05-09:演目の名は誘拐
これまでの話:ザール氏の娘を誘拐しようと、農耕地まで誘導することに成功したボンクラたち。スムーズに確保するために奮闘する。
ボンクラは木陰で弁当を食べてるターゲットの二人を見ながらタイミングを計る。
まずは自分からだ。
草影から、ターゲットの正面へと飛び出す。
「ああああ、まさかこんなところにモンスターが現れるなんてぇ」
膝をつき、草影に潜む何かに怯えるように逃げようとする。しかし恐怖で足は動かない……というフリだ。
ちらりとターゲットを見る。驚いているのか少し身を引いている。
草影から、がさりと音がしてクマの恰好をしたアンドレが飛び出す。
「おで、アンドレーーー!」
「あーれー。お助けーーー」
襲い掛かってくるアンドレから逃げるように、身体を引きずる。
そしてここで、アーマードサブが助けに来る。
……
来ないじゃないか!?
アーマードサブが隠れている草影を見ると、何やら屈んでいる。
深呼吸をして、手のひらに人の字を書いて飲み込む、その後もソワソワとして落ち着きがない。
「緊張してるんじゃねー!」
手元にあった握りこぶし程の石をアーマードサブにぶつけた。
石はガンと音を立て、兜に当たる。
ようやく、自分の出番であることに気付いたアーマードサブはガシャンガシャンと音を立てて、歩み寄ってくる。
「この、モンスターめ、この聖騎士が、成敗を、してくれりゅ、くれる」
ガチガチじゃねえか。
そういや、サブって歓迎会の挨拶でも緊張してたな。
「ああ、騎士様お助け下さい」
アーマードサブの首元にすがる。
これで良い感じのヒロインになっているはずだ。
サブと仮面越しに目が合う。緊張しているサブをリラックスさせようとウィンクをしてみた。
「ヴォェッ!」
アーマードサブの仮面から吐しゃ物があふれ出る。
「うわああああ、きたねえ!」
「あ、兄貴……近距離はまじでキツイっす」
「何がキツイだ。ヒロインにゲロ浴びせる騎士が何処にいるって言うんだよ!」
「騎士でもヒロインは選びたいっす。可愛い女の子がいいっす」
「十分可愛いだろうが。あ?ひょっとしてショートカットの方が好みだった?」
「そんな次元じゃないっすよ。あ、また出そう、うっ……」
騎士様の背中をクマのモンスターがさする。
ふとターゲットを見ると、何が楽しいのかケタケタと笑っていた。
「何笑ってやがる、ガキどもが。アタシがクマに襲われてるのがそんなに楽しいか」
「ガキだろうと、聖騎士様を笑いものにするたあ、怪我じゃ済まないぜ」
「おで、アンドレ」
ターゲットに詰め寄る。
少年がディアンを庇うように前に出る。
「ガキが色気づきやがってこんなとこで弁当なんてしてんじゃ、ぐはあっ!」
ボンクラは突然現れたカシラに蹴りを顔面に食らう。
「何だてめえは!」
「お前だな。喜劇を見せて油断させる新手の盗賊というのは。私が成敗してやるよ」
のりのりじゃないかカシラ。
「正義の味方気どりか、気に食わねえ。かかれ野郎ども」
号令と共に、アーマードサブがカシラに飛び掛かる。
カシラはアーマードサブの鎧の上から後ろ回し蹴りを打ち込む。
吹っ飛ぶアーマードサブをアンドレが受け止める。
「ごるあああ!」
掛け声と共に殴りかかったボンクラの手がいなされる、襟元を掴まれ、十分に遠心力をつけてアンドレに投げつけられた。
三人がまとめて地面に倒れると、上から足で踏みつけて動きを止める。
「そこの子供達、こいつらを縛るのを手伝ってくれないか」
そう言ってカシラは縄を取り出す。
ターゲットの二人は躊躇していたが、ディアンが「分かったわ」と進み出て縄を受け取る。
男の子の方も、しぶしぶといった感じでそれを手伝う。
「そうだ、二人で縄を持って……」
カシラはそう言うと、くるくるっと二人が持っている縄で二人を縛りあげた。
唖然とする子供達。
どうやら上手くいったようだ。
「え、何どういう事!?」
「最初から僕たちを捕まえる為のお芝居だったみたい」
戸惑うディアンと、少し落ち着いてる少年。
「お嬢ちゃん、ザール氏の娘だろ悪いが少しの間人質になってもらうよ。そっちのアンタ名前は?」
「ホイルです」
カシラに対しても、睨みつけるでもなく。冷静に答えるホイル少年。
「ホイル少しの間アンタにも付き合ってもらう。まあザール氏がすんなり渡すもん渡してくれれば無事帰すさね」
どうやら二人共抵抗する気は無いようだ。
なんともあっけなく拘束する事が出来た。
「カシラ、小芝居する必要あったんですか」
サブが不満げに言うも、カシラに睨みつけられると「何でもないっす」とすぐに大人しくなった。
