05-06:職人による、ひと揉み
これまでの話:盗賊団にムリヤリ入団させられた主人公ボンクラ。カシラの過去を探るもカニの産地に詳しくなっただけ。カシラは言う「次の標的は豪商のザールだ」
森を抜ける街道を、馬車が進んでいく。護衛と思われる兵士達が4人、冒険者と思しき者達が4人。
事前に置いた目印の石を馬車の前輪が通過する。
ボンクラは木の上でそれをじっと見守る。
木の上でカシラの手が上がった。
馬車をひく馬の足元に矢が突き刺さる。馬は嘶き隊列の足が止まると、いくつもの煙玉が投げ込まれた。
馬車が見えなくなるほどの煙が立ち込める。
カシラの「かかれ」の合図が聞こえる。
口元を布で隠した賊達は木から飛び降り、混乱する護衛達を縛り上げようと身構える。
「暴風爆発」
声と共に魔法が発動され、爆風が吹き荒れた。
盗賊達は予期せぬ突風に吹き飛ばされまいと、足を踏ん張る。
そして吹き抜ける風は煙をすべて散らしてしまった。
「前回のようには行きませんよ」
煙が消えるとスカルが姿を現す。となりにはイオもいる。
また隊長か、しかし今の魔法は隊長ではない。
ボンクラは魔法を使った人物に思い至りゴクリと唾をのむ。
「今日はボンクラさんを説得するために助っ人を連れて来たっす」
スカルの後ろから、アリエルが前へ進み出た。
やっぱりアリエルさんじゃねえか。
「ボンクラ様、スカル隊長からお話を伺った時はまさかと思いました。まさか本当に盗賊に身を落としているとは」
アリエルはさらに前へ詰め寄る。
「一体なにが不満だったんですか。ボンクラ様には勇者として世界を救っていただけると思ってました。だから毎日特訓したじゃないですか。怪我をする日もありました。くたくたで倒れるように街に帰った日もありました。でもそれは目的があったから辛くは無かった……少なくとも私はそう思ってました。私との約束を忘れたんですか!ボンクラ様!!」
「おで、アンドレ」
それアンドレ―!!!!
だからそれアンドレ。お前まで間違えるのかよ。何が不満って、口元隠しただけで判別されなくなる事が不満だわ。
「こんなに身体も大きくなって、一体私の知らないところでどんな美味しい物食べてるんですか。お肉ですか、お肉を食べてるんですか。ずるいですよ一人で美味しい物食べるなんて私も食べたいです!」
「おで、アンドレ」
わけの分からない事言ってるから、アンドレも困ってるじゃないか。
「アリエルさんも私達も、あなたが帰って来る事を願ってるんです。さあボンクラさん、そのモヒカンを脱ぎ捨ててこっちに来るんです」
モヒカン自前だから。脱ぎ捨てれないから。
「アリエルちゃんも、私のおっぱい触った事は許すって言ってたっすよ」
おめーはチクってんじゃねえよ。
「ボンクラ様は私のおっぱも触りましたし、もうそういう人だという認識はあります。なので腕一本でいいですよ」
「お…おで、アンドレ」
腕一本?アリエルさん何をするつもりなの?イオの胸触ったの絶対許してないよね?
