04-05:大きなモンスターと小さなモンスター
これまでの話:何とか塔まで逃げ切ったキャッスルベア。しかし背負っていたアイアンゴーレムは……
ヘルメイジは塔の入り口で待っていた。ヘルメイジにアイアンゴーレムを託すと。
「飲み込んだままだと、変異が止まらず自壊するんですよ」
そう言ってキャッスルベアの喉に杖を突っ込み瘴気の実を吐き出させた。そして吐き出した瘴気の実は煙となって消えた。
その間もアイアンゴーレムは身動き一つしない。
「コイツは助かるのか」
「分かりません。最善を尽くすつもりですが、ここまで損傷が激しいと難しいです」
ヘルメイジはアイアンゴーレムを抱えると「最善は尽くしますよ」と魔法を唱えて塔のどこかへ飛んで行った。
キャッスルベアは傷ついた身体を引きずって治療室まで来て。倒れるように空いていた大型ベッドで寝た。
あいつはどうなったのだろう。あの嵐のような斬撃を受けて――。そこまで考えてキャッスルベアは身震いをする。
キャッスルベアが目を覚ますと。そこは治療室だった。
自身の手を見て実感する。生きている。
ここにたどり着いたのは昨日の事だ。
ふと隣の小型モンスター用ベッドが空いているのに気付いた。そこは昨日アーマーカブトが寝ていた場所だ。
「そこに居たアーマーカブトなら実家に帰りました」
いつの間にかヘルメイジが入り口に立って居た。
あのアーマーカブトも笑う切裂き魔の嵐のような斬撃を受けたのだろう。それを思い微かだが、同情するキャッスルベア。
「アイアンゴーレムの奴はどうなった」
ヘルメイジはキャッスルベアの隣の大型モンスター用ベッドまで歩く。
布団だけが無造作に置かれたのベッド。
「アイアンゴーレムの治療は、魔法と薬、瘴気を用いて長時間に及ぶものになりましたが、成功しました」
キャッスルベアは安堵の長い溜息をついた。
「そうか。無事か。しかし何処行ったんだ。まだ完治はしてないだろ」
「先ほどまではここに座っていたのですが――」
そう言って。ヘルメイジは、ベッドを見下ろした。
「そうか。まあ、無理もねえ」
背負ったアイアンゴーレムが軽くなっていく恐怖、削られていくという恐怖を思い出す。
実家に帰ったのか。『笑う切裂き魔』に遭遇し生き延びた多くのモンスターがそうであったように。
しかしヘルメイジは、「いえ」と断りをいれ。布団を持ち上げる。
それを見たキャッスルベアはあんぐりと口を開けた
全身が鉄の塊で構成されたマッスルウサギ程の大きさの小さなアイアンゴーレムがそこに寝ていた。
「今はぐっすり寝ています。削られた身体を補うことはできないので、全身を小さくして再構成しました」
毛布をめくられ、アイアンゴーレムはまぶたを擦り起き上がった。
「ヘルメイジ様おはようございます。あ、キャッスルベアの兄貴も目が覚めたんですね。いやー昨日は大変迷惑をかけました。おかげさまであっしは一命をとりとめたようで、身体は若干小さくなりましたが、その分随分と軽くなりやした。今、口も軽くなったって思ってます?いやー自分でもびっくりするくらい実際口が軽いんでやんすよ。やっぱり図体ばかり大きくても駄目でやんすね。世の中、軽量化の方向にすすんでいやすからね。あ、図体ばかりってのは兄貴の事じゃないでやすよ」
早口にまくしたてられ、思わずのけぞるキャッスルベア。
「いや無事でなによりだ」
その言葉にアイアンゴーレム嬉しそうに頭をかく。
「ヘルメイジ、悪いが斧は落としちまった。済まなかった」
少しだけ頭を下げるキャッスルベア。
「ええええ!?伝説の名工が作った斧ですよ。伝説の名工が」そう言って驚いて見せたヘルメイジだがすぐに「まあ、いいですよ。あんな斧。それよりも、もっと大切なものを持って帰って来てくれたんですから」そう言ってアイアンゴーレムの肩にぽんと手を置いた。
自然と口元が緩むのを感じた。
「もう動けるのか」
アイアンゴーレムに問う。
「ええ、もういくらでも動けやすぜ。どこか行くんですかい。ひょっとして、さっそく人間どもぶっ殺しに行こうって事でやすか」
アイアンゴーレムはベッドの上に立ち、腕ぶんぶんと腕を振って健常を訴える。
「食堂にいくぞ。カレーでも食いながら、まずは『笑う切裂き魔』の対策を練らないとな」
「わかりやした。オイラは激辛カレー食べたいでやんす」
「いや、甘口にしとけよ」と少し呆れるキャッスルベア。
軽快に言葉を交わしながら、大きなモンスターと小さなモンスターは治療室を後にした。
◇◆◇◆◇
塔より離れた森の中。傷ついた獣のようにうずくまる黒い影があった。
それは四つ足に三つ首、ただし乗っているのはトカゲの頭が一つという奇妙な姿をしていた。
焼け堕ちるようにボロボロと自壊し、わずかながら再生をする。それを永遠と繰り返し、時折苦しそうな声をだす。その度に「モヒカン男め」と憎しみを込めてつぶやく。
ゆっくりと時間を掛けて朽ちていく。
その内、体から噴き出す瘴気でその姿は見えなくなる。しかしそのつぶやきは決して途絶える事は無かった。
-第4話:クマと鉄 完-




