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05-02:モヒカン宣言

これまでの話:モヒカン頭にトゲ付きショルダーガードを装備した主人公ボンクラ。武具屋の手伝いをするはすが……


 ボンクラが目を覚ますと辺りは真っ暗だった。

 そうか、箱の中で眠っていたんだっけと思いながら頭の上の蓋を押し上げた。

 箱から頭を出して周りを見ると、そこは馬車の荷台ではなかった。どこかの家の中、なかなか広くて小ざっぱりしている。今入っている箱は部屋の隅に置かれているようだ。

 武具屋のオヤジがどこかの家に置いたのだろうか。これからどうしようか考えていると、戸が開いた。

 

「いやあ、なかなか収穫になったじゃねえか」

「まったくだ。豪商の商品輸送はほんと有難いよな」

「今日は呑むぞ、オイ飯番今日は誰だ。ケチらずに豪勢なの出せよ」


 ぞろぞろと何人もの男達が入って来て、室内は途端に賑やかになる。

 ボンクラは戸惑った。なんだこの連中は。無精ひげに薄汚れた服装でだらしなく歩いている。そして剣、手斧、弓など一様に武器を持っている。そしてモヒカンかそれに準ずる頭をしていた。

 男達は各々室内でくつろぎだす。箱から顔を出すボンクラには気づいてもいない様子である

 

「カシラはまだ湯浴み中か、先に呑み始めると怒るからな、出て来るまで待つしか……あ、箱の人起きてる」


 ひょろっとした猫背の男がボンクラを指さす。

 

「にいちゃん運良かったな、俺らがたまたま通りかかって。何して捕まってたかしらねえけど、まあ同じ盗賊どうしだ気兼ねせずに、くつろいでくれ」

「え、何?俺が盗賊?」


 ボンクラは自身を指さす。

 

「何言ってんだ。心配しなくても、どこからどう見てもお前さん盗賊だろ」

「なかなかイカしたモヒカンじゃねえか」

「そのトゲショルダーかっこいいな。どこで売ってんだ」


 盗賊達が気さくに声を掛けてくる。

 どうやら盗賊と間違えられて、ここに連れてこられたみたいだな。

 

「オレが乗っていた馬車はどうしたんだ。オヤジが御者をしていたと思うが」

「ああ、なかなか屈強なオヤジだったけど、カシラが一撃で気絶させたな。悪いが殺しちゃあいないぜ」


 ボンクラはホッと息をつく。

 そうか生きているならいいや。


「じゃあ。俺は失礼しますんで、お世話になりました」


 箱から出て戸口へと向かうボンクラの行く手にやたら大きな男が立ちはだかる。

 他の男達も、立ち上がりこちらを睨んでいる。中には武器を手にしている者もいる。

 

「にいちゃん。こっちは捕まっていたところを助けてやったんだぜ、それをお世話になりましたの一言で帰っちまうつもりかい」


 猫背男はナイフを抜いて、これ見よがしに手の上でくるくると回す。

 先ほどまでの穏やかな雰囲気は一転した。隙あらばすぐにも飛び掛かってきそうだ。


「どうしろって言うんだ」

「あんたを連れて帰るって言いだしたのはカシラだ。カシラに聞いてくれ。今そこで湯浴みしている、すぐ出るから待ってな」


 猫背男が部屋の角にある戸口に目をやる。なるほどそこに風呂があるのか。

 

「待ってられん。俺にだって今日の予定があるんだ」


 ボンクラは戸口に向かって歩く。

 全く、武具屋のオヤジの仕事を手伝わないと、アリエルになんて言われるか。

 

「おい、ちょっと待てって!」

「今はマズイって!」


 慌てる男達をしり目に、戸を開ける。

 そこは脱衣所だった。

 濡れた長い赤茶色の髪、気の強そうな20代半ばくらいの女性が上半身裸で服を着ようとしている。

 完全に女性と目が合った。

 

「あ、あれー。おかしな、カシラって人が居るって聞い……だふっ!」


 仕方なく裸体を見たという説明の途中で蹴りが飛んできた。ボンクラは脱衣所から部屋の端まで飛ばされる。

 脱衣所の戸が閉じて。再度開くと、服を着て髪を後ろに括った女がそこに居た。

 

「何だい、助けてやったのに、覗きをするたあ。恩知らずな奴だね」

「いや、覗くつもりは無かったんだけど、カシラさんが女だと思わなくて。男だったらほら裸くらいみるじゃないですか、乳首くらいみるじゃないですか、だから男の毛の生えた乳首だと思ったら、まさか女で乳首がピン……」


 ボンクラのしゃべりを遮るように、カシラは駆け出した。

 戸惑うボンクラの正面で前転し、その勢いで踵を振り下ろす。

 ボンクラは足を踏ん張り、腕を交差させそれを受け止める。

 衝撃音と共に、足の下の床板が割れた。

 

「カシラの蹴りを受け止めた!」

「すげええええ!」


 蹴りを受け止めた事に周りから驚きの声が聞こえる。

 腕の骨がどうにかなったんじゃないかと思えるほどの蹴りだった。

 

「ほう。なかなかやるじゃないか。脳みそをぶちまけてやるつもりだったんだが……拾ったかいがあったね。これからはアタシの部下としてあつかってやるよ」

「いや、俺は別に――」


 盗賊になんてなる気は無いという言葉を遮って、カシラはナイフを抜く。


「因みに、アジトを知った人間を生かして帰す事は無い」


 そう言ってナイフを投げる。

 ナイフはボンクラの頬をかすめ、壁際を飛んでいた蛾を串刺しにした。

 

「まあ、逃げようなんて思わないだろうけど、一応心に留めておきな」

「あ、はい」


 アリエルに怒られることより、今は命を大切にしよう。

 