仕方ねえ。腕一本持ってかれそうなアンドレが不憫だ。
ボンクラは口元隠していた布を外し、アリエルの前に歩み出だ。
アリエルはボンクラに気付くと、目を見開き驚きの声を漏らす。
「えっ、ボンクラ様が二人!?」
「二人じゃねえ!」
なんで本人見て気付かないんだよ。
泣くぞ、おれ泣くぞ。
「確かにボンクラ様によく似てますね」
アリエルがじろじろとボンクラを見てくる。そしてアンドレもじっくりと品定めをするように見る。
アンドレは緊張した面持ちで気を付けをして大人しく見られている。
「うんうん。わかりました。こっちが本物のボンクラ様です」
「おで、アンドレ」
「だから、それアンドレーー!お前本当は分かってやってるだろ」
「だって、コッチの方が強そうですよ」
いや、確かにアンドレ強そうだけど。本物より強そうだけど。
「コッチ、本物は俺だから。弱そうで悪いけどコッチだから」
「えー、コッチですか。仕方ないですね。じゃあ弱そうなコッチで我慢しときますよ」
すんません。弱そうで。
「どうやら私達は騙されていたようですね。そっちが本物ですか」
「いやー、なんか違うなーとは思ってたっす」
スカルとイオがうんうんと頷いている。
もうお前らは帰れよ。
アリエルは「じゃあ、一緒に帰りますよ」とボンクラの腕を引く。
「茶番は終わったかい」
いつの間にかカシラがアンドレの傍に立っていた。
「お嬢ちゃん。わるいけど、そのモヒカン。今はアタシのモノなんだ。勝手に触らないでほしいね」
アリエルはカシラをじっと睨む。
「おっぱいですか。そのおっぱいでボンクラ様をたぶらかしたんですか。そんなもの触らせたからってボンクラ様を所有できると思わないで下さい。ボンクラ様は私のモノです」
「さ、触らせてないわぁ!」
胸元を隠すようにして、カシラは慌てる。意外と可愛い。
というか、別に俺はアリエルの所有物じゃないけどな。
「さ、行きますよボンクラ様」
アリエルは強引にボンクラを引っ張って行こうとする。
それ見たカシラが右手を上げる。
右手を合図に木々の上から無数の矢が撃ち込まれた。
地面に突き刺さる矢がアリエルの動きを止めた。
「勝手に動かないほうがいい、あたしの合図で百人の部下がお前達を射抜く」
周囲の木々がガサガサと音を立てて揺れる。森全体が揺れてるのではないかと思えるほど。
まるで多くの人間がそこに潜んでいるかのように。
しかし実は十人程しか潜んでいない。縄を枝に結んで引っ張り、少数で多くの枝を揺らしているだけ、つまりハッタリだ。
「あたしはこれから仕事させてもらう。モヒカン、そいつらが下手な真似しないように見張ってな」
馬車に乗り込もうとするカシラが、スカルの横を通る。
「今日は矢が狙ってて良かったじゃないか間抜けな隊長さん」
そう言ってスカルの肩をぽんと叩いて馬車に乗り込んでいった。
スカルは悔しそうにしている。
正直見ていてヒヤヒヤである。
「いやあ、見てましたけど。兄貴はモテモテで羨ましいっすね」
「サブ……」
「お嬢ちゃん。悪いが俺達は盗賊だ、辞めたいからやめますなんて道理は通じねえ。それに兄貴はカシラのお気に入りだ。どう考えたって五体満足で堅気に戻れるわけがない」
アリエルはボンクラを睨みつけてくる。
「どういう事ですか。こんな弟さんがいたなんて。私知らなかったんですけど」
「いや、別に兄弟じゃねえから。立場上の兄貴だよ」
「ボンクラさん、このまま盗賊を続けるつもりですか」
スカルの言葉に、ボンクラは腕を組む。
そりゃこのまま続けていくつもりは無い。しかしどうも気になるのだカシラは何かを隠している。事情があって盗賊をしていると思うのだ。
「おかしいね。この馬車がザール氏の荷物輸送をしてるってことは分かってたんだけどね。……ハズレだ」
カシラが馬車から出てくる。
「カシラ。荷物何を持って行きゃいいんですか?」
「今日は無いよ。ま、こんな日もある」
サブを睨みつけ言うと、カシラは森の中に歩いていく。
「ちょ待ってください。あ、兄貴帰りやすぜ」
サブもカシラを追い、他の盗賊達も森の中に歩いていく。
「ボンクラ様……」
アリエルがボンクラを見てくる。
ボンクラは森に目をやる、カシラがこちらを見ている。
「少しの間待っててくれ」
そう言ってアリエルの胸をひと揉みした。
もちろん殴られた。
これからの話:盗賊行為は空振りに終わった。盗賊達は今日の収穫が無かったので支部に食料を取りに行くことになった。しかしそこではちょっとシリアスな事態になっていた。
主人公がいい汗をかく。次回「盗賊の矜持」




