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06-05:劇団騎士

これまでの話:お弁当を食べる場所を探すホイルとディアンは曲がり角を曲がれずに、農耕地まで来た。

 農耕地。

 人間達は植物や動物の死骸からエネルギーを摂取しなくてはならない。

 その為、効率よく植物を採取するために生息地を管理する場所それが農耕地だ。

 木が少ししか生えず、麦ばかりの緑の絨毯が広がっている。

 

「はあ。やっぱり壁の中と違って解放感がある」


 ディアンが深呼吸をする。

 確かに、人間ばかり詰まった街よりここの方が落ち着く。

 

「街は人が多すぎて息が詰まっちゃうわ」


 驚いた事に人間であるディアンも、同じようなことを考えていたようだ。


「そうだね。えっと、お弁当は何処で食べようか」

「ちょうどいい木陰があるの」

 

 そう言って、ディアンの案内で農耕地を進んでいく。

 この農耕地は川に挟まれており、その川には城から聖水が流されている。それゆえに瘴気が無く、本来モンスターは近づくことすら出来無い。

 人間達のこれが領地なのだ。

 しかしいずれはモンスターが自由に過ごせるような自然の状態にしなくてはならない。

 

「ここよ。どう?いい場所でしょ」


 ディアンに案内されてきたのは、木がポツンと立つ丘の上だった。


「うん。景色も良いし素敵な場所だね。じゃあ早速お弁当を食べよう」

「ふふ。ホイルは食いしん坊ね。今だすから慌てないで」


 さっさと食事を済ませたいだけだ。

 人気のない場所だが、ザールに見つかれば叱責を受ける事は間違いない。

 ディアンは持っていたバスケットから、紙に包んだサンドイッチを取り出した。

 クレイマンはそれを受け取ると、紙をめくって噛り付く。

 

「うん美味しい」

「でしょう」


 ディアンは得意気に笑った。

 二人でサンドイッチを食べながらいっときを過ごす。

 このまま何も起きなければいいなと思っていた。

 しかし期待は大きく裏切られた。

 

「ああああ、まさかこんなところにモンスターが現れるなんてぇ」

 

 突然叫び声を上げて草影から飛び出してきたのは、人間の女性。

 足をじたばたと動かしている。

 

「どうしたのかしら」


 突然の出来事に、対応につまる。

 さらに草影から、熊……いや、毛皮を被った人間だろうか。よくわからない何かが飛び出してくる。

 

「おで、アンドレーーー!」

「あーれー。お助けーーー」


 どうやら、最初の女性は熊モドキに襲われているようである。

 このような時、人間なら助けに入るべきではないだろうか。

 そう思いちらりとディアンの様子を伺う。

 

「あれ……オカマよね。なんでオカマがクマの毛皮まとった男に襲われているのかしら」


 オカマ……なるほど。髪が長くて、スカートをはいている為女性だと思っていたが、確かに言われてみれば、人間の女性にしては肩幅があるような気がする。

 

「助けたほうがいいのかな?」

「どうかしら。何だか演技っぽいわ」


 (いぶか)し気に熊モドキとオカマをみるディアン。

 演技。つまり襲われている事は嘘かもしれないという事か。正直人間の虚偽の行動を判別する事は難しい。

 その内、オカマが何か叫んで、草むらに石を投げつけた。

 すると今度は全身に鎧を着こんだ人間が出てきた。

 

「この、モンスターめ、この聖騎士が、成敗を、してくれりゅ、くれる」

「ああ、騎士様お助け下さい」


 何故かオカマが鎧男に抱き着く。

 鎧男はオカマに吐しゃ物を浴びせ、二人は何か言い合いになる。

 演技だとしても、意図がさっぱり分からない。

 ディアンの反応が気になり見てみると、口元を手で押さえて笑っていた。

 

「ふふふ、喜劇かしら」


 なるほど。どうやら笑うのが正解のようだ。

 ホイルはディアンを真似して、笑ってみた。

 

「何笑ってやがる、ガキどもが。アタシがクマに襲われてるのがそんなに楽しいか」


 オカマが何やら怒ったような顔で近づいてきた。

 笑って正解だと思ったが違ったようだ。

 ディアンも笑うのをやめて少し怯えた様子だ。

 ホイルとしては、ここはディアンを庇う素振りを見せなくてはならない。

 

「ガキが色気づきやがってこんなとこで弁当なんてしてんじゃ、ぐはあっ!」


 今度は突然現れた女性が、オカマの顔面に蹴りを入れた。

 

「何だてめえは!」


 蹴られた顔面を抑えながら、オカマが女性に問う。


「お前達だな。喜劇を見せて油断させる新手の盗賊というのは。私が成敗してやろう」


 女性の言いようを信じるなら、どうやら彼らは盗賊のようだ。

 

「正義の味方気どりか、気に食わねえ。かかれ野郎ども」


 女性と、オカマ、熊モドキ、鎧男が戦闘を始める。

 見ていると女性はとても強く、あっという間に盗賊達をやっつけてしまった。

 

「そこの子供達、こいつらを縛るのを手伝ってくれないか」


 女性は盗賊達を足で踏んで押さえつけている。

 確かに手伝ったほうがいいかもしれないが、あまり人間に近づきたくない。何がきっかけで皮膚に直接触られるか分からない。

 

「分かったわ」


 しかしディアンはどうやら女性を手伝う気になっているようだ。

 仕方ない。手伝うか……手袋もしているし、盗賊達の動きに注意しておけば問題ないだろう。

 

「そうだ、二人で縄を持って……」


 そう言って、女性は縄を渡してくる。

 ディアンとそれを受け取り、盗賊達に巻き付けようとしたとき、縄はくるりと周囲を巻く。

 気づけばクレイマンとディアンは縄で縛られていた。

 ディアンの顔が近い。接触しないように気を付けなくてはならない。

 

「え、何どういう事!?」

「最初から僕たちを捕まえる為のお芝居だったみたい」


 戸惑うディアンに説明する。全く人間の芝居というのは見わけがつかない。

 

「お嬢ちゃん、ザールの娘だろ悪いが少しの間人質になってもらうよ。そっちのアンタ名前は?」

「ホイルです」


 どうやらディアンを狙った誘拐のようだ。

 ザールのように裕福な人間は他の人間から狙われる。

 想定外の事態は出来るだけ避けたいが……ここは大人しく従ったほうがよさそうだ。おそらくこの女性は演技無しで強い。抵抗すれば戦闘になるだろう。そうなれば皮膚に接触される可能性は大きい。

 ザールがどうなろうとも正体がバレるよりはマシだ。


「ホイル少しの間アンタにも付き合ってもらう。まあザールがすんなり渡すもん渡してくれたなら無事帰すさね」


 無事帰す。その言葉がどれだけ信用できるか分からない。

 問題は今日中に帰れるかどうかだ。瘴気の補給が無い状態で拘束され続ける事は避けたい。

 ディアンの方を見ると少し怯えている。

 

「大丈夫だよディアン。彼らも君も同じ人間なんだ。無茶はしないよ」


 ディアンは少し驚いたようにこちらをみる。

 そう。こういう時ホイルならどうするか……。

 クレイマンはディアンに優しく微笑んで見せた。

 

これからの話:さて、なぞの喜劇団は誘拐犯だった。

次回「交渉する人」

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