06-01:織物屋ホイル
これまでの話:ボンクラが盗賊団に連れ去れている頃。
チュウカーン国城下街、路地裏にある倉庫の中でホイルは仕事していた。
こげ茶色の髪に同じ色の瞳、歳は10を数えたばかり。
樽に積もっていた埃を払う。
土壁で出来た倉庫は埃っぽく、窓から入って来る明かりが少なく薄暗かった。
「ふう。衣類と雑貨の数量は確認したと。今日出荷分は足りてるな」
足りなければ買いに行かないといけないところだった。
よしよし父上に報告に行こう。
窓を閉め、戸に鍵を掛ける。
表通りにまわると商店がありホイルの父親ゲーンズが、織物の確認をしている。
店内にはホイルと同じ年の少女ディアンが商品の陳列を行っていた。
「ディアン来てたんだね」
「あらホイル、倉庫に行ってたの?頭にほこりがついてるわよ」
少女に指摘され、あわてて頭をはたく。
「ホイル。納品する数量は足りてたか」
「うん。ばっちしだよ」
ゲーンズは頷き、表に出る。
「馬車を持ってくるよ。お前はディアンと店番をしていてくれ。ディアン、店と息子を見ていてくれ。特に息子をだ、サボったり悪さをしたらいつでもひっぱたいていいからな」
「おじ様任せて下さい。店もホイルも私がしっかり見てますわ」
ゲーンズは「安心だ」と笑うと、どこかへ歩いて行った。
「何だい二人して僕を子ども扱いして、ディアンは僕と同じ年じゃないか」
「でもここで仕事を始めたのは私の方が先なのよ」
そう言って陳列を続けるディアン。織物を、柄が分かるように少しずつずらしながら並べている。
全く、いつもこの調子だ。ディアンは僕を子ども扱いするのを何か楽しんでいるように思える。
不満ではあるが店番はしなくてはならない、ディアンの横で陳列を手伝う。
「あなた達親子が、お父様の元で仕事するようになって、どれくらいかしら」
「そろそろ3年くらいじゃないかな。収穫祭の前にお世話になるようになって、祭りに合わせた仕事で大忙しだったことを覚えているよ」
ホイルは頭の中のノートに書いてある過去の記憶を辿る。
そう、あの時は大忙しだった。
「3年か、今ではお父様の元で働く商人の中で、一番信用のある仕事をしているもんね」
「えへへ。そうだろ、そうだろ」
「ホイルを褒めたんじゃなくて、おじ様を褒めたのよ」
へいへい分かってますよ。ディアンがホイルの事を褒める事なんて、豚がテーブルで食事をするくらいあり得ない事なのだ。
「あらアンタも手袋しているのね。特に寒いわけでもないと思うけどどうしたの?」
ディアンがホイルの手元見る。
まずい。今の時期手袋は不自然だったのだろうか。
「おじ様も手袋してたのよね。商品をより丁寧に扱う為だと言ってたけど……」
「僕もそうなんだ。父上を習って仕事の時は手袋をつけてるんだ」
ディアンは「やっぱりそうなんだ」と納得した様子。
さすが父上だとホイルは感心する。
「なんだお前たち、口ばかり動かして無いで、手も動かせよ」
店頭にホイルによく似た青年が立っていた。
「兄さん」
8つ年上の兄バトーニだった。
「バトーニ。私は手もしっかり動かしてるわ。ホイルが話しかけてくるから仕方なしに、おしゃべりの相手をしていただけよ」
「全く仲良しだなお前たちは」
からかうように言うバトーニに、ディアンは「仲良くなんか」と言いかけ俯く。
多分バトーニの顔を見て照れてしまったのだろう。
「兄さん、もう武具の確認はおわったのかい」
「ああ、終わったよ。明日港街の武具屋に渡す分も確認してきた」
港街の武具屋……記憶のノートをペラペラとめくる。
「ああ、あのおしゃべりが好きな。確かこの街に来る途中盗賊に襲われたよね。怪我はもう治ったの?」
「元気だったよ、ただ取られる荷物は無かったけど、連れが盗賊に連れて行かれたらしくてね。役所に届けたけどまだ見つかってないらしい」「身代金でも要求するつもりかしら」
「どうだろうね、武具屋主人に請求しても知れてるだろうしな。身代金目的ならディアンを誘拐しないと」
バトーニが冗談めいた言い方をする。
「兄さん、ディアンはおてんばだから盗賊たちも手に余るよ」
「まあホイル。言ってくれるじゃないの」
ぷんすかと怒ってみせるディアンに「まあまあ」とバトーニがなだめ役に回る。
大体いつも通りの会話だ。
ディアンがふと気付いたようにバトーニの手元を見る。
「バトーニも手袋しているのね」
なだめるバトーニの手を見ている。
「ああ、武具を扱うからね。手を切らないようにつけてるんだ」
「あと父さんに習って、商品を大切に扱う為だよね」
バトーニの説明を補足する。
この捕捉がないと、武具を扱うとき以外で、手袋付けていたら不自然になるからだ。
バトーニも「そうそう」と調子を合わせる。
「なるほどね、私もそうしようかしら」
ふう。ディアンには納得してもらえたようだ。
そこへ、ゲーンズが戻ってきた。
「なんだ、バトーニも来てたのか。武具の方はもういいのか?」
「はい、港街の武具屋の主人に納品する分も終えました」
「帳簿はしっかり付けてるな」
「もれなく記載してます」
帳簿は後で旦那様も確認する。仕事をするうえで一番気を遣う作業だ。
「じゃあ、私とバトーニは城に納品に行くから、ホイルは店番頼んだぞ」
「ディアンが居るから心配は無いよ」
「もう、兄さんまでそういう事を言う」
ホイルの抗議に笑うと、ゲーンズとバトーニは、止めてある馬車に荷物を積む為、裏手へと向かった。
「さて、陳列も大体終わったし、暇になっちゃったわね」
ディアンは店番用の椅子に腰かけ、足をぶらぶらとさせる。
「午前中はお客さんも、ほとんど来ないからね。ま、店番交代の午後までは大人しく座ってるしかないよ」
暇だから僕たちが店番を任されてるのさ。と心の中で付け足す。
「さっきの話だけど、お父様は私が誘拐されたら身代金を払うかしら」
「そりゃあ、払うにきまってるじゃないか」
ディアンの父親に対しての不満はいつも聞かされている。
「そうかしら。何よりもお金の好きな人ですもの。私よりお金を選ぶと思うわ」
ディアンは「そんなことないよ」と言って欲しいのだ。
こういった会話の流れも今までに何度かあった。
だから今日も同じように言えばいい。
「そんな事無いよ。そりゃあ、普段はいそがしいからディアンと一緒に居る時間は作れないかもしれないけど、誘拐されればきっと誰よりも心配してくれるさ」
自信なさげに「そうかなぁ」とつぶやくディアンに「そうだよ」と言ってあげる。それがホイルらしい対応だ。
「うん。ありがとうホイル。そうだ午後からウチ来ない?いい物見せてあげるわ」
ディアンは笑顔で言った。
これからの話:ディアンに誘われて、ザール邸へとお邪魔する事になったホイル。そこでディアンにある物を見せられ。
次回「仄暗いところで」




