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01-02:アイーダの酒場

これまでの話:金髪美少女のアリエルは、ある目的の為酒場へと情報を得にやってきた。


 軋むドアを押した先から、「いらっしゃぁい」と色っぽい声が聞こえた。

 アリエルは店内を見渡す。カウンターに6席、4人掛けのテーブルが3つ。昼を過ぎて夕方と言うには早い時間だが、テーブルのひとつには男性2人が酒を飲みながら談笑していた。こちらを一瞥するも談笑を続ける。

 カウンターの端のでは一人の男性が酔いつぶれたのか顔を伏せて寝ている。

 カウンター内には店主だろうか、腰まで伸びた赤毛の大人の女性がにこやかにこちらを見ていた。

 そのまま店主の正面にあるカウンター席へ座る。


「あらぁ、可愛いお嬢ちゃんねぇ。私はここの店主のアイーダよ。注文は何にする?」


 アイーダのしゃべり方には客商売独特の親しみやすさがあった。正直嫌いではない、話しやすい相手の方がこちらも助かる。

 とりあえず鳴き声を上げる寸前のお腹に何か入れたい。

 アリエルは銅貨を数枚をカウンターに置く。


「これで足りるほどの食事を下さい」

「まあ、お金持ちなのね。これくらい有れば十分よ」


 そう言って銅貨2枚を残して受け取り、「ちょっと待ってね。美味しい物食べさせてあげる」と嬉しそうに調理を始めた。


 カウンターの向こう側ではフライパンを使って何か焼いてるようでジュウという音がする。


「ピクルスは大丈夫かしら」

「あ、はい大好きです」


 急に聞かれたから少し慌てて答えてしまった。アイーダはそれを聞いて「良かった」と調理に戻る。

 フライパンに液体を流し込んだようで、さらに水泡が弾ける音は激しくなる。

 直ぐに香ばしい匂いが漂ってきた。同時にアリエルのお腹が『くぅ』と鳴く。

 あらら間に合わなかったか、まったく我慢を知らないお腹です。

 アリエルがお腹をさすっているうちに、アイーダは仕上げにかかったようでフライパンから料理を取り出している。


「はい、おまたせ。照り焼きチキンのサンドイッチと野菜のスープよ」


 サンダル程もあるバケットに、さらに大きな鶏肉が挟んである。

 大きめのカップには豆の入ったスープが湯気を上げている。

 空腹をこらえきれずサンドイッチを両手で掴み、かぶりつく。

 鶏肉の想像以上の弾力。甘辛いソースと肉汁が口の中に広がる。

 一口目を咀嚼しながらも、我慢できずに二口目にかぶりつく、歯が受け止めるシャッキリとした食感、ピクルスだ。甘辛いチキンにピクルスの香りと酸味が混じり、口内が幸せでいっぱいになる。

 もはや止まらないし止めれない。はみ出すピクルスを指で逃さないように噛み進める。ピクルスには悪いが一欠片も逃す気は無い。最後は押し込むようにして頬張り、指についたタレをペロリと舐める。

 アリエルが顔を上げると満面の笑みを浮かべたアイーダがおしぼりを差し出してきた。


「やっぱり若い子の食べっぷりは、いいわねえ」


 アイーダは恍惚とアリエルを眺めている。


「美味しいです」


 アリエルがそう伝えるとアイーダは満足げにうなずいた。次にスープに目をやる。

 本来ならサンドイッチとスープは同時に食べ進めるべきだったのでしょうね。でも私の手がサンドイッチを手放さなかったから仕方ないです。

 スプーンですくって口に運ぶ。

 舌の上にスープが流れ込むと同時に、湯気と共に鼻からスパイシーな風が抜けていく。

 どこかやたらと暑い国で食べた気がする味。スープがしみ込んだ細かく切ってある根菜と豆を咀嚼するたびに心地よい。最後はスープの皿を持ち、その一滴まで胃に流し込んだ。

 ふぅ。完食、満足できる味でした。

 アイーダを見てみると思った通り嬉しそうに微笑んでいた。

 水を注文して一息つく。さてそろそろ聞き込みを開始しましょう。


「主人、聞きしたいことがあるのですが」


 店主は「アイーダでいいわよ」と返事をし、アリエルの方を向いて愛想よくにこりとする。


「アイーダさん。この町に勇者様は滞在していませんか?」


 率直ではあるが、なんとも間の抜けた質問だってことは自分でもわかっている。店主も不思議そうな顔をする。


「勇者なんて、宿屋に行けば何人か泊ってるわよ」


 予想通りの答えが返ってきた。今では冒険者の多くが『勇者』を名乗っている事は知っている。しかしアリエルが捜しているのは特定の人物だった。


「違います。自称勇者の人たちじゃなくて、この国でも10数年前に国王がモンスターに入れ替わっていた事件を解決したでしょ、あの勇者様です」


 アイーダは「うーん」と考える素振りをたっぷりして。


「そんな有名人が町には居るなんて聞いたことないわね。それに10年前の勇者って、魔王に挑んで死んだって聞いたことあるわよ」


 アリエルが食した後の食器をかたずけながらアイーダが答えた。

 勇者が死んだという噂はもちろん聞いたことはある。魔王城に一番近い町に滞在した後、最後の戦いに挑むため、魔王が居住している城へ向かったというのが人々が知る最後の勇者の姿。その後、勇者の姿を見るものが居なかった為、死んだのではないかと憶測が噂として流れた。


「私はその噂を信じていません」


「まあ、信じたくない気持ちも分からなくもないわ。あの時代の冒険者たちは皆、勇者の話ばかりしていたわ。どこぞのダンジョンを攻略しただとか、お姫様を助けたとか。冒険者は沢山いたけど、本当にダンジョンを攻略し魔王討伐を目指す馬鹿なんて他にいなかったものね」


 どこか遠くを見るように店主は語った。


「噂程度の話でもいいから、なにか勇者様の居所がわかる手がかりが欲しいんです」


 少し困ったようにアイーダは腕を組む。


「今更、魔王を倒せなかった勇者を捜してどうするの。勇者を名乗る冒険者なんて、今ではたくさんいるんだから。何か問題を解決したいなら彼らに頼めばいいじゃないの」


「魔王は倒せなかったけど。あの人は本物の勇者でした。本物の勇者様じゃないと私の願いは叶えられないんです」


 懇願するように言い返した。意識せず少し声が大きくなっていた。


「なんだい、お嬢ちゃん。10年前の勇者を捜しているのかい」


 テーブル席で飲んでた男性から声が投げかけられた。十分に酔っているようで顔が赤く声が大きい。


「知ってるんですか?」


 思わず大きな声で尋ねる。


「いや、俺はしらねぇけどよ。武具屋のオヤジが昔『勇者の剣』を買ったって話してるのを聞いたことあってよ」


「ありゃ、ホラ話だろ」と連れの男が苦笑する。


「俺だって大して信じちゃいねえよ」と連れの男に笑いながら返す。「まあ、この町で勇者の話題なんてそれくらいしか聞いたことねえって事さ」


 男はそう言うと、お酒を煽り連れとの談笑に戻った。

 残っていた水を飲み干すと、アリエルは立ち上がり、アイーダに言った。


「武具屋の場所、教えて下さい」

これからの話:アリエルは武具屋で勇者の手がかりを得る事は出来るのか。

次回「喋りすぎた男」

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