06-06:交渉する人
これまでの話:ホイルとディアンは誘拐犯達につかまった。
ザール氏に交渉をする為、オカマが場所を離れ。何故か騎士が街から食べ物を大量に買ってくると、誘拐犯達は楽し気に食事を始めた。
「ほら。アンタ達も食べな。子供が遠慮なんかしないで……って縄で縛ってたら食べれないね。ちょっとサブ、この子達の縄解いてやりな。全く誰が子供を縄で縛るなんて外道な事したのかね」
「へーい。って縄で縛ったのカシラっすよ」
サブと呼ばれる騎士が、カシラと呼ばれている女性から小突かれる。
サブはディアンとホイルの縄を容易に解いた。どうやら最初から大してきつく縛っていなかったようだ。
隣のディアンを見ると、ゴザに座るか決めあぐねているようだった。
「座ろう。どうせ今出来ることは無いから」
ディアンはホイルの言葉に頷くと、ゴザへとすわる。ホイルも同じようにした。
「ほら、遠慮せず食べなさい。あ、お弁当食べてたからお腹空いてないのか?果物なら食べれるだろ。りんごむくから食べな」
カシラはやたらと世話を焼きたがる。
「意外っす。カシラ結構子供好きなんすね」
「ばかっ。別に子供好きじゃないさね。常識として、子供の面倒見るのは大人の務めだ」
頬を染めて否定するカシラをサブがからかうように笑う。
「なんだか悪い人達じゃないみたいね」
ディアンが小声で話しかけてきた。先程より緊張はほぐれたようだ。
「これなら、旦那様がいらしたらすぐに帰れそうだね」
ホイルの言葉にディアンが表情を曇らせる。
「きっとお父様に怒られるわ。出ちゃいけない農耕地に出て、迷惑かけるような事態を招いて、ひょっとしたら家を追い出されるかもしれない」
スカートをぎゅっと握りしめるディアンは今にも泣きそうだ。
「追い出されるなんて、そんな事ないよ」
「ホイルはお父様の事を分かってないわ。お父様は自分の仕事を邪魔されるのをものすごく嫌うの。私はそれで……何度か叱られてるもの。今日だって本当は仕事で忙しく過ごしていたはずなのに、私のせいで……」
目のふちに、涙を溜めて。それでもディアンはこぼさないように上を向く。
クレイマンはかける言葉を探していた。ホイルならそうするはずだからだ。しかしこの様な状況に対処した経験をホイルは持ってなかった。
「流石にそりゃあ、酷い話だね」
カシラがパンを片手にディアンを見ている。
小声で話してるつもりだったが、近くに座って居たから聞こえた様だ。
「やっぱり、カシラさんから見てもお父様は酷いですよね」
ディアンは同意を得るようにカシラを見る。
「あぁん?あたしが酷いっていったのはアンタのその自分勝手な妄想よ」
カシラは今度はお酒を片手に、へらへらと笑っている。
「妄想……ですか?」
ディアンは不服気にカシラを睨む。
「そうさ、お子様の妄想。父親を仕事優先の心無い人間って思い込んで。まあ、アンタ位の子がそう言ったこと考えるのわからなくもないけどね。アタシもそんな時期あったし」
「え?カシラも女の子だった時期あったんですか」
カシラの裏拳がサブの顔面にめり込む。
「カシラさんと、うちでは家庭の事情が違います!」
ディアンはムッとするとカシラの方に身体を寄せる。
「そうね。アタシは商人みたいなゆったりした家と違って、厳しい家に生まれたからね」
「え?カシラはトロルに育てられたんんじゃ――」
カシラの裏拳が再度サブの顔面にめり込む。
ディアンは変わらずムッとしている。
カシラはディアンのおでこをコツンと指ではじく。
「自分の父親でしょ。優しい人だって信じてあげな」
「俺も、カシラが優しい頭領だって信じたいんですけど」
サブに「もう、あんたうるさいさね」と無理矢理酒を飲ませている。
「ディアンの言う通りだね」
ホイルの言葉にディアンは「え?」と振り向く。
「悪い人たちじゃないみたいだ」
「そうね」
ようやくディアンは笑ってくれた。
「ほら、りんご剥けたよ」
ディアンは「ありがとう」と林檎を受け取った。
ホイルも受け取り。それを食べながら、農耕地の景色とゆかいな誘拐犯のやり取りを見ていた。
◇◆◇◆◇
ホイルもディアンもゴザの上で飲み食いを十分楽しんだ頃。
カシラが、ふと街のほうに目をやった。
「どうやら帰ってきたみたいだね」
人影が三つ。こちらに向かって来るのが分かった。
人質交渉が終わればすんなり帰れるだろうと、気を抜いてたホイルは近づいて来る人影を見て驚いた。
ザールが一緒に居るのは分かる。しかしホイルの父ゲーンズ、つまりヘルメイジがオカマと一緒にやって来るとは思って無かった。
何故ヘルメイジ様が!?
