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06-04:曲がれない曲がり角

これまでの話:ホイル=クレイマンはメルメイジの忠告を受けて、今日を過ごす。

「昨日はありがとう」


 唐突に礼を言われた。

 ホイルの姿をしたクレイマンは、少し驚いて陳列を続けるディアンを見る。

 昨日と同じように店番をしてる。

 

「僕も自分が怒られない為に必死だったからね」


 そう、あの場でザールに平手打ちでもされれば、それこそ命に係わる事態になっていた……もちろんザールとディアンのだ。そして僕らの作戦は中断していただろう。

 

「お父様が褒めてたわよ。あれだけ口が達者ならよい商人になるって」

「いや、昨日はたまたまだよ」

「なんだかホイルじゃないみたいだった。私も見直しちゃった」

 

 ホイルとしては本望かもしれないが、本人と性格が乖離しすぎるのは、成り代わりとしては好ましくない状況である。

 取り合えず「あははは」と愛想笑いをしてごまかす。

 

「それでね、あの……」


 ディアナは何だかもじもじし始める。

 服のポケットから紐を()った物を取り出し。こちらに突き出す。

 

「これは?」

「お礼よ。御守りみたいなもの。手首に着けてあげるわ、袖をめくって」


 ありがたくない。全くもってありがたくない。

 腕に結び付けるときに肌にディアンの手が触れてしまう。

 

「ありがとう。自分でつけるよ、ディアンは陳列続けないと」


 御守りを受け取ろうと手を伸ばすと、ディアンがさっと手を引く。

 

「なに?私に着けて欲しくないの?遠慮なんてホイルらしくないわよ。ほら付けてあげるから」


 着けて欲しくないのだ。

 どうすればいい。自然に御守りを受け取り且つ自身でそれを身に着けるには。


「うん。じゃあお願い」 


 クレイマンは袖をめくる。

 ディアンは御守りをつけようと正面にしゃがむ。

 

「ほら、腕出して」

 

 すぐ目の前に手首結び付けようとするディアンの顔がある。

 ディアンが御守りを付けやすいように、クレイマンは腕を伸ばす。

 そう。ごく自然に腕を前にだ。

 まるで無意識であるかのように、ディアンの胸に指を当てた。

 

「あ、ごめん」


 驚いたフリをして手を引っ込める。

 

「やっぱり自分で着けるよ」

「あ、うん」」


 すこし頬を染めて俯くディアン。その手から奪うように御守りを受け取る。

 少し賭けだったが、どうやらこの年齢でも、人間は胸部への接触を恥じらうようだな。

 

「キレイな紐だね。ありがとうディアン」


 ディアンは嬉しそうに笑うと、陳列作業に戻った。

 手首に着けた紐は何色もの糸を編んだもので模様が入っていた。

 時間を掛けて作ったものだというのが分かる。

 ひょっとしたら、ホイルの兄バトーニの為に用意していたものかもしれない。

 陳列を終え、めったに来ない客を待つ。

 

「今日、お弁当作ってもらったから、お昼はお出かけしましょ」


 ディアンは先ほどの胸の件については既に気にしてないようだ。


「お出かけ?」

「デートしてあげるって言ってるのよ」


 少し照れたような、それでいて恩着せがましく彼女答えた。



 ◇◆◇◆◇

 

 正午をまわると、ザール氏の元で働く他の商人に店番を交代した。

 子供は遊んできなと声を掛けられたが、それほど気軽な気持ちではない。適当に返事をしてディアンと南北にはしる大通りに出た。

 

「何処かで座ってお弁当を食べたいわね」


 昼時の大通りはにぎやかだ、馬車が行きかい、様々な恰好の人間が歩いている。

 人間は服装、髪型を個人の好みで選ぶ。人によっては日替わりで変える。

 個の主張がモンスターより強いのかもしれないな。まあ、モンスターも個体によってはかなり個性の強いのもいるが。

 

「ホイル。ねえ、聞いているの?何処かで座りたいって言ったのよ」

「ああ、聞いてるよ、そうだな……確かそこの道を右に入るとベンチがあった気がするよ」


 ホイルはあちこちを歩いてたようで、街の情報には不自由しない。

 

「じゃあ、そこでいいわ。えっとここを右よね」


 右に曲がろうとして、道の先を見たディアンが足を止める。

 人だかりが出来て、何やら騒がしい。

 

「クマだー!クマが暴れているぞ」

「取り押さえろ、くっ。このクマ強いぞ」

「くそ、刺し違えてもクマを取り押さえろ」


 囲っている人々の隙間から、確かにクマらしい何かが見える。

 

「何だか、危なそうね。別の場所を探しましょう」

「うん。そうだね」


 大通りを引き続き南下する事にした。

 森で見かけた事はあるが、人間の街でもクマは出るのか。

 

「確か、この先を左に曲がったところに噴水があったはず」

「いいわね噴水。そこでお弁当を食べましょう」


 ホイルの記憶を探って次の場所を提案する。

 今日を無難に過ごすためにはディアンに平穏に過ごしてもらう事が重要だ。


「えっとここを左よね」


 左に曲がろうとして、ディアンが足を止める。

 人だかりが出来て、何やら騒がしい。

 

「鎧の騎士だー!鎧の騎士が暴れているぞ」

「取り押さえろ、くっ。この鎧の騎士強いぞ」

「くそ、刺し違えても鎧の騎士を取り押さえろ」

 

 囲っている人々の隙間から、確かに鎧の騎士らしい何かが見える。


「何だか、危なそうね。別の場所を探しましょう」

「うん。そうだね」


 大通りを引き続き南下する事にした。

 ダンジョンで鎧の騎士が暴れている事はあるが、人間の街でも出るのか。

 それにしても困った。お弁当を食べるのに適した場所はこの先には無さそうだ。

 

「このままだと街を出ちゃうね」


 正面には南門がある。この先は農耕地になっている。


「そうね、引き返しましょうか」


 振り返り進もうとして、ディアンが足を止める。

 今歩いてきた道に人だかりが出来て、何やら騒がしい。


「オカマだー!オカマが暴れているぞ」

「取り押さえろ、くっ。このオカマ強いぞ」

「くそ、刺し違えてもオカマを取り押さえろ」


 囲っている人々の隙間から、確かに男性の骨格をした女性の姿が見える。

 なるほど。人間の街ではオカマも暴れるのか。

 

「何だか、この通りも危なそうね。どうしよっか」

「このまま進んでも街出ちゃうしな」

「うん。街出ちゃおっか。農耕地ならどこでも落ち着いてお弁当食べれそうだし」


 クレイマンはホイルの記憶を探る。うん。間違いない。

 

「確か、市街地から出るのは旦那様に禁止されてたよね」

「ちょっとくらい平気よ。実は私、何度か行ってるし」


 得意げな顔をするディアン。

 こんな顔をする時のディアンはホイルの意見を聞き入れることがない。クレイマンは諦めて彼女に従うことにした。

 そして2人で、南の門をくぐり農耕地へと出た。

 

これからの話:農耕地に出たホイルとディアンの前に不信な男達が現れる。

次回「劇団騎士」

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