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05-08:作戦の名は誘拐

これまでの話:盗賊団に入ってしまったボンクラ、そしてザール氏の持つ「お宝」をねらう盗賊団のカシラ。

支部襲撃はあったものの次なる作成を決行する。

 

「誘拐するだって!?」

 

 ボンクラは驚きの声をあげた。

 王都への道すがらカシラから今日の仕事の内容を聞いていた。


「そうだよ、ザールの持っているお宝の為にね。そりゃ輸送するのを襲って奪いたいが、他所に運び出すのを待ってるときりがない」

「いいっすね。お宝。でもそりゃ一体どんなお宝なんですか」

「とても貴重な本でね、値段なんか付ける事なんて出来ないお宝さね」


 ザールは城とのつながりもある豪商だ。

 そんな人物をやすやすと誘拐できるのか。

 

「じゃあ、今からザールの居場所を突き止めないといけませんね」

「いや、誘拐するのはザールじゃない。ザールの子供、ディアン・ミザールっていう10歳の少女だ」


 これでも、勇者と呼ばれた事もある俺だが、まさか子供を誘拐する事になるとは……。



 ◇◆◇◆◇



 チュウカーン国王都。


「あいつら遅いな」


 中央通りの端でボンクラは待っていた。

 ザール氏の子供を誘拐する。その為にボンクラ達に必要なのは変装だった。そもそもが盗賊の恰好では近づくことも出来ない。

 それぞれ体形も異なる為、各自で変装してから再度集合する事になったが、今のところ誰も来ていなかった。

 

「あれ、兄貴?ひょっとして兄貴っすか。早かったんすね」


 人ごみの中からサブが現れた。

 いや、サブの声だからサブだと思ったが……。

 

「いやー、服なんて買うの久しぶりだったんで、迷っちまいました」

「いや、それ服って言うか。鎧じゃん」

 

 サブは全身に鎧を身に着けていた。

 サブは兜の仮面をガチャリと上げる。ようやくサブだと確信が持てた。

 

「変装しないといけませんからね。これなら誰も盗賊だと思いませんよ」


 誰も盗賊と思わないけど、子供は逃げると思うぞ。

 

「お前……まだアリゲータモドキにビビってるな」

「そ、そんな事無いっすよ」

 

 動揺しているのか、全身がカチャカチャ鳴る。

 

「兄貴だってなんすか、その恰好。何で女装してるんすか」


 ボンクラは女装をしていた。

 ロングヘアーのかつらをかぶり、ひらひらした服の胸に詰め物をして、長めのスカートをはいている。

 自分では、なかなかのいい女に仕上がってると思っていた。

 

「俺ザール氏に面識あるんだよ。まあ、向うは覚えてないかもしれないけどな。それよりどうだ、なかなかの美人だろオレ」

「普通に気持ち悪いっす」

「何?サブ目が呪われてるんじゃない?」

「いや、兄貴の方が呪われてるように見えます」

 

 アーマードサブに美貌自慢をしていると、後ろから声が掛かった。

 

「おで、アンドレ」


 振り向くとクマが居た。

 

「うお!?モンスターーーー!」


 驚くボンクラとサブ。

 どうやら中身はアンドレのようだ。

 全身に毛皮を装備し、頭にはクマの頭付きの毛皮を被っている。

 小柄なキャッスルベアに見えなくもない。

 

「アンドレも変装ってのを分かって無いな。モンスターになってどうする。子供怖がるぞ」

「いや、兄貴もまあまあモンスターっすよ」

「嫉妬はよせよ。なあ、アンドレ。俺みたいに華麗に変装しろ」

「おで、アンドレ」


 アンドレベアは頭をかいている。どうも分かって無いようだ。

 

「何だい、お前達。変装と仮装を間違えてやしないかい」


 後ろから声がした。振り向くとカシラがいた。

 間違いなくカシラだった。

 髪は下ろし、ふりふりしたワンピース。裾が短くて足が大胆に露出している。

 普段と違い、普通に可愛い恰好をした若い女の子だった。

 

