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04-04:森クッキング

これまでの話:人間達を襲撃したキャッスルベアとアイアンゴーレム。圧倒的に優勢と思われた時、人間の女が通りかかる。

「あらあら、楽しそうね」


 この場に似つかわしくない。朗らかな声が響いた。


「アイーダさん。来ちゃ駄目っす。モンスターがいるっす」

「まあ、それは楽しそうね。ずるいじゃない二人だけで楽しんで。私も混ぜてもらおうかしら」


 特に目立った武具は身に着けていない。何だこの人間は冒険者じゃないのか。

 荷車を止め、戦闘に参加しようとするアイーダ。


「アイーダさん装備も無いのに戦う気ですか」

「あら私のうっかりさん。ええと、装備ってこれでいいかしら」


 そう言って荷車から、果物ナイフと木蓋を取り出す。


「よくないっすよ。そんな装備じゃ料理くらいしかできないっす」

「料理しちゃうっのよ。クマのみじん切りでそぼろを作ってあげるわ」

「アイーダさん。そぼろじゃあ木蓋を使ってません。というかフライパンが必要です」

「そこ!?突っ込むところそこっすか!」

「アイーダさん本当に、任せて大丈夫なんですね」

「ええ、余裕よ」


 そう言ってアイーダは果物ナイフとお鍋の蓋を構えてキャッスルベアに対峙した。

 何だあのチンケな装備は。まあいい、ぶっ殺せるなら誰だっていい。


「この斧の試し切りに丁度いい。真っ二つにしてやる」


 背中に背負っていた斧を手に握る。

 緊張感の無い表情のまま正面に立つ女。真っ二つにしてやる。

 大きく斧を振りかぶると、アイーダに真っ直ぐ下ろした。土煙が上がった。


「アイーダさん!」

 

 土煙が収まると。斧の半分が地面にめり込んでいる。そしてその横にアイーダが居た。


「おおっと、いけねえな。普段武器なんぞ使わんから外しちまったぜ」


 そう言って再度振りかぶり。全力でアイーダに下ろす。しかし斧はアイーダを避け、今度は反対側の地面埋まる。

 何故。自問しながら何度も振り上げ、振り下ろす。

 何度も左右を削られ、アイーダの居る場所が切り立っていく。

 何か防御系の魔法を使っているのか。そう思ったが振り下ろす斧に一切の抵抗は感じ無い。


「あらあら、どうしたのかしら。もう穴掘りは止めたの」


 アイーダの言葉にカッとなり渾身の力で斧を振り下ろす。

 その時キャッスルベアは見た。木蓋で刃を受け、身体をしならせ、斧を反らすアイーダの姿を。ありえねえだろ。伝説の名工が作った斧だぞ。なんで木蓋で受け流せるんだよ。


「横薙ぎならどうだ」


 水平に斧を振りぬく。しかしアイーダの姿はそこに無い。重さを感じて斧を見ると、斧に果物ナイフを突き立てアイーダが乗っていた。

 アイーダは果物ナイフを引き抜き、腕伝いに駆け込んでくる。空いてる手でそれを払う。アイーダは空中に飛んで手をかわし、キャッスルベアの顔面に斬りかかる。早い。口からの熱塊は間に合わない。顔面を切られる覚悟した瞬間。鉄の手がアイーダを吹き飛ばした。

