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05-14:懲役の時間

これまでの話:アリゲータモドキを撃破したボンクラ達、しかしカシラは兵士隊長のスカルに連行される。

 アイーダの酒場、カウンター席の真ん中。そこがボンクラとアリエルの指定席。

 日暮れ前、毎度の勇者様の修行と称したシゴキを終えて、夕食をとりに来ていた。

 

「アイーダさん聞いて下さい。今日はボンクラ様頑張りましたよ。なんとマッスルウサギ2体を倒したんです。2体ですよ」

「よせやいアリエル、俺だってやるときは、やるんだぜ」


 アイーダはテーブルに、ワインとオレンジジュースを置く。

 

「お疲れ様。そういえばアンタに武具屋の旦那から荷物預かってるわよ」


 アイーダは奥から紙に包まれた物を持ってきた。

 

「わあ、何ですか。どんな棘付き防具ですか」

「少なくとも棘付き防具ではないよ。ほらコレ」


 紙をめくると一冊の本が出てくる。

 革製の表紙には、ヴァルヴェールの家名と家紋が記してある。


「何ですかそれ」

「カシラが捜していた四冊目のヴァルヴェール家の本。ザール氏が本の輸送を頼んだのが武具屋のオヤジだったらしくてね。ザールさんの了承を得て、輸送先から戻してもらったんだ。うん武芸書ではないみたいだな」


 カシラが盗賊の仲間と天秤にかける程、気に掛けていた本。いったい何が書かれているのだろう。

 最初のページをめっくて。ボンクラはすぐに本を閉じた。

 ……ヤバい。

 これはアカンヤツや。

 

「どうしたんですか?何が書かれていたんですか?」

「い、いや。これは見てはいけないモノでした」


 額と背中に汗をかいているのを感じた。

 

「何でちょっと頬を染めてるんですか?私も見たいです」

「おい、ちょっ」


 アリエルは無理矢理本を取り上げるとページをぱらぱらとめくる。

 

「ん?何ですかこれ。日記?呪文?」

「ほら返しなさい」


 ボンクラはアリエルから本を取り返す。


「これは他人が勝手に見ていい物じゃないよ。見た事は直ぐに忘れる事。これは俺の手からカシラに返しておくから」

「はーい」


 アリエルは不服そうに返事をする。

 

「ところで、カシラさんはどうなったんですか?処刑されたんですか」

「物騒な事を言うなよ。まあ、その辺りの事はこの間スカル隊長に聞いてきたよ。よく考えてみれば分かる事だったんだが、あんな頻繁に盗賊行為をして城から目を付けられてないわけがないんだよな」

「どういう事ですか?」

「城は盗賊行為を黙認していたみたいなんだ」

「黙認?」

「そう。もともとチュウカーン国内では盗品の流通が問題になっていたんだけど、チュウカーン国の財政は商人達に借金をすることで成り立ってるんだよ。だから怪しい商人をみつけても強引な取り調べは出来なかった」


 アイーダがテーブルに、ナッツの盛り合わせを置く。

 

「盗品の流通に関しては私も経験あるわ。やたら安い値段でお酒をおろす商人が居て、気持ち悪いから取引はしなかったけど。あれは盗品だったのかもね。チュウカーンは大国だし治安もいいから、いかがわしい連中が集まってくるのよ」


 アイーダはカウンターの向こうからナッツをつまむ。

 ボンクラは話を続ける。

 

「そんな中、盗品を扱う商人ばかり狙う盗賊団が現れる。盗まれた本を探すカシラ達だ。カシラ達は盗賊が持つ売買ルートから、盗品を扱う商人を探して、襲っては盗品のみを巻き上げていた。結果、盗品を扱う商人達が城にかけこむようになったわけ」

「いかがわしい商人なのに城に助けを求めたですか?」

「城側が強気に出れないから、自分達の不正が露見することは無いってカタをくくってたんだ」

 

 アイーダは「傲慢よね」とつぶやき自分用のグラスに口をつける。

 

「でもお城側は、強盗にあったと訴えてくる商人達が、要注意の商人ばかりである事に気付いたってわけだ。盗まれたって品も元は盗品であることを突き止めて、商人達を罰していったわけだ」

「じゃあ、カシラさん達のおかげで悪徳商人を捕まえる事が出来たって事ですか」

「そう。だから城は『盗品狩りをする盗賊』の事は認知していたが、あえて手を出さずに泳がせていたってわけだ」


 アリエルは、うーんと何やら考えている。

 

「じゃあ、カシラさん達お咎め無しですか?あ、誘拐の事でザールさんが訴えてるか」

「ザール氏は誘拐の件でカシラ達に罪を問わないらしい、娘さんの『一緒に楽しく食事会をしただけ』っていう言い分を受け入れたんだと」


 カシラ達とザールの娘ディアンの間に何があったのかは知らないが、良い心象を与えていたようだ。


「それならなおさら無罪じゃないですか」

「そうはいかないのが大人の世界でね。盗賊行為に関しては罪を問うて罰を与える必要はあるって事で逮捕。そして懲役」

「懲役!?小麦を引く石臼を延々と回すやつですね」


 アリエルは何故かうれしそうに言う。

 

「何処の奴隷だよ。強制的にお城の役に立つ仕事させられてるらしいよ」

「お城の掃除とかですか。……もう教えてくださいよ」


 アリエルがぺしぺしと肩を叩いて来る。

 

「まあ、ある意味とても向いてる仕事だな。きっと今も働いてるんじゃないかな」


 ボンクラは彼らがあの仕事をしてる姿を想像して、少しクスリと笑った。

 

 ◇◆◇◆◇



 森を抜ける街道を、馬車が進んでいく。護衛と思われる冒険者達が5人周囲を警戒しながら付き添っている。

 周りの木々の上ではそれをじっと見守るいくつもの影がある。

 木の上で一人の人物の手が上がった。

 馬車をひく馬の足元に矢が突き刺さる。馬は(いなな)き隊列の足が止まる。

 

「なんだ、矢が撃ち込まれたぞ」

「各自周囲を警戒しろ」


 馬車の正面。戸惑う護衛達の前に、木の上からいくつもの影が降り立つ。

 軽装の防具にモヒカン頭の男達。手には武器を持っている。

 モヒカン男集団から、長い赤茶色の髪の女性が前に出る。

 

「悪いが、あたしらが仕事を終えるまで通せない」


 女は戸惑う護衛に背を見せ、馬車の進行方向に剣を向ける。

 

「出てきなモンスター共。隠れているのは分かっているよ」


 森からイエローフロッグ5体と、マッスルウサギ5体が姿を現す。

 モンスターに驚きながらも、護衛の一人が女に問う。


「あんたらは一体……?」


 女は毅然と答える。


「あたしらはチュウカーン国街道警備隊さね。さあ、お前達懲役の時間だよ!」


 モヒカンの男達は武器を振り上げ「オウ!」と応えた。

 

 

 −第5話:モヒカン×モヒカン 完−

これからの話:それでは5話の裏がわです。

次回「第6話クレイマン×クレイマン エピソード1:織物屋ホイル」

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