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05-04:日帰りかにかにツアー

これまでの話:盗賊団に入ってしまった主人公。無事知り合いへの身バレ済ませ、カシラの秘密に迫ろうとする。


「いやあ、なかなかの収穫になったじゃねえか」

「まったくだ。織物は高値で捌けるうえに足がつきにくいからな」

「カシラの見立てはいつも確かさ」


 アジトに帰ってきた盗賊達は、各々お気に入りの場所に陣取る。

 ボンクラは自身が入って来た箱の上に座った。

 

「そのカシラは何処行ってるんだ」

「カシラなら街に行きやしたぜ。たまに行くんすよ情報収集に」


 食料部屋から持ってきた酒を、早速飲みながらサブが答えた。


「情報収集?」

「ええ、詳しい事は俺たちも知らないんですが、襲う商人は選んでいるみたいです。一度間違えて襲った時は結局何も取らずじまいだったくらいですから。あんときは先走って馬車から荷物持ち出した奴が逆にぶん殴られちまって……へへ盗賊なのに盗むなってのも酷ですぜ」


 襲う商人を選んでいる。……何故だ。

 カシラはオレがユミル・ベルバートだと知っていた。そして言ったのだ。

 

「今でも勇者の行方を捜してる国があるって言うじゃないか。安穏な生活を送りたいんだろ?だったらアタシの部下として仕事を手伝ってもらうよ。なあに、人は殺さない。流石に元勇者様にそれをさせるつもりはないさね」

 

 だが。そもそもなぜカシラは元勇者だと知ることができたのか。

 ボンクラは10年前を思い出す。世界中を巡ったが、女の盗賊と深くかかわった事は無かったと思う。


「サブ。カシラはいつからここの頭領をやってるんだ」

「えっと、1年くらい前からですね」


 意外と最近なんだな。

 

「それまでは何してたんだ、というか何で盗賊のカシラになったんだ」

「まあ、話せば長くなるんですが」


 そう前置きをしてサブは話し始めた――。

 

 

 当時の盗賊団は今と違って、機会さえあれば手あたり次第に盗賊行為を働いていた。

 その日は曇天に覆われ日中だが随分と暗かった。

 既に1件仕事を終え、帰る途中だったが乗り合い馬車を見つけ、もうひと仕事しようかと待ち構えていた。

 数十人の盗賊は草原に身を伏せ、カシラであるアンドレの合図を待つ――。

 

 

「ちょっと待った!」


 ボンクラが回想を中断した。

 

「アンドレがカシラになってる!」

「なんすか、いい感じの導入だったのに。そうっすよアンドレが頭領でした」

「ええ、アンドレがカシラだったの?このアンドレが?」


 ボンクラが指さすと、アンドレは「おで、アンドレ」と応える。

 

「まあ当時は色々あってアンドレが頭領やってたんすよ。いいですか続けますよ」


 ボンクラは無理矢理納得して頷き、サブは話を続ける――。


 草原の街道をゆく馬車は2台。護衛は8人。

 載っている客は10数人といったところか。

 不意を突けば難しい獲物ではない、馬車の人間を人質にとれば護衛は無力化できる。

 しかし、それでも手に汗を握るような緊張感を皆がまとっていた。

 人質を取り損ねるかもしれない。乗り合い馬車は偽装で中にも兵士がいるかもしれない。そんな嫌な想像が頭をよぎる。

 

「そう緊張するな、シュナイダー。不測の事態が発生すればいつでも逃げればいい。護衛の兵士だって乗客を置いてまで追撃はしない。気楽に行こうぜ。……まあ偉そうに言ってるが俺も緊張してる」


 そう言って笑う頭領アンドレをみて俺は緊張が解け――。

 

「ちょっと待った!!」

 

 ボンクラが回想を中断した。

 

「アンドレ喋ってる!すげー頭領っぽいカッコイイ事言ってるじゃん!」

「なんすか、緊張感あるいい場面なのに。そりゃアンドレだってしゃべりますよ。なあ、アンドレ」


 アンドレはサブに「おで、アンドレ」と応える。

 いや、喋れてないよ。現状アンドレは自己紹介以外しないやつだよ。

 

