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05-12:おもてな死

これまでの話:カシラと別れて盗賊のアジトへ向かったボンクラ。そこへアリゲータモドキが現れる

「お客様のご到着だ。おめえら存分にもてなして差し上げろ」


 盗賊達があわただしくなる。アジト内からも武器を持った盗賊が出てくる。

 取り合えず、武器が無くては何もできないと、ボンクラはアジト内へと入って行った。

 アジト内に置いてあった適当な剣を取り、外へと出る。

 30人程の盗賊達にアリゲータモドキが囲まれている。

 

「いいか。支部の仲間の敵、そして俺達のアジトは俺達で守る。行くぞてめえら!かかれー!」


 古株の一人が号令をかける。盗賊達は雄たけびを上げ剣を、斧を、各々の武器を振りかざしアリゲータモドキへと走る。

 四方八方からの攻撃に、さすがにアリゲータモドキも防ぎようがないように思えた。しかし――。

 先頭にいた何人かが、宙を舞い皆の後方へと落ちる。続いてさらに何人かが宙を舞う。

 出遅れたボンクラの位置からでは、何が起きたのか見えなかった。しかしそれがアリゲータモドキの攻撃であることは明らかだった。

 しかし盗賊達もやられてばかりではない。

 

「どおりゃ!」

「おらっ!」

 

 何人かの攻撃がアリゲータモドキに届いているのが見えた。

 剣が、皮膚をそぎ、斧が肉に深々と埋まる。元々のアリゲータソルジャーは鋼鉄の皮膚を持っていた。しかし今のアリゲータモドキのただれた皮膚は見た目通りやすやすと攻撃を受け付けていた。

 痛みがあるのか、アリゲータモドキが空に向かって咆哮する。

 盗賊達の攻撃がアリゲータモドキの体に次々と傷を作っていく。

 これは俺が頑張らなくてもいいパターンかな。などとボンクラが思った時。

 囲っていた盗賊の全員が宙を舞った。そして雨のごとく地面にボタボタと降り注ぐ盗賊達。うめき声を上げてるから生きてはいるようだ。

 アリゲータモドキは全身の傷口から瘴気を吹き出し、一歩一歩アジトへと近づく。その途中で、盗賊達の顔を見ては「チガウ。コレジャナイ」とつぶやいている。

 その内一人の頭を掴んで持ち上げる。

 

「ニテ、いる」

「モヒカン……この男だよ……あ、兄ジャ」

「コロソウ、喰って……コロソウ」

 

 残っているワニの頭が口を大きく開き、掴んでいた男に迫る。

 

「どっりゃあああ!」


 ボンクラの振り下ろした剣が残ったワニの首を狙う。

 しかし、剣は空中で見えない何かに阻まれた。そして、口を大きく開けたアリゲータモドキと目が合う。

 

「ぎゃああああああああ!」


 アリゲータモドキは手に掴んでいた盗賊を放り声を上げた。これは雄たけびというより、歓喜の声だ。

 

「見つけたぞおおお!モヒカン、モヒカン男。ききき貴様を探していたああ!」

「兄者、傷口が痛いよ、首が痛いよ」

「殺して、モヒカン男を殺して」


 身体から噴き出す瘴気がより強くなる。

 ボンクラはいったん距離をとり、自身の頭を触り理解する。女装用のカツラが外れている。どうやら斬りかかった拍子に取れたようだ。

 

「ワニ公が、きっちり残りの一本も狩ってやるよ」


 とは言ったものの、勝算は特になかった。アリゲータモドキが先ほど負った傷は既にふさがっている。見えない攻撃と相まって以前戦った時より強くなっているように思えた。

 周囲では、比較的ダメージの少なかった者が身体を起こし始めている。

 

「動ける奴は、動けないの担いで距離をとれ」


 自分はアリゲータモドキから目を離さず、周りに指示を出す。

 

「鬱陶しい、ニセモノモヒカン男殺す」

 