「さて、じゃあザール氏に話を通さないとな。今日は織物の店か、道具屋か倉庫に居るはずだ」
「時間あるなら、俺も腹減ったし食べ物買って来ようかな」
ボンクラは身体ばかり動かしたからお腹が空いていた。
「何言ってんだい。モヒカン、アンタが行くんだよ」
カシラは呆れた様にボンクラを見て言った。
◇◆◇◆◇
ザール氏は織物屋の前で、店主と何か話している。
ボンクラは少し離れた曲がり角から、その様子を伺っていた。
貴様の娘を預かっている。ふふふふ。などと人目に着く場所で通告するわけにはいかない。
ザール氏を見張っているとその内店主との会話を切り上げて、裏路地に入って行く。
そのまま倉庫と思われる場所に入って行くザール氏。
これはチャンス。
ボンクラはザール氏に続いて倉庫に入る。驚いて振り返るザール氏に出来るだけ女性に近づけた声で話しかける。
「ウフフフ。こんにちはザールさん」
「おぬし何者じゃ」
距離をとるザール氏。
何者と言われて素直に名乗るわけにはいかない。
「さあ、何者でしょうね。それよりこのバスケットに見覚えが無いかしら」
持っていたバスケットを目の前にかざす。
これはザール氏の娘ディアンが持っていたものだ。
「あの子に何かしたのか」
さすがに察しが良い。
「何もしていないわ。今のところね。ちょっとある物を渡して欲しくてね。数日前にある商人から買ったヴァルヴェール家の武芸書があるでしょ。あれを渡してほしいのよ」
ヴァルヴェール家の武芸書。それがカシラから教えてもらったお宝だ。
「あんな物の為に誘拐をしたのか!?大して価値があるとは思えんが……」
「さあね。私もつかいっぱしりなのよ。どうするの武芸書を渡すの?それとも娘を諦める?」
「比べるまでも無い。しかし武芸書は今手元に無い」
無い!?
「どういう事?」少し声が大きくなる。「あなたが買ったって事は調べがついてるのよ」
「ある国にああいった本を集めている知り合いがいてな。今朝、輸送したところだ。今頃本を乗せた馬車は街道を港街に向かっているだろう」
しまった。今から取りに行けば間に合うか。
その時、気配を感じ、倉庫の戸を開けて外を確認する。そこには中年の男性と青年が立っていた。
話を聞かれた!?
「あなた達、話を聞いたみたいね」
神妙な面持ちの二人。
裏通りに他に人影はない。「中に入って」と二人を倉庫の中に促す。
「ゲーンズとバトーニ。ウチで雇っている商人だ」
「申し訳ありません旦那様。商品の在庫を確認に来たのですが……」
ザール氏が二人の身元を明かす。
ゲーンズと呼ばれた中年の方の男性は申し訳なさそうに身を縮める。
「そう言えば。うちの娘と一緒に同い年の少年が居たと思うが」
「ああ、ホイルってのが居たわよ。お嬢さんと同じように私の仲間が見張ってるわ。もちろん今のところは無事」
再度『今のところ』を強調して言う。
「そうか。ゲーンズ申し訳ない。ホイルを巻き込んでしまったようだ」
「いいえ旦那様。ホイルが一緒ならお嬢様も心強いと思います」
なるほど。どうやらホイルはこのゲーンズという男性の息子の様だ。青年の方、バトーニも恐らくゲーンズの息子だろう。顔がどことなく似ている。しかしこれは都合のいい事態だ。
「で、どうしますか。武芸書が無ければお嬢さんをお返しする事はできませんが。もちろんホイル少年も」
ゲーンズとバトーニの表情は緊張しているようにも見えるが、あまりにも変化が無い。どうした。息子が心配ではないのか。
「バトーニさんといいましたね。あなた馬を走らせて、武芸書を取りに行ってもらえますか?ザールさんとゲーンズさんは私と一緒に来ていただきます」
ゲーンズはバトーニに目をやる。
「バトーニ頼めるか」
ザール氏も促す。
「分かりました。私がとってきます。馬車用の馬を一頭お借りしてもよろしいですか」
「構わん」
「では武芸書を手に入れたら、農耕地の木が一本立っている丘まで来てください。分かっていると思いますが。誰かにこの事を話せばホイル君の無事は保証できませんよ」
自分で言うのもなんだが、完ぺきな悪者っぷりである。
バトーニはボンクラを睨みつけると、ザール氏に軽く頭を下げ倉庫を飛び出した。
「では私達は先にお嬢さんの待っている場所まで行きましょうか」
倉庫を出るときザール氏はドアに『閉店』と書かれた札を掛けた。
「誰もいないときに掛けるきまりでな。さあディアンのところに案内してくれ」
ボンクラはザール氏とゲーンズを連れて農耕地へと向かった。
これからの話:ザール氏と交渉をするも、本は手元に無かった。のんびりと朗報を待つボンクラ達に危機が迫る。はたして本は手に入るのか。
次回「はやくいかないと」




