……ん」


 驚いて言葉を詰まらせるレッドフロッグ。

 会議室内にはまだ瘴気を感じる霧が、微かに漂っていた。



 −第6話:クレイマン×クレイマン 完−

これからの話:第7話の予定

チュウカーン城にすべての魔法使いの頂点に君臨する大賢者『総師』が訪れる。

それを出迎え整列するスカルだが、現れたのは総師と付き人はアリエルとボンクラだった。

なぜか総師のふりをする二人、ボロが出ないようにフォローするスカルとイオ。

そしてチュウカーン城にヘルメイジの魔の手が迫る。 ※あくまで予定です。


恐らく7・8話をかき上げるのに、2,3か月かかります。気長に待ってください。

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