05-07:盗賊の矜持
これまでの話:アリエルにも盗賊行為がバレたボンクラ。おっぱいをもんで、殴られた。
「支部?」
森の中を歩きながらボンクラが訊ねる。
「そうですよ、元々は別の盗賊団だったんすけど、カシラが制圧してうちに統合しました。あ、聞きます?激烈血闘編」
「いやいい。いまツッコミする元気ない。それよりいつ着くんだ」
馬車を襲撃してから、かなり歩いている。
周りには他の盗賊達も居るが、半数はカシラの指示で先にアジトへ帰った。
「もうすぐっすよ。今回は収入無かったし、そろそろ食料が尽きそうなんで、第二支部に分けてもらわないと今日の晩飯無いですからね。メシ無いのは辛いですからね」
「何だいサブ、あたしのやり方に不満でもあるような言い方だね」
数歩先を歩いていたカシラが振り返る。
「ないない不満なんかありませんよ」
「ならいい、まあ支部に食料が残ってる事を祈りな、ほらもう着くぞ」
森が拓けて明るくなってきた。
木々の間から、家が一軒見える。こちらのアジトとら似たような外観だ。
その時、カシラが何かに気付いて駆け出した。
嫌な予感がした。
ボンクラとサブ、その他盗賊たちも後を追う。
アジトがはっきりと見えた頃、ボンクラそれに気づいた。
「人が倒れてる」
口に出したのはサブだった。
アジトの前に5人、離れた場所に4人、明らかに出血しているものも居る。
駆け寄ると、まだ息がある。
「アジト内に運び込む、意識の朦朧としているものには声を掛け続けろ」
カシラが指示を出し、盗賊達はすぐに動いた。
ボンクラも近くにいた怪我人をサブと運ぼうとする。
肩口からの出血が多い「先に止血する」そう言って、傷口を布で縛り上げる。怪我人は小さく呻き声を出す。
「も、モヒカン、逃げろ」
怪我人は呻き声と共にそう言った。
ボンクラのアダ名の事ではない。
ここの盗賊達も頭はモヒカンである。その事と今の事態が何か意味があるのか。
「今は喋るな。アジトの中に運ぶからな」
アジトの中に次々と怪我人が運び込まれる。普段ケガの治療は自分達で処理している盗賊達は、なかなかの手際で処置を施していく。傷口を縫い、折れた手足に添え木をする。幸いなことに死者はいなかった。
全ての処置を終える頃、辺りは暗くなっていた。
「ふー、やっと一息つけるな」
怪我人達は、包帯を巻かれ床に寝ている。
ボンクラ達も、空いてる場所を見つけて座り込む。
横になっていた、けが人の一人が、身体を起こした。
「カシラ、何があったか、話を……」
カシラはその男のもとに行くと膝をついてその身体を支える。
「聞こう。話せ」
「今日は、仕事が無くて、皆アジトで飲んでたんだ。最初にアレに気付いたのは見張り達だった。アジトに血相を変えて飛び込んで来た、モンスターが出たってよ。そっちでもそうだと思うが、モンスターの数匹がきても俺たちにとっちゃ酒の余興程度さ」
サブが「まあ、ウチでも裸踊りかモンスター退治かって扱いだな」と同意する。
「だから、相手が一体と聞いて、最初5人程度が武器を持って外に出たんだ、残りは酒を片手にアジトから見物さ。だが、森からそいつが姿を現した時皆が思ったはずだ『コイツは違う』ってね。一見アリゲータソルジャーだが、足が四つに首が三つ、しかし頭が乗ってるのは一つだけ。そして身体は崩れていた。分かるか?火で炙ったチーズみたいに全身がズルズルよ。外に出た仲間の一人がビビって矢を放った。矢はアリゲータモドキにずっぽりと刺さってよ。だが全く気にするようすもねえ。何だ見掛け倒しか、そう思っちまっても仕方ねえだろ?外にでた連中達は一斉に攻撃をしたんだ。俺が見る限りアリゲータモドキは動かなかった。だがな、攻撃しようと近づいた連中がパタパタとぶっ倒されていくんだ、まるで見えない何かに殴られているみたいにだ」
サブが顎を手に置いて何か考えている。
「そのアリゲータモドキってのは、鎌みたいなの持ってたか?」
「いや、武器のような物は持ってなかった」
「サブ、死神だったらこのけが人達に首は今頃無いよ」
カシラはサブの質問の意図を理解した。
「そうっすね。あれ?兄貴どうしんたすか、そんなに汗かいて」
「え?いや汗なんて全然かいてないよ。いいから続けて」
ボンクラは汗を袖で拭い話を促す。
「ああ、アリゲータモドキはその後不思議な行動をとったんだ、倒された仲間を見てたんだ。一人一人じっくりと、時には目の前に持ち上げてまで、まるで顔を確認してるみたいだったな。そしてアジトにまた近づいて来きた、近づくと奴が呟いている声が聞こえてきたんだ『兄者痛いよ。首が痛いよ。モヒカン男を殺してくれよ』そんな事を言っていた」
