04-02:鉄は朱く染まり
これまでの話:アイアンゴーレムの新人教育を命じられたキャッスルベアは、塔の中を案内する。
「治療室だ。濃い瘴気に満ちているから基本寝ているだけの場所だ」
治療室には、何体かのモンスターが横たわっている。マッスルウサギや、イエローフロッグなど瘴気拡大の為、前線に送られる下級モンスター達。
弱っち連中がまた人間にやられやがって。
その内一つのベッドをアイアンゴーレムが指さして気にしている。
見ると布団が丸く団子状態になっている。
「これは何だ」
キャッスルベアは布団を持ち上げた。
ころんと紙に包まれた飴玉の様な何かが、ベッドの上に落ちて転がった。
マッスルウサギと同サイズながら、硬い外殻をもつカブトムシ型モンスターのアーマーカブトだった。
転がった拍子に包帯が緩み、ボロボロになった外殻が露わになっている。
「すまねえ、布団が丸まってると思って」
驚きながらも包帯を戻そうとするキャッスルベア。しかしそれでもアーマーカブトは丸まって震えている。
「おいおい、すまねえって言ってるじゃねえか。驚かせたのは悪かったが震えすぎだろ」
戸惑うキャッスルベアに声がかかる。
「キャッスルベア殿、無駄ですよ」
窓枠にはメタリックに輝くコウモリが逆さにぶら下がっていた。
「どういうことだシルバーバット、無駄ってのは」
「キャッスルベア殿は『笑う切裂き魔』をご存知でしょうか」
「そういや、ヘルメイジが朝礼でそんな話をしていたな」
「今朝、街道際の森を偵察していた私はアーマーカブトが逃げる姿を見かけました。何から逃げているのかと周囲を偵察して街道付近で見かけたのです。十数体のバラバラになったアーマーカブトの死体を」
アーマーカブトの外殻は鉄並み硬い。それをバラバラに切裂くなど、キャッスルベアでも容易ではない。
「近くに冒険者か、人間の軍隊はいなかったのか」
「それらしい人間はいませんでした。偵察担当ですが私も上級モンスターです。それ程の強さを持つ冒険者は見れば分かります」
「何がいいてえんだ」
「ひょっとしたら、『微笑む切裂き魔』は我々が思っているような姿をしていないのかもしれませんよ」
「どんな姿をしてても関係ねえよ、人間が相手だったらぶっ殺すだけだ」
「気にも留めませんか。流石、魔王城の門番と呼ばれるキャッスルベア殿です」
「行くぞ、アイアンゴーレム」
見ると、アーマーカブトの包帯を身体に絡めてもがいていた。
「何やってんだ、お前は。ひょっとして包帯を巻きなおそうとしたのか」
頷くアイアンゴーレム。
「全く仕方ねえなあ」
キャッスルベアは悪態をつきながら包帯を解くのを手伝った。
◇◆◇◆◇
キャッスルベアとアイアンゴーレムは扉の前に来ていた。
「武具倉庫だ。魔術師系の奴らは杖やマント、俺たち戦士系の武具もあるが、邪魔だから装備を好まないヤツは多いな。まあ武器に頼るなんて己の力に自身のない奴がする事だぜ、真の強者たるは自分の身体一つで戦うもんだ。この塔だとリザートソルジャー達くらいか、ごちゃごちゃ武器やら防具やら身に着けてるのは」
感心したように頷くアイアンゴーレムをみて満足げに腕を組むキャッスルベア。一応中も見せてやるよと扉を開ける。
食堂の半分くらいはある空間、ランプの灯に照らされて木箱や棚がいくつも置いてあり、様々な大きさの武器、防具が並んでいる。そんな中で、動く影があった。
「おや、お疲れ様。アイアンゴーレムに塔内を案内してる最中ですか」
武具の整理をしている様子のヘルメイジがそこに居た。
「何だヘルメイジか。しっかりと案内してるところだ」
「そうですか助かります。アイアンゴーレムどうですか塔の事はしっかり理解できましたか」
ぶんぶんと頷くアイアンゴーレム。
「あ、そうだそうだ、明日出撃して頂く事になりました。キャッスルベア、アイアンゴーレム、この場に居ませんがアリゲーターソルジャー3体で行きます」
「何言ってんだ、コイツまだ来たばかりだぞ、俺だってまだ本調子じゃねえ」
「アイアンゴーレムは戦闘能力の高い種族です。足りてない地理的な知識をあなたが補えば問題なく対処できるはずです。それに襲撃をかける人間がなかなかの要人なので護衛が何人か付くみたいなんですよね。ウチでも戦力的に信頼できるモンスターに行って欲しいのです」
戦力的に信頼できる。それは俺も入ってるのかと思い。キャッスルベアの口元が緩む。
「まあ、仕方ねえな。いっちょ新入りに俺の強さを見せてやるかな」
「ええ、あとこれを渡しておきます。伝説の名工が作った大型モンスター用斧です」
ヘルメイジが自身以上の大きさの斧を、倉庫の奥から引っ張り出す。
鏡面に仕上げられキラキラと輝く、それを見て思わずおおうと声を出すキャッスルベア。
重そうに差し出すヘルメイジから受け取ろうとしてハッと気づく。
横を見るとアイアンゴーレムが不思議そうにこちらをみている。
「武器を持つなんて俺の主義に反するんだがな、新入りに武器の使い方も一応教えておく必要があるなしな。貰っといてやるよ」
「二つと無い希少な武器なんで大切にしてください。伝説の名工の作ですからね、伝説の」
嬉しそうに、掲げてその輝きなどを確認するキャッスルベア。
「それともう一つこれも渡しておきます」
そう言って懐から何かを取り出す。
「おま、コレ」
受け取り戸惑うキャッスルベア。
「正式にお渡しします。あなたが必要と思った時に正しく使用して下さい」
そう言ってヘルメイジは武具庫を出て行った。
◇◆◇◆◇
シラカバ塔の屋上。ここからは海が見えて太陽が沈もうとしている。
昼よりも冷たくなった空気がキャッスルベアの体毛をなぐ。
「ここが屋上だ。俺たち戦闘要員は普段はこねえな」
塔の縁まで歩くキャッスルベア、アイアンゴーレムもそれについて行く。
「どうだ遠くまで見えるだろ。あれが人間たちの城だ。海側には港町が見える。いずれ俺たちが侵攻する人間たちの住処だ」
アイアンゴーレムも塔の縁から、海を見る。その身体は夕日を写し、朱く染まっている。
「人間たちの返り血みてえな色だな」
そう言ってハハハとキャッスルベアは笑う。
自らの体を腕を上げたり、足を上げたりしながら嬉しそう見るアイアンゴーレム。
「明日は人間どもをたっぷり殺してやる」
なあと言いキャッスルベアはアイアンゴーレムの肩を叩いた。しかし片足を上げていたアイアンゴーレムはぐらぐらとバランスを崩す。
「おま、何やってん――」
伸ばされたキャッスルベア手は宙を掴み、アイアンゴーレムは手足をばたばたとさせながら地面へと落ちていった。
「おーい。生きてるか」
地上に向けて叫ぶ。立ち昇る土煙が消えると、手足を広げたアイアンゴーレムの姿そのままの形で地面が陥没していた。
親指を立てた手がキャッスルベアの声にこたえるように掲げられる。
屋上に残されたキャッスルベアは、それを見てやれやれと頭をかいた。