 アリゲータモドキの近くで立ち上がろうとしていた盗賊が標的にされた。

 ボンクラは駆け寄り、アリゲータモドキから伸びる何かを剣で受け止める。

 目を凝らしてようやく見える瘴気の塊。

 アリゲータモドキの頭の無い首から触手のように伸びている。それは剣で受け止めると霧散して消える。どうやら接触の瞬間だけ実体化する。

 これが見えない攻撃の正体か。

 標的にされた盗賊を引きづって再度距離をとる、その際再び、見えない触手が迫ってきたがほとんどカンで剣を構えて防いだ。

 

「アニキ、大丈夫ですか」

「見えない触手で攻撃される。動ける奴は近づかずに弓とか投げ槍で攻撃しろ」


 盗賊達は返事をすると、アジトから弓を持ってくる。

 ボンクラは、皆の準備が出来た事を確認する。

 

「放て!」


 ボンクラの号令で矢が一斉に放たれる。

 放たれた幾本もの矢はアリゲータモドキにささる前に見えない壁に当たったかのように落ちる。瘴気の触手にすべて遮られたのだ。

 

「矢じゃダメージ与えれそうにないっすね」

「誰か強力な魔法とか使えないの?」

「無理っすよ。俺らにそういう小難しい事」


 近くにいた盗賊と相談しても全く解決策が出てこない。

 ボンクラは自分が仕える魔法を思い浮かべる。

 うーん……駄目だ。どれも決定打どころか足止めも出来ない。キャッスルベアの時は潤滑水(ローション)で転ばす事が出来たが、四本脚のアリゲータモドキには通用しないだろう。そもそも時間稼ぎをしても今は決定打が無い。

 そうこうしているうちにも、アリゲータモドキはのっしのっしと近づいて来る。

 

「仕方ない。効かないかもしれないが、もう一度矢を放つぞ。構え!」


 盗賊達の弓が十分に張り詰めたのを確認する。

 

「放て!」

 

 放たれた矢は先ほどと同じように、空中で瘴気の触手にはたき落とされる。

 やっぱり届きもしないか。とボンクラが思った時、声が聞こえた。

 

神創火炎塔(タワーオブエンド)!」


 アリゲータモドキの足元に赤い魔法陣が発生する。そして炎の柱が立ち上がった。

 使える人間なんて、世界中に数える程しかいない位の上級魔法。

 

「ぎゅああああああああ!」

 

 炎の中でアリゲータモドキの影が叫ぶ。

 呪文が発せられた方向を見る。

 アジトの屋根の上に人影があった。癖のある金髪にドヤ顔の美少女。アリエルがそこに居た。

 

「なんだ。思ったより遅かったじゃないか」


 ボンクラはアリエルがここに来ることは分かっていた。

 

「ボンクラ様の書いたこの地図。線と丸だけの稚拙な地図で、ここまでたどり着けたことを褒めて欲しいくらいです」


 アリエルは折りたたまれた紙を開いてこちらに見せてくる。

 

「誰にも見られないようにこっそり書いたんだから仕方ないだろ」


 以前盗賊行為中にアリエルと遭遇した際、胸を揉むふりをして渡した地図だ。

 決して胸を揉む事が目的だったわけではない。自然な接触の手段として仕方なく胸を揉んだのだ。

 

「おっぱいを触る為に地図を渡した事は許しませんけど、今はアレを何とかしなといけませんね」


 目的と手段が逆転しているので強く訂正を求めたい。

 

「アリゲータモドキは今の魔法で炭になってるんじゃ――」


 燃え上がった炎をはすでに消え、真っ黒になったアリゲータモドキの身体の各所を残り火がチラチラと揺れている。

 炭化したアリゲータモドキの手が落ちる。しかし新しい手が泥があふれ出るかのように生える。

 他の炭化した箇所もボロボロと落ちては、新しい部位に変わっていく。

 

「おおう……炭から蘇生するのかよ」

「まずいですね。もうボンクラ様置いて帰っていいですか」

「うん?ダメだけど」

 

 そうこうしているうちにも、身体を崩しながら蘇生していく。

 もう、瘴気の実を食べた直後のアリゲータソルジャーとは別のモンスターだ。

 

「ア……アツイ、身体も臓腑も、焼ける」

「兄者、アツイ、イタイ、イタイ」

「モヒカン、コロス、すべてモヒカンが、ワルイ」

 

