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04-03:熊VS猫

これまでの話:人間の襲撃を命じられたキャッスルベアは、ドジっ子新人モンスターのアイアンゴーレムと襲撃地点へと向かう。

 森の中を歩くキャッスルベア。後ろにはアイアンゴーレムがついて歩いて来る。


「急がねえとな、アリゲーターソルジャー達はもう襲撃地点に着いているはずだ」


 昨日アイアンゴーレムが負った転落の傷をいやす為、ぎりぎりまで治療室に居た。

 申し訳なさそうに、肩を落として歩くアイアンゴーレム。


「今日はしっかり人間殺していくぞ」


 ぶんぶんと頷くアイアンゴーレムを確認すると少し歩く速度を上げる。

 それにしても、方向は大体あってると思うが何処だここ。右を見ると木がたくさん。左を見ると木がたくさん。

 後ろを見るとアイアンゴーレムが心配そうにこちらを見ている。


「おいおい、俺が迷子になってるなんて思ってるんじゃないだろうな。んなわけねえだろ。この辺りは庭だぜ」


 まったく心配性なゴーレムだ。それにしても襲撃地はどっちだろうな。

 その時、キャッスルベアの耳は森の音とは異なる音を捉えた。キリキリ、カタカタ。これは人間が使う馬車の音だ。

 なんだやっぱり近くまで来てたみたいだな。アリゲーターソルジャー達はいない。あいつら迷子にでもなってるんじゃないのか。


「人間達を捉えたぞ」


 そう告げると、いきり立ったアイアンゴーレムはキャッスルベアを追い越して走り出そうとした。


「おい慌てるな」


 引き留めようと腕をつかんだ瞬間、右足に激痛が走った。


「痛っ!」


 うめき声を上げながら、足元を見るとアイアンゴーレムの足が、キャッスルベアの足を踏んでいた。

 慌てて足を上げるアイアンゴーレム。そしてキツツキのように頭を何度も下げる。

 キャッスルベアは「てめえ――」と文句を言いかけるが。くそ、説教をしている場合じゃねえと留まった。

 頭を下げ続けるアイアンゴーレムに行くぞと声をかける。

 今の自分のうめき声は街道まで聞こえただろう。相手が身構えているのが気配で分かる。不意打ちはできそうにないな。

 まあいい。どうせぶっ殺す事に変わりはないのだ。そう思い足音を気にするでもなく、堂々と街道の方へ近づく。


 正面が明るくなってきた街道は目と鼻の先だ。

 木々の間から人間達が確認できる。

 冒険者風の人間が十数人と2頭立ての馬車。へへへ、どうやら上手いこと目標の要人ってやつにたどり着いたみたいだ。

 その時、人間が声を発した。


氷結槍(ブルージャベリン)