「え、なに。カシラほんとうはそんな女の子らしい恰好がしたかったの」

「違う!変装だから仕方なしにしてるんだ、べっ別に実は憧れていたとか無いからな!」


 若干頬を染めて、もはや肯定に近い否定をするカシラ。

 

「いやー、普段の恰好もいいですけど、そう言った服装も可愛いですよ」

「うんうん。可愛い可愛い。もう普段からその恰好でいけば」

「おで、アンドレ」

 

 今度は、はっきりと顔を赤らめるカシラ。

 

「か、可愛いとか言うな!」


 ボンクラとサブとアンドレは、照れたカシラにぶん殴られるた。

 カシラ意外と乙女じゃないか。

 

「まあ、俺とカシラはともかく。アンドレとアーマードサブはやり直しだ。そんな恰好で誘拐なんかできねえよ」


 現時点でも目立っている、道行く人が見世物だと思って足を止める程だ。


「いや。そろそろザールの子供が仕事を終える時間だ。お前達は仮装のままで誘拐を決行しろ」


 カシラ。俺は仮装じゃないよね?美人だよね?ボンクラはそう思いつつ頷いた。



 ◇◆◇◆◇



 チュウカーン王都は石壁で囲まれた市街地、その南に簡易的な壁と川で囲まれた農耕地がある。

 その市街地で曲がり角からひょっこりと顔を出すボンクラ。

 

「サブ、もうちょっと静かに動けよ。ターゲットに気付かれちまう」

「仕方ないじゃないっすか。おいアンドレ押すな」

「おで、アンドレ」


 仕事を終えたターゲットを追って街中を付けている。

 ターゲットのザール氏の娘ディアンは、どうも隣を歩く同世代の男の子とデートの様だ。

 

「どこか人気(ひとけ)の少ない場所に行ってくれないと難しいな。このまま市街地を出て南の農耕地まで進んでくれればありがたいのだが……そうだ、ちょっとあんた達仕事してもらうよ」

 

 カシラの笑みに嫌な予感がした。



 ◇◆◇◆◇



 ボンクラ達は、大通りを南下するターゲットに先回りしていた。

 カシラから指示されたのは、ターゲットを南下させ農耕地まで誘導する事。

 ターゲットのザール氏の娘とその友達は、何かを話しながら次の道を曲がろうとしている。

 

「よし、アンドレ行ってこい」

「おで、アンドレ」

「いや、お前は今からクマだ。存分に暴れて来い」


 アンドレはターゲットが曲がる先に駆け出し、道に置いてあった樽を持ち上げると「おで、アンドレーーー!」と叫び振り回す。

 途端に周囲の人々が足を止め、アンドレを取り押さえようと人だかりができる。

 ターゲットは人だかりを見て道を曲がるのをやめた様だ。引き続き南下する。

 

「アンドレお前の犠牲は無駄にしない」

「兄貴。ターゲットは今度はあの道に入りそうですぜ」

「よし、次はアーマードサブの出番だ。存分に暴れて来てくれ」

「兄貴……後の事は頼みましたぜ」


 アーマードサブは飛び出し、店先に置いてあったほうきを二本持つと「きええええええ!」と叫んで振り回す。

 途端に周囲の人々が足を止め、アーマードサブを取り押さえようと人だかりができる。

 ターゲットは人だかりを見て道を曲がるのをやめた様だ。引き続き南下する。

 

「アーマードサブお前の犠牲は無駄にしない」

 