「お前ら新しいメンバーが増えたんだ、歓迎会をするぞ」


 カシラの号令に男達は「オー」と威勢よく腕をあげた。

 歓迎会ではカシラの隣にボンクラの席が設けられた。

 テーブルの上には豪華な料理と、酒瓶が並んでいる。

 

「えー。ではですね。この度、わたし達の盗賊団にですね。新しき仲間を来る、いや迎えるにあた、あたりまして、思えば長らく仲間が増える機会に、め、恵まれなくて、皆さまにも、多大な迷惑を――」

「かむなハゲ」

「早く飲ませろ」

「緊張してんじゃねんぞ」


 猫背男のしどろもどろ挨拶を、皆がからかう。

 ムッとした顔で周囲を睨む猫背男。

 

「今後は、新しい仲間と共に――」

「ハイ、カンパーイ!」


 猫背男の挨拶を遮るように、誰かの掛け声で男達が「カンパーイ」と酒を掲げる。

 猫背男も慌てながらそれに続く。

 ボンクラはそれを何処か別の世界の出来事の様に見ていた。

 

「どうしたんですか、兄貴。ガンガン飲んじゃってくださいよ。あ、おれサブって言います。よろしくっす」

 

 隣に座っている猫背男改めサブが話しかけてくる。


「え、いや何で兄貴?オレお前みたいなデカい弟いらないんだけど」

「いやー、カシラの蹴りを正面から受け止めるなんて並みの男にできる事じゃあないっす。このサブ感服した次第でございます。これから弟分としてついていき……いやなんすかその嫌そうな顔、楽しく飲みましょうよ兄貴の歓迎会なんすから」


 嫌だよ、こんなモヒカン男ばかりの飲み会なんざ楽しめるか。

 

「兄貴飲んでください、おかわりじゃんじゃん持ってくるんで」

「料理もいっちゃってください、今朝イノシシが取れたんで肉たんまりありますよ」

 

 サブとの会話が聞こえていたのか、対面や奥の盗賊達もこぞって酒とメシを進めてくる。

 

「すごい慕われようだな。そうだ盗賊の一員になったんだアンタにもアダ名をつけてあげないとね」


 カシラがワインの入ったグラスを手にこちらを見てにやりとする。

 意味が分からずボンクラは「アダ名?」と聞き返す。

 

「盗賊同志は本名で呼び合う事はしないんだ。ここいる連中の本名なんてアタシも知らない」


 なるほど確かに盗賊が本名で呼びあうのは危険である。


「アダ名ってのはね、なかなか難しいもんだなんだよ。本人を現していて且つ分かり易くないといけない。そして見た目以上に内面を映しているようなアダ名じゃないと馴染まない。人間の本質は内面にあるからね」


 そう言って、カシラはグラス越しにボンクラを見る。

 その鋭い目つきに、ボンクラは内面を見透かされたような気分になる。

 

「そうだねえ……アンタのあだ名は、モヒカン。うん今日からアンタはモヒカンだ」

「外見そのまま!しかも分かりやすいようで、分かりにくいわ。周りモヒカンしかいねえぞ」


 ボンクラの抗議など聞こえてないように、カシラは満足気にグラスの酒を煽る。


「いいあだ名じゃないですかモヒカン兄貴、おれなんかサブっすよサブ」

「おでアンドレ」


 サブが嬉しそうに酒を煽り「ぷはー」と酒気混じりの息を吐く。

 その横でやたら大きな男改めアンドレが手を振ってくる。

 

「何だいサブ。アタシの付けたあだ名に不満があるのかい?」

「いや、ないない。無いです」


 サブは酒を置いて背筋を正す。余程カシラの事が怖いのだろう。

 もうこうなったら今は呑むしかなさそうだ。明日の事は明日考えればいいや。

 

「よっしゃ。とことん飲んでやる。じゃんじゃん酒持ってこい!」

「兄貴、のってきましたね。注ぎますよホラホラ。おいアンドレてめー自分の肉ばかり食べてねえで兄貴の肉切り分けろ」

「ん、おでアンドレ」


 森の中のアジトは、夜更けまで宴会の声が聞こえた。

 半数以上が酔って、その場で居眠りを始めるころ、ボンクラは尿意を感じて席を立った。

 

「あれ?兄貴どこ行くんすか。サブもお供しますよ」

「しょうべんくらい一人で行かせろっての」

「なんすか、出したらまた飲みますよ」

 

 サブを適当にあしらって外に出て、木の根元を前でズボンを下す。

 飲んだ後の放尿って気持ちいいよなあ。

 さて戻るかと踵をかえすと、誰かいるのに気付いた。

 目を凝らしてよく見ると……カシラだ。

 

「あれ、カシラもしょんべん?へへ、やっぱ飲んだら出さないとね」

「モヒカン。お前が逃げるんじゃないかと思ってね」


 なるほど、逃げようと思えば逃げれたかも。すっかり忘れてた。


「い、いやだなあ。逃げるなんて。おれはもうカシラの部下ですよ」

「そうか、それを聞いて安心した」


 ボンクラは「んじゃ、戻って飲み直しましょうよ」とカシラの横を通り過ぎる。

 

「思った以上に物分かりが良くて安心したよ。さすが10年前、魔王城に乗り込んだ勇者ユミル・ベルバートだ」


 ボンクラ振り返る。

 雲に隠れていた月は姿が現しカシラの顔を照らす。

 カシラは怪しく微笑んでいた。

これからの話:主人公なのに盗賊になったボンクラ。その過去を知っているカシラ。ボンクラは盗賊として仕事をすることに、しかしそこにあの人が現れて。

次回「隠しても分かります」

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