 アリゲータモドキが口を動かすたびにその周囲の炭がボロボロと落ちていく。

 

「今のはモヒカン男じゃないです。金髪くせ毛の女の子ですー!」

「わーーー、何チクってるんですか。違います。モヒカンの男にやれって言われました」

「それは嘘ですー。金髪女が自主的にやりましたー」


 アリエルは屋根から飛び降りこちらに詰め寄ってくる。

 

「往生際が悪いですよボンクラ様。どう考えてもあのトカゲはボンクラ様指名してるんですから、さっさとやられてあげてください」

「いやいやいや。指名されたからってそんなに簡単に応じるような安い女じゃないからね」

「いや、ボンクラ様男ですから。ていうか何で女性の服着てるんですか。気持ち悪いからさっさっと溶かされてきて下さい」

「溶かされて……って、えぐいなそれ」


 アリエルと問答をしていたが、アリゲータモドキから注意をそらしていないつもりだった。

 しかし、気づいたときにはアリゲータモドキは素早く動いた後だった。

 落ちていた剣をくわえて、投げつけてきたのだろう。剣が目前まで迫っている。

 避けれないと思い身構えた。


 ガン!

 

 飛んできた剣は盾に弾かれた。

 

「ボンクラさん。油断しすぎじゃないですか」


 目の前に盾を構えたスカル隊長の後ろ姿あった。

 そしてスカル隊長が居るという事は――。

 

「はい。にゃーーーーん!」


 唐突なイオの蹴りが、アリゲータモドキのまだ炭の残った横腹に大きな穴を空ける。

 足を振り抜いたイオはさらに、爪の付きの手甲で何度も切り付ける。

 

「うるぅあああ!」

 

 アリゲータモドキは絶叫しながら瘴気の触手でイオに襲い掛かる。

 しかしイオは、間一髪のところでそれを避けてこちらに駆け寄ってきた。

 

「ふぅ。なんすかあのバケモノ。瘴気の塊で攻撃してきましたよ」


 イオは猫の手を模した手甲で額を拭う


「あれは三体のアリゲータソルジャーが、瘴気の実を……まあ、瘴気の塊を食べてパワーアップした姿」


 ボンクラの説明を聞いて、スカル隊長が頷く。

 

「やっぱりそうですか、護衛の時に遭遇したやつですよね。ボンクラさんが三分の二倒したって言っていた。三分の二どころか、まるっと残ってますが」

「そう。あの時倒し損ねた奴。よく見て、頭二つ無いでしょ?二つは倒したんだよな。まあおかげで激昂して凶暴になってしまったけど。それにしても隊長達も来てくれるとは思わなかったよ」


 アリエルに地図を渡したのは、念のためだ。盗賊のアジト自体は自力で脱出できるかもしれないが、連絡を取る必要が生じた時のを見越してのものだった。

 

「アリエルさんから聞きましたよ。ボンクラさんが盗賊団に潜入してその実態を調査していると。単独で危険な場所に身を投じ、味方にあらぬ疑いをかけられようとも正義の為に行動するその気概に感動しました。流石ボンクラさんです」


 目をキラキラとさせたスカルが顔を寄せてくる。

 多分アリエルが適当な嘘をついたのだろうが、スカル隊長は単純に人を信じすぎじゃないか。


「うちは、気付いていたっすよ。何か理由(わけ)があるんだろうなって。理由あって盗賊のふりをしている事も、理由あって今女性の服着ている事も、理由あっておっぱい触った事も分かってますから」


 すいません。もうおっぱいの事は忘れてほしいです。

 

「何はともあれ、加勢は有難い。これだけそろえば何とか――」


 そこまで言って、アリゲータモドキを見るとイオの攻撃で受けた傷を回復させていた。

 さらに、全身の炭も落とし切り、まるで神創火炎塔(タワーオブエンド)などなかったかのようにたたずんでいる……いや、むしろ若干大きくなっている。


「なるのかコレ?」

「ボンクラ様、私もう魔力大してありませんよ」

 

 これでアリエルが神創火炎塔(タワーオブエンド)を連発するという手段は無くなったわけだ。

 

これからの話:アリゲータモドキとの戦いに決着がつく

次回「カオスオブザデッド」

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