 周囲の木々を凍らせながら、氷の槍が迫ってきた。避けれない。両腕を交差させ衝撃に備える。

 しかし氷の槍はキャッスルベアまで届かなかった。

 木の根につまずいたアイアンゴーレムがキャッスルベアの盾になっていた。

 氷の槍はアイアンゴーレムにぶつかると砕けて散る。


「おい。大丈夫かよ」


 アイアンゴーレムは立ち上がると、攻撃を受けた胸部を得意げに見せてきた。

 防いでみせましたってか。いちいちその程度の事で得意げになるなよ。

 アイアンゴーレムは無視して、街道へ出る。森の中とは違い、太陽の光を遮るものは無い。瘴気の薄さをより一層感じた。

 周りには距離を置いてたたずむ冒険者達。ふん、怯えてやがる。


「隊長!」


 そう呼ばれた人物が「モンスターを包囲しつつ、馬車を守れ」と指示を出す。いいね、ある程度統率が取れている方が楽しめる。

 しかしキャッスルベアの期待通りには行かなかった。突然冒険者の多くは逃げ出したのだ。

 おいおい、何逃げてんだまだ戦ってねえだろう。

 隊長と思われる人物も「逃げるな」と叫んでいるが冒険者たちの遁走は収まらなかった。

 その内、馬車が走り出し、隊長もそれに乗って逃げてしまうと、残ったのは荷車と女の冒険者が二人。

 一人は城の兵士だろうか、動きやすい服装から武闘家と推察できる。

 もう一方は、簡単な防具を来た金髪の女冒険者。キャッスルベアは目を大きく見開く。


「てめえ、この間の女じゃねえか。まさかこんなに早くに会えるとは思わなかったぜ」

「女じゃありませんアリエルです」


 相変わらず肝が据わってやがる。嬉しいじゃねえか。


「なんすかあの大きなモンスター。アリエルちゃんの知り合いっすか?」

「昔、猟師さんから熊の子供を貰いました。大切に育てていたのですが、母親を殺された憎しみからその子熊はあのような姿に……」


 アリエルは詳細を説明するのが面倒だったので適当な嘘をついた。


「なんて悲しい物語なんすか」


 イオは袖口で目じりを拭う。

 よく見れば、荷車の上に横たわった人間達の中に、見覚えのあるモヒカン男いるのに気付く。

 おいおい、上等なのが居るじゃねえか。キャッスルベアは興奮のあまり舌なめずりをした。


「ボンクラ様、またベアが出ましたよ。ほら起きて下さい」


 うなるばかりでモヒカン男は起きてこない。どうやら病気か何かで動けないようだ。

 こうなると逃げた人間達以上に残ったエモノの方が恵まれてる。

 キャッスルベアは口角を上げ牙をむき出しにして笑う。


「嬉しいじゃねえかオレが最も殺したい人間がいる。今日はその口の達者なモヒカン男は戦わねえのか」

「ボンクラ様の力見せてあげますわ。ねえボンクラ様」


 アリエルが頬を叩くもうなるモヒカン男。


「逃げるって選択肢はない見たいっすね」

「逃がしてくれそうにありません。時間を稼いで下さい。何とかします」

「分かったっす」


 そう言うと、武闘家は手を地面に着けて四つ足になり、威嚇する猫のようにフーとうなる。


「おー、よしよし」


 アリエルが武闘家の頭をなでる。


「誰の頭をなでてるっすか。わたしのほうがお姉さんなんですからね」

「猫みたいだったからつい」と言いつつ顎の下をなでるアリエル。

「そ、そこはダメっす。ゴロゴロ」


 黙って見ていると、アイアンゴーレムが腕を引っ張ってきて、会話をしてる人間達を指さす。つまりさっさと攻撃してしまおうと言ってるのだろう。


「まて、あれは人間達の挑発だ。下手に動かないほうがいい」


 前回はモヒカンの挑発に乗ってしまったことが敗因の一つだと思っている。同じ轍は踏まない。適当に様子をみつつ、相手から仕掛けてくるのを待つ。

 どうやら武闘家の方が先に戦うようだ。


「おめえはちょっと俺が戦うところ見てな」


 アイアンゴーレムを下がらせる。楽しませてもらおうじゃないか。


「改めて、スカル隊副長ニャン拳のイオ参るっす」


 イオと名乗った武闘家は再度四つん這いの構えを見せる。人間達の作法かそれもまた一興。


「シラカバ塔のキャッスルベアだ。ぶっ殺してやる」


 名乗るが、特に構えない。

 イオが四つ足で駆ける。人間にしては早い。

 キャッスルベアの正面まで来ると、さらに早い速度で右に回り込んで来た。飛び上がり、キャッスルベアの右手を蹴ろうとする。キャッスルベアは逆にそれを掴もうとした。


「おっ!?」


 キャッスルベアの手は、イオを掴めなかった。空中で、開脚したイオはそのままキャッスルベアの手を足で掴んで、腕を駆け上がってくる。 手を足で掴まれた。魔法か?詠唱も発動も無かったように思えたが。

 困惑するキャッスルベアの顔目掛けて拳を突き出すイオ。左手でそれを防ぐ。とたんに鋭利な刃物で切り裂かれたように左手から瘴気がふきだした。


 左手を駆け上がり、顔面へ飛び掛かってくる。

 なかなかいい動きをするじゃねえか。

 キャッスルベアは口を大きく開ける。肩のコブが一瞬輝く。

 パァン!

 口から飛び出した熱塊はイオに直撃すると弾け破裂音とわずかな熱風起こす。しかし両手の手甲で防いだようでイオに直撃はしていない。

 そのまま下がり距離をとるイオ。


「爪のある人間がいるとはちょっとは驚いたぜ」


 手先、足先に金属の爪を隠している。イオがキャッスルベアの手を足で掴み、手でキャッスルベアの皮膚を切り裂いた仕掛けだ。

 キャッスルベアの言葉に、手甲から爪を出して見せるイオ。


「私も口から火を吐くクマなんて初めて見たっす」


 今のは本来の使用用途ではない。光線を吐く際のためを無くしたゲップのようなものだ。


「少し本気を出そうか」


 キャッスルベアは両手を上げ構える。

 再度、駆けてくるイオを横から叩く。寸前をかわされる。追撃を何度も繰り出すもそのたびにかわされる。

 まとも戦う気が無いな、こちらの間合い深くに入ってこない。何か狙いがあるのか。

 そう思った時にはすでに視界は砂煙に覆われていた。同時にイオの姿が見えなくなる。

 おそらく爪を出したまま回避を続ける事で何度も地面の砂を巻き上げたのだろう。


「視界奪ったくらいで勝てると思ってるんじゃないだろうな、さっさと攻めて来いよ」


 そう言った直後、詠唱を終えたアリエルの魔法が発動した。


暴風爆発(ストームバースト)。いけーボンクラ様!」


 膨れ上がった風の塊を荷車の後部にぶつける。地面がえぐれるほどの風の爆発が起り、荷車を弾け飛ばした。

 砂煙を突き抜け、疾風の如く飛んできた荷車をすんでのところでかわすキャッスルベア。

 荷車はそのまま街道の彼方へと飛び去って行った。


「なんつー、むちゃな攻撃しやがるんだ」


 さすがにちょっと焦った。


「ボンクラ様の攻撃がかわされた。なかなかやるじゃないですか」

「ボンクラさんたち本当に何処か行っちゃったんすけど」


 今の荷車攻撃で砂煙が散る。


「煩わしい。今度はこちらから殺しに行ってやるよ」


 そう言って、踏み出した足を直ぐに止めた。

 人間の女が、荷車を引きながら近づいて来のが見えた。


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