 大通りの端にたたずみ、歩いていくターゲットをやりすごす。

 もちろん、監視されているなど思ってもいないだろう。

 彼らの進む先には、市街地を出る南門がある。

 取り合えずこのまま進めば問題なく農耕地に行きそうだ。

 ボンクラが安堵の息をついたとき。ディアンと少年は立ち止り振り返り、自分達が今歩いてきた道を見ている。

 あいつら、こっちに引き返すつもりか。

 アンドレやアーマードサブの様に人ごみを作らなくては……しかしどうやって。

 いや、考える必要は無い。もちろん俺の美貌でだ。

 

「お兄さん。そこのお兄さんどうよ観て行かない?」


 ボンクラは通りに座ると、スカートの裾をつつつと(めく)る。

 色香に惑わされた男どもが群がってくる。はずだった。

 

「うげぇ、何でオカマのストリップ観ないといけないんだよ」

「気持ちわりぃ」

「じゃまだよ、どけよオカマ!」


 ボンクラにとって予想外の罵詈雑言が投げかけられる。

 

「誰が、オカマだ。今言った奴前出ろ、そのゆがんだ美的感覚を叩きなおしてやる!」

「上等だオカマが!」


 途端に取っ組み合いが始まり人だかりができる。

 人垣の間からディアンと少年がこちらを見て、引き返すのを諦めて南門へと向かうのが見えた。



 ◇◆◇◆◇



「いやー。上出来上出来」


 カシラは上機嫌だ。


「俺達はボロボロだけどな」


 ボンクラは街中の取っ組み合いで汚れた自分の服を見た。新品のスカートが台無しである。

 横を見るとアーマードサブは無傷に見えるが、兜の奥から、息切れしてるのが分かった。

 アンドレだけは、わりと元気そうだ。

 

「お前達の犠牲のおかげで、いい感じに人気のない場所まで誘導出来た」


 カシラは遠くの木陰に座るターゲットを見ている。

 田園風景の中、弁当でも広げている子供が二人。平和な風景である。


「カシラ、いつ誘拐するんで」


 アーマードサブは、剣を抜いて構えている。

 

「剣をしまいな。ガキ二人誘拐する程度で刃物なんか出すんじゃないよ。囲めば大人しく言う事をきくさね」


 カシラは子供に刃物を突き付けるのを嫌ったようだ。

 今までの盗賊行為でも、できるだけ相手を傷つけないようにしている。

 刃傷沙汰は好きではないのかもしれない。

 まあ、俺も子供を刃物で脅すなんて言えば、暴れてでも止める。

 

「で、どうすんだよ。いきなり行ってとっ捕まえればいいのか。子供ってのはわりとすばしっこいぞ」

「そりゃあもちろん。怪しまれずに近づけばいいさね」


 隣をみると、クマのモンスターにしか見えないアンドレと、田園風景には不釣り合いなアーマードサブが居る。

 

「いや無理だろ、俺以外は怪しさしかねえよ。怪しさの権化だよ」

「あの、兄貴ちょくちょく自分は完全に女になり切れているって思ってる発言してますけど、やめてもらえます?イラってするんで」


 どうやらアーマードサブも美的感覚がゆがんでいるようだ。


「何だ、俺の美貌が分からんのか。カシラは分かりますよねオレの美貌」


 そう言ってボンクラはカシラに裾をめくって足をチラッと見せる。

 カシラは振り返り、3歩歩くと「ヴォェッ!」とまるで不快な物でも見たかのように嘔吐する。

 

「ほら、やっぱり兄貴の女装は凶器なんすよ」


 まったくもって納得がいかない。

 アンドレが、肩をポンと叩き「おで、アンドレ」と言ってきた。何?慰められてる?

 

「ふう、まあモヒカンの、び、美貌とアンドレのクマ、アーマードサブの騎士のような姿を利用して、子供の信用を得る。いいか作戦はこうだ」


 嘔吐後にげっそりとしたカシラから作戦を聞いた。

これからの話:大道芸人のような格好に変装したボンクラ、アンドレ、アーマードサブ。カシラの考える誘拐作戦とは。

次回「演目の名は誘拐」



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