 宙返りをして着地するアイーダ。


「助かったぜ。おめえ中々――」


 キャッスルベアは援護に入ったアイアンゴーレムを見て言葉を失った。うずくまるアイアンゴーレムの手は半分になっていた。


「あいつに切られたのか」


 頷くアイアンゴーレム。それは鉄の塊であるアイアンゴーレムを切ったとは思えない滑らかな切り口だった。


「同時に行くぞ。あれは強敵だ」


 斧を握りなおす。アイアンゴーレムが頷くのを確認して、アイーダと一気に距離を詰める。

 斧を打ち下ろし、爪で引き裂くように腕を振る。その合間を縫ってアイアンゴーレムが拳をたたきつける。

 しかしどの攻撃も当たらない。

 避けているのだろうが、その動きすら見えない。攻撃を終えてようやく当たっていない事に気付く。

 蹴りを織り交ぜさらに攻撃を続ける。当たらない。

 そして一瞬。光の筋が何条も見えた。気づけば身体にいくつもの傷ができる。


「さすが魔王城の門番。なかなか頑丈ね。ちょっとだけ本気出しちゃおうかしら」


 そう言って果物ナイフを正面に構え、消えた。

 駆けるのが早すぎて消えて見えた。

 ボトリ。

 キャッスルベアは自分の足元に落ちたそれを見る。斧を握った自身の手だった。

 アイーダはそのまま走り抜け再度切りかかろうと、身構えた。

 全身の毛が逆立ち、足が震える。

 キャッスルベアは自身の心身に異常を感じた。それは初めて抱く感情、恐怖であった。

 アイーダが消える。キャッスルベアは残った腕で、見えない斬撃を防ごうと構える。

 しかし攻撃はキャッスルベアに当たらなかった。

 鉄の壁が、アイーダの攻撃を受け止めていた。何度もそのアイアンゴーレムの鉄の背中越しに衝撃が伝わってくる。

 攻撃の連打は永く感じた。そうやって攻撃を受けた壁は仰向けに倒れた。

 ようやく手を休めたアイーダは再度距離をとっていた。


「お前、何やってんだ!」


 全身を削られ、ボロボロのアイアンゴーレムに叫ぶ。

 アイアンゴーレムの口がゆっくりと開いた。


「オデ……ノロマ…メイワク…ニゲ……テ」


 喋れたのかよ。

 頭部から足先まで無数の切裂き傷。腹部は斬撃で削られ陥没している。

 無機物系のモンスターは急所が無い。しかしその身体は一定量の損壊で崩壊してしまう。もはや口元も動かせないアイアンゴーレムは崩壊寸前に思えた。

 ヘルメイジなら治療できるだろう。塔に戻れば――。

 いや数日前に、モヒカン男に負けて。今日また逃げ帰るなんてできる訳が無い。

 逃げ帰ればヘルメイジやレッドフロッグの野郎にでかい面されるだけだ。気に入らねえ。

 懐から、昨日ヘルメイジから受け取った瘴気の実を取り出す。


「だめ。食べるのを止めて!」


 アリエルが叫ぶ。キャッスルベアはすでにごくんと飲み込んでいた。

 全身から瘴気が吹き出し、切られた傷がふさがる。左腕の切断面の肉が盛り上がり、新しい左手を形成する。

 筋肉が隆起し、手足の爪が伸びる。腹の底熱くなり、熱と力が全身に巡っていく。


「やっぱコレはキクぜ。力がよ、力が溢れて身体が弾けちまいそうだ」


 歓喜するキャッスルベア。

 そんなキャッスルベアを見てアイーダはより嬉しそうに言った。


「まあ、料理しがいがあるわね」


 誰が料理されるか分かってねえようだな。

 横たわるアイアンゴーレムがかすかに身じろぎをする。

 馬鹿野郎が何がニゲテだ。

 キャッスルベアは斧を構えてアイーダを睨みつける。そして渾身の力で斧を投げつけた。

 アイーダはそれを跳んでかわす。

 その隙にアイアンゴーレムを背負う。


「全く、仕方ねえな」


 瘴気の実を食べた今なら。コイツを背負って逃げ切れる。

 塔に戻れば、アイアンゴーレムも助かる。

 森に向かって全力で駆け出した。

 木々を縫い、走る。しかし後ろから掛ける足音聞こえる。

 後ろから、ついて来ている。

 アイアンゴーレムを背負っているとはいえ、強化された身体で、かなりの速度で走っているはずだ。

 追いつかれなければ大丈夫だ。このままの速度で逃げ切る。

 巨大なキャッスルベアが森の中走ると木の枝が邪魔になる。その度に木の枝を身体で腕で叩き折るが、一瞬速度が落ちる。


 その内、だんだんと身体が軽くなっていくのに気付いた。

 いや、キャッスルベアの身体が軽くなっているのではない。

 背負っているアイアンゴーレムが軽くなっているのだ。

 時折わずかに感じる背中への振動。

 背中のアイアンゴーレムが攻撃されている!?

 木を避けるとき、枝を掃うとき、速度が落ちるたびに、アイアンゴーレムが削られている。

 何度も繰り出される斬撃で、少しずつ削られている。

 キャッスルベアは渾身の力で走るしかし、背中への振動は続いた。

 アイアンゴーレムは削られ続けた。

 そして、ごとりと何かが落ちた。

 走りながら、後方を確認する。足だった。繰り返し、削られたアイアンゴーレムの足が片方落ちて転がっていく。


 これ以上の損壊を増やすと死んじまう。そう思い走るキャッスルベア。

 次に落ちたのは腕だった。

 そして残りの足。

 もうアイアンゴーレムの下半身はほとんど残っていない。

 すでに意識はないのかアイアンゴーレムの手はきゃするベアをつかんでいない。

 ずり落ちそうになる残ったアイアンゴーレムの腕を両手で握る。

 足は止めれない。少しでも速度が落ちれば、アイアンゴーレムのすべてが削られる。

 随分走った。シラカバ塔が木々の間から小さく見える。

 まだ、こんだけ距離があるかよ。


 うぐっ。


 斬撃が、キャッスルベアの腰に届いた。

 今度はキャッスルベアの肉が直接削られていく。


 傷を負えば走れなくなる。そうなれば、自分もアイアンゴーレムもバラバラにされるだろう。

 痛みに耐えて走り続ける。

 しかし、腰へのダメージはキャッスルベアの足を重くしていた。

 木の根に躓き倒れそうになる。足を大きく出してこれを踏みとどまる。

 危なかった。そう思った時、斬撃が止んでいる事に気付いた。

 足音もついてきていない。振り返ると追撃者の姿は見えなくなっていた。

 立ち止り周囲を睨みつけながら息を整える。


 どうやら諦めたようだ。

 瘴気も濃くなってきている奴だってこれ以上塔に近づくのは危険だと判断したのだろう。

 そう思った時、耳元でささやく声が聞こえた。


「もう逃げなくていいのかしら。ウフフフフフフ」


 背負っているアイアンゴーレムの上にそいつは乗っていた。

 そいつの笑い声で全身の毛が立つのを感じた。

 間違いないと確信するコイツが笑う切裂き魔(スマイリングリッパ―)だ。

 身体をよじりながら叫び声をあげるキャッスルベア。


 その時、塔の屋上が光った。

 直後、そこから発せられた光線が背後を貫く。

 何かの魔法。誰が。ヘルメイジの顔が浮かんぶ。

 振り向くと奴はいなくなっていた。

 今の魔法で死んだのか、そう思ったがもう立ち止る事など出来なかった。

 キャッスルベアは速度を落とさず塔まで走った。


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