「あとお前シュナイダーだったの?サブじゃないの?全然シュナイダーって感じじゃないけど」

「以前はシュナイダーだったんすよ。サブは今のカシラがつけてくれたアダ名。因みにアンドレは昔のアダ名もアンドレでした。いいっすか、続けますよ」


 サブは話を続ける――。


 頭領のアンドレに緊張が走るの感じた。

 馬車の前輪が目印に置いてある石に差し掛かる。

 馬車を遮るように弓矢が打たれ、御者が慌てて手綱を引く。

 

「敵襲だ!」


 護衛達が武器を構えて周囲を警戒する。

 馬車前方に隠れていた仲間の盗賊が10人程姿を現す。

 街道へ出る者、草の陰から弓を構える者それぞれが護衛と戦う姿勢を見せる。

 

「前だ、盾を構えて弓矢に備えろ」


 前方に現れた盗賊達を対処しようと護衛達は前方に集まる。

 そしてアンドレが「かかれ!」と声を上げる。

 前方の仲間は弓を打ち護衛を足止めする。その隙に後方の草むらに身を潜めていた者達が、馬車に乗り込む。シュナイダーもナイフを握って馬車へと乗り込だ。


「動くな、動けば怪我じゃ済まないぜ」


 乗客にナイフを向ける。

 

「なんじゃもう着いたのか」

「セツさん何を言っとる、弁当の時間じゃよ、なあ添乗員さん」

「毛が……なんじゃって?毛が少ないのはもう諦めとるわ」

「弁当はさっき食べたぞい」


 老人達の一人が空の弁当箱を――。


「ちょっと待った!!!」


 ボンクラが回想を中断した。


「老人用施設か!」

「仕方無いっすよ、その馬車カニカニ日帰り旅行のお客用だったんすから」

「カニカニ日帰り旅行行くような爺婆に物々しい護衛つけてるんじゃねえよ。過剰梱包だろ」

「まあ、城下の裕福な老人達でしたからね。話いいところなんですから、続けますよ」


 サブは話を続ける――。

 

 どうやらこの馬車にいるのはカニカニ日帰り旅行の客たちの様だ。

 現在チュウカーン王都で流行しているこのカニカニ日帰り旅行だが、実はチュウカーン国でカニの漁獲量は決して多くない。

 僅かに取れるカニも小ぶりでカニカニ日帰り旅行の客の欲求を満たすものでは無かった。ではなぜこカニを大量消費するこの企画が成功したのか。そこには仕掛け人達の多大な努力があった。

 数年前、チュウカーン国港町観光協会では城下町で退屈している老人達を新たな消費の対象として取り込むために、カニカニ旅行を企画していた。しかし自国のカニではこの企画で消費する量を賄う事は出来ず、企画はとん挫しかけていた。その時、担当者が目を付けたのがホッカイ国のカニである。チュウカーン国から北方の国ホッカイでは大きさも十分なカニが大量にとれる事が分かった。そして何度かの協議の結果ホッカイ国漁業組合の協力を得るに至ったのだ。

 しかしこの計画に更なる難題が立ちはだかる。チュウカーン国港街の漁業組合がこの観光計画に難色を示したのだ。

 ホッカイ国からのカニを輸入する為の港は、漁業組合が利用を管理している。このままではカニを輸入する事ができない。

 観光協会の担当者は漁業組合の元へ説得に向かった。

 漁業組合は当初観光協会の担当者を門前払いしていた。しかし「話だけでも」と懇願する熱意に負け、協議の場を設けた。そして漁業組合の持っていた懸念が明らかになる。

 それは自分たちが取ったカニではなく、ホッカイ国から輸入したカニを使用する事が自分達の商売と競合する事でチュウカーン国の漁業を圧迫する懸念があるというものだった。

 当時を振り返り漁業組合の組合長はこう語る。


「最初はふざんけじゃねえ!って追い返したよ。え?もちろん観光協会の連中さ。しかし担当さんの熱心さに最後は折れたね。『期間限定で試してほしい。もし問題が生じたら自分達が全て責任を負う』って言われてね。それがまさかこんな結果になるとはね」

