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03-07:そして荷車は

 スカルが目を覚ました時、揺れる空がそこにあった。

 背中の下からガタガタと振動が伝わってくる。荷車の上か。


「たいちょー気が付きました?」


 空をイオの顔が塞ぐ。

 死ぬほどほっとした。


「何だイオか、生きてたのか」

「何だとはずいぶんな言いようっすね」


 べしべしとスカルの腹部に拳を当ててくる。普通に痛い。


 横を見るとボンクラ、シャンゴ、ハイラインも同じ荷車で寝ているのが分かった。

 ボンクラも満身創痍で意識は無いが生きているようだ。

 起きようと腹筋に力が入ると激痛が走った。出血はしていないがリザートソルジャーに咬まれた傷が完治したわけでもない。肘を付きながら上半身を起こす。

 スカル達を乗せた荷車を引っ張るアリエルもイオも大きな怪我は無いようだ。


「!?」


 そして並走するように樽を大量に乗せた荷車を引っ張るアイーダが居た。


「アイーダさん!?」

「あらあら、隊長さん目が覚めたみたいね」


 よく見ると何故か服の右肩が焦げている。


「肩のところどうしたんですか」

「ちょっと料理に失敗しちゃって」


 そういってウフフと笑うアイーダさん。

 後ろを見ると、ガタガタと揺れながらザール氏の馬車が続いている。


「報告。イオ何があったのか報告して下さい」

「はいはーい。まずキャッスルベアですが、多少交戦しましたが、えっと…」


 イオはちらちらとアイーダさんの方を見る。


「キャッスルベアはいきなり帰ったっす」

「え、帰ったのですか?」

「きっとお腹空いたから帰ったんすよ」


 戦闘中にそんな理由で帰るのはイオくらいです。


「アイーダさんとはそのあと合流したっす」


 またアイーダさんの方をちらちらと見る。


「私も丁度、お酒を仕入れて帰ってるところ偶然通りかかったのよ」


「そして、転倒した馬車とたいちょー達を見つけたっす」


 どうも何か隠し事をしているように思えるが、まあ大きな怪我も無いようなので今よしとしましょう。


「リザートソルジャーは」

「逃げられたよ」いつの間にか目を覚ましたボンクラが答えた。

「いやー。ほんと惜しかった。3分の2くらいは倒してたんだけどな」


 3分の2ってなんだろうとスカルは思った。


「ザール氏も無事っす。かすり傷はしていましたが今は馬車の中で――。あ、もう港街に着くっすよ」


 イオの指さす先に、外壁に囲まれた町が見えてきた。


「ようやく着いたようだな。おい足が邪魔だ誰のだコレ、くせえぞ」


 いつの間にかシャンゴも目を覚ましたようだ


「失礼、私のです。足の匂いに関してはシャンゴさんには及びませんよ。それにしても体中が痛いですね」


 ハイラインも目を覚ましたようで、狭い荷車の中で足の置き場を捜している。

 門を通り街中に入る。

 スカルはアリエルに停車を願い。身体を引きずりながら荷車を降りた。

 荷車が停車したのを見て、後続の馬車も停車する。

 御者は馬車を降りると後部に回り、ザール氏が下りるのを手伝う。

 馬車から降りたザールはスカルを一瞥する。


「ようやく着いたか。隊長さん分かってるだろうな今回のこの失態」


 失態。何のことを言っているのか分からなかった。


「失態ですか」


 スカルの分かっていないという表情を見てザールは怒りの表情をあらわにする。

 ザールは自分の衣装をめくって見せる。露わになった膝にかすり傷があった。


「見ろこれを。無事に港町まで護衛するのが貴様の任務だろうが。それを役立たずの冒険者なんぞを連れてくるからワシが怪我をするような事態になったのだぞ」


 分かっているのかと怒りに任せて杖を地面にぶつける。

 ザール氏の怪我はどう考えても、勝手に馬車を暴走させた自身の責任だ。しかしそれを口にしても時間の無駄だ。


「申し訳ありません」


 腹立だしさを押し殺して、謝罪の言葉をひねり出した。

 怒りの収まらない様子で、ザール氏は杖を使って荷車のボンクラ達を指す。


「なんだ、これ見よがしに怪我などして見せて。頑張りましたを主張して結果を誤魔化すつもりか。怪我をしたら失敗が許されるのか。違うだろ。それともワシに取り入る為か、下賤なやからがよく擦り寄ってくるが冒険者なんぞ相手にする気はないからな」