「ちょっと待てよ、そのモンスターはモヒカンの男を対象に狙ってたって事か?」
「確信は無いがそうだと思う」
「ふむ、何かモヒカン頭に恨みのあるモンスターなのかもな。ん、どうしたモヒカン。汗がすごいことになってるぞ」
カシラが目をやると、ボンクラは汗をだらだらとかいていた。
「え?いや汗っていうか、これ……涙だよ?そう涙、仲間が苦しむ姿につい涙が出ちゃったんだよ」
「お前は額から涙を流すのか?」
呆れた様に問い返すカシラ。
「悲しみが頂点にきたら、頭からだろうが、足の裏からだろうが俺は涙出るんだよ。いいから続けて」
ボンクラは汗を袖で拭い、話を促す。
「ああ、俺達は仲間がやられてカッとなっちまってな、全員が武器を手にアリゲータモドキに向かって行ったんだ。全員でかかれば流石に奴の身体を傷つけることも出来た。崩れた身体にはたやすく剣が刺さった。だがいくら突き刺しても、切り付けても奴は倒れなかった。それどころか見えない攻撃に仲間達がどんどんやられていく。おれの斧も奴の頭かち割った。確かに斧は奴の頭にめり込んだ……しかし、やつには全く効いてなかった。そして見えない何かに身体を殴られたよ、まるで丸太でぶっ叩かれたような衝撃だった。倒れた俺にアリゲータモドキが近づいて顔を覗き込んで来た『コイツも違う。モヒカン男は何処だ。弟達の頭を取り返す』そう呟いて仲間達の顔を確認して回ってたよ、そしてまた森に帰って行った。ずっと呟いていた『モヒカン男は何処だ』ってね」
カシラは話し終えた男に、「話してくれてありがとう」と礼を言い寝かせる。
「今日は、ここに半数を残してアジトへ帰る。食料は今夜の分だけもらっていく。各自準備しな」
カシラの指示に「へーい」と盗賊達は応える。
「しかし面倒な事になりやしたね、モヒカン頭を標的にしたモンスターがいるなんて。しかもどうやら誰かのとばっちりみたいで、まったくメイワクな話だぜ。あれ?兄貴どうしたんすか、汗で全身でびしょびしょっすよ」
「いや、今日凄く暑いね。俺汗っかきだからさ、これくらいの汗フツーフツー」
どう考えても、俺のとばっちりだー。ごめんなさい。
謎のモンスター間違いなく、先日仕留め損ねたアリゲーターソルジャーだよ。
「そんな暑いですかね」
うんうんと頷いてサブを納得させる。
「残る者もそうだが、全員いつも以上に周囲を警戒しろ。移動も見張りを増やしてモンスターの襲撃に備えて動け」
「うんうん、そうだね。皆もう怪我しないようにしようね」
「兄貴。仲間やられたんだ。怪我しないようになんて言ってられねえ。アリゲータモドキが現れたら敵とりますよ。俺達にだって盗賊の矜持ってもんがありまさぁ」
意気込むサブに、周りの盗賊達も「そうだやられっぱなしでいられるか」「こちとら逃げも隠れもしねえ」と血の気の多さ見せる。
「ふっ。お前達それでこそ盗賊だ。よし!アリゲータモドキが現れたら返り討ちにする。各自そのつもりでいろ」
盗賊達は腕を上げ「おう!」と叫んだ。
◇◆◇◆◇
次の日、アジトの前でボンクラ達は見送られていた。
「今日の仕事はいつもの盗賊行為とは違う。人数を絞ってモヒカン、サブ、アンドレが私に同行する。残りはアジトで待機だ」
「いつもと違うって何するんだよ」
「後で詳細は話す。それよりだ――」
カシラは盗賊達を呆れたような冷めた目で睨みつける。
「お前達なんだその頭は」
盗賊達は、全員モヒカンを無理矢理センター分けにしていた。
「え?何がっすか?イメチェンしただけですけど」
「やっぱ時代はセンター分けだよな」
「真ん中で分かれてるって落ち着くよな」
「横風の影響も少なくていいよな」
サブと盗賊達はわざとらしくセンター分けを称賛する。
「なにが『盗賊の矜持ってもんがありまさぁ』だよ。お前ら全員ビビりやがって」
「び、ビビッてなんかないっすよ。イメチェン。イメチェンっすよ。ていうか兄貴だってセンター分けじゃないですか」
ボンクラもセンター分けだった。
「え?何が?……あれ、おかしいな何だか寝ぐせで髪の毛ぺったんこになってる。まあ寝ぐせ直してる時間もないし、仕方ない今日はコレで行こうかなあ」
ボンクラは自分の頭を触って驚いて見せる。
「わざとらしいっすよ兄貴」
「寝ぐせは自然現象ですー、わざとじゃないですー」
「ほんっとお前達は……」
カシラは一人頭を抱えた。
これからの話:カシラは富豪ザールが持つ何かを狙う。その為、ボンクラ達に命じたのは誘拐だった。
次回「作戦の名は誘拐」