 

 結果は漁業組合の予想を覆すものだった。カニカニ日帰り旅行による観光客の増加が港町での水産物消費につながったのだ。

 この成功に観光協会と漁業組合は――。


 

「ちょっと待った!!!!」


 ボンクラが回想を中断した。いやもう回想じゃねえし。


「どうでもいいわ!カニカニ日帰り旅行を掘り下げ過ぎ!いらねえよ観光協会と漁業組合のイザコザなんて」

「すんません。いまのは俺のわるふざけっす。じゃあ話の本筋続けます」


 サブは話を続ける――。


 馬車を占拠するのは簡単だった。老人達に抵抗の意思は無かった。

 シュナイダーは一緒に馬車に乗り込んだ仲間に見張りを命じ、外の護衛達を武装解除させるために馬車を出た。

 馬車を出て、最初に不自然に感じた事は霧だった。

 先ほどまでは曇天の為暗かったが霧など一切無かった。

 次に不自然に感じたのは音だった。

 静かだった。交戦をしている音も、弓を飛ばしている音も聞こえなかった。

 馬車の近くには頭領のアンドレが居た。アンドレは手斧を手放し地面に尻をついていた。

 そして震えながら前方じっと見ている。


「カシラどうしたんですか」


 アンドレはカタカタと震えながら前方を指さす。

 シュナイダーはその指の先を見た。

 霧の中、馬車の前方に人影を確認することができた。

 護衛と仲間の盗賊達と思われる人影、武器を構え微動だにせず。

 シュナイダーも頭領と同じように震えた。

 敵も味方も全員頭が無かった。

 馬車の中かから異常を察知した仲間達が出てきた。

 しかし皆その異様な状況を見ると頭領と同じように動けなくなった。

 これは何が起こっているんだ。シュナイダーはそう思い、震える足を無理矢理うごかして人影に近づく。

 近づくと馬の頭も無い事に気が付いた。そして頭が無い状態で立っている。

 馬の近くの護衛に触れると冷たかった。

 死体が冷えているなんて冷たさじゃない、凍るような冷たさだ。


「一、弱者が立ち、強者が沈むはいずこたるや」


 突然、霧の中に声が響いた。

 それは、悲しみを集約したような声だった。

 その声はシュナイダーの体の芯を凍りつかせる。足はいっそう震え、立っている事が出来ない程になり、しりもちをついた。


「二、願いて叶うは幻か、望みの果てに死を夢見るか」


 霧の中からそれが姿を現す。

 それは頭の無い戦士だった。

 マントの間から防具が見えるが、その身体はミイラのように無残に干からびていた。

 手には力なく鎌を下げている。

 シュナイダーは死神だと思った。

 身体をうごかそうとするが、震えはとまり今度は凍ったように足が動かない。

 ……俺はもう死ぬんだ。

 シュナイダーが生きるのを諦めた時。死神とは別の声が聞こえた。

 

「あなた達を助けたら、私の部下になって頂けますか?」


 首の無い馬の背に軽装の女冒険者が立っている。

 その女はこの状況で、赤茶色の髪をなびかせ曇天を背に微笑んでいた。

 

「どうなさるのですか。このままでは殺されてしまいますよ」


 女が何者かは分からないが、藁だろうが何だろうがすがるしかないという気持ちになっていた。


「わ、分かった。あんたの部下でもなんでもなってやる。だから助けろ!」

「交渉成立ですね」

 

 女は紐を取り出し髪を後ろで括った。

 

「じゃあ、これから私の事はカシラと呼びな」

 

 カシラはナイフを手にニヤリと笑った。

これからの話:サブの話すカシラとの出会い。謎のモンスターとの決着がついにつく。

次回「霧去りぬ」

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