 ザール氏の言葉にボンクラ達は黙っている。


「そんな言い方無いっす」


 こらえきれなくなったのかイオが抗議の声を上げた。

 ザール氏はイオを見て、何かを察したように鼻で笑う。


「お嬢さん、アンタは若いから知らんだろうが冒険者なんて連中は野盗と何ら変わらんのだよ。知っとるか10年前の城内にモンスターが出現した事件を、あの時ワシは城に納品に行ってたからその場で見たんだよ。正規兵達が城内に集まっていく中で、冒険者たちは場外の武具庫の中のものを持ち出し、馬小屋から馬を盗み、あげく食堂から食器まで持ちだして逃げおった。モンスターと戦おうともせずにだ。冒険者なんぞ自分たちの利益がの為なら何だって捨てれる連中だ」


 唾が飛ぶほどに、叫ぶザール氏。

 ザール氏もあの場に居たのか。そして自分と同じように見ていたのだ冒険者たちの蛮行を。


「ワシの荷物も奪われた」


 そう言うザール氏の杖を持つ手は震えていた。

 ザール氏の冒険者に向けられた不信感をスカルは理解できた。

 その時、荷車の3人が互いの身体を支えながら降りてきた。

 シャンゴはあばら骨が折れているのだろう、脇を抑えている。ハイラインはリザートソルジャーに咬まれた為、おびただしい量の赤黒い血痕で服を汚していた。ボンクラは肩から腹部まで服が破れ、巻かれた包帯を血で染めている。皆それ以外にも身体中傷だらけである。

 そしてザール氏の前まで来ると、3人はゆっくりと頭を下げた。


「私も、当時城に居ました。戦わず、火事場泥棒をして逃げる冒険者も見たし、父を亡くしました」

「じゃあ、分かるだろう隊長さん。あんただって冒険者と仕事をするのはうんざりしてるんじゃないのか」

「確かにうんざりです。前日飲み明かして二日酔いで来るし、何かと無駄口は多いし」未だ頭を下げたままの3人を見る「しかし彼ら決して侮辱されるような冒険者ではありません。ザールさんに怪我を負わせてしまったのは私の過失です。これ以上彼らを悪く言わないで頂きたい」


 言い終わるとスカルは頭を下げた。

 スカルは自身のつま先を見ながら待った。何を待っているのか自分でもよく分からなかったが。ただ待った。


「帰るぞ」


 ザール氏は御者に声をかけた。

 顔を上げると、馬車後部から乗り込もうとするザール氏と目が合った。

 一瞬ザール氏は何か表情を変えようとしたが、そのまま馬車へと乗り込んだ。

 去っていく馬車を見送る。


「お腹空いたっす」

「私もお腹空きました」


 イオとアリエルが空腹を訴える。


「あらあら、じゃあウチにいらっしゃい。美味しい物作りますよ」

「じゃあ、これからアイーダの酒場で打ち上げ、勘定は隊長さんもちで」


 勝手に決めるボンクラ。


「何で私もちになるのですか。報酬は払うのですから。割り勘ですよ」

「俺の『竜殺し』も振る舞うぜ。って、あれ無い」

「ああ、『竜殺し』なら全部飲んだぞ」

「何してくれてんだ、このクソモヒカンが」

「何だと美味かったぞこの野郎」

「まあまあ、二人共怪我してるんですから程ほどに」


 よろよろの身体を引きずって、けが人3人は荷車へ戻ろうとする。


「また、私が引っ張るんですか」


 抗議の声を上げるアリエルに、イタタタ、傷口が、などと急に怪我人ぶる3人。


「痛たたた。私も怪我しているので、お邪魔します」


 スカルも荷車に収まる。座って見ると傷だらけの冒険者達3人の顔がよく見えた。

 横からイオの「隊長何で嬉しそうなんすか」との声が聞こえた気がするが、そんなわけはない。

 何せ素性の知れない冒険者と今から乗り合いだ。嬉しいはずがない。

 どうせこれから、また酒を浴びるように飲んで騒ぐのだ。嬉しいはずがない。

 どうしてだろう。嬉しいはずがないのに、彼らといると笑いたくなるのは。

 笑い出すスカルに、傷のせいで頭がイカれちまったぞ、やっぱり嬉しそうっすなどと周りが騒ぎ立てる。

 そんな冒険者達を乗せた荷車は、カタカタを石畳を進み街中の喧騒へと消えていった。


 -第3話:隊長と荷車 完-

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