合流したオカマは状況を報告している。
どうやらオカマとザールが話しているところに、ヘルメイジ様も居合わせてしまったようだ。
「ディアン!」
ザールは娘の姿を見つけると声を発した。眉間にしわを寄せ、とても心配しているのが分かる。
ディアンの方を見えると見ると申し訳なさそうに俯いている。
「お父様ごめんなさい」
悲しそうな娘の姿をみて、ザールは近づこうとするもオカマに阻まれる。
「おっと。本が届くまでここから動かないでよ」
「ザールさん。悪いがまだ娘さんを返す事は出来ない。本が届いてからだね」
ザールは酒を飲むカシラを睨みつけるが、カシラはそれを気にもかけていない。
「あんな物の為に大層な事をしてくれたな。普通に値段交渉すればよいではないか」
「ザールさん。分かっているんだろう?あれは盗品だ。まっとうな商人であるアンタがそんな物を持っているのは憚れるんじゃないのか。直接交渉しようともシラを切られる事くらい分かっているさね」
「私だって借金のカタに仕方なく受け取ったものだ。盗品だと気づいたのは後からだった……」
悔しそうに手を握るザール氏。
「まあ、本さえ渡してもらえれば娘さんは開放する。今は待とうじゃないか。ところでそっちの男は誰だい?」
カシラがゲーンズを指さす。
「ああ、ホイルの父親らしい。ザール氏との話を聞かれたから連れてきた」
「ふうん。誘拐された自分の息子に対面したのに随分と冷静じゃないか」
これはマズイ。人間の父親ならもっと息子を心配すべきなのだ。ザールの様に。
「ホ、ホイル!」
慌てて息子の名前を呼ぶゲーンズ。
ヘルメイジ様もやはりこの状況に対して経験が無いから人間らしい対応が後手になってしまう。
「父上申し訳ありません。いらぬ手間をかけてしまいました」
ホイルの言いそうな事はコレでいいのだろうか。
「いやいい。無事帰れるだろう。…今は待とう」
今は待とう。つまり下手な事をせず大人しくしてやり過ごせという意味だろう。
黙ってうなずくホイル。
「おで、アンドレ」
アンドレがゴザを持ってきた。
それを敷きザールとゲーンズを座らせる。食事も二人に運ばれた。
ヘルメイジ様が居れば最悪、瘴気の実を使って瘴気を補給し、この場の全員を殺して脱出することも出来る。
そう思えば随分と気が楽になった。
ディアンも父親の顔を見て落ち着いたようだ。心なしか嬉しそうにも見える。
「嬉しそうだね」
「うん。お父様が心配してくれてたから」
「心配が嬉しいの?」
「そりゃあ……、ちょっと嬉しいのよ」
心配を掛けた事が嬉しいのか……。
怒って無くてほっとしたのとは違うのか。
温厚なヘルメイジ様だから、怒ってないないようでほっとしたが。シシコング様の前で今回のような失態をすれば、その時の気分次第かもしれないがバラバラにされてしまう可能性が高かった。
クレイマンは心配を掛けた事が嬉しいというのは理解できない心理だった。
そのまま、人間達の様子を警戒しつつも、食事をとって大人しく過ごした。
これからの話:ヘルメイジは人間達の不穏な空気を感じ取る。自分達は嵌められているのではないか。疑念渦巻く次回「君にさよならを」




