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03-06:ワニも竜も

 スカルは気が付くと同時に、ふらつく身体を無理矢理立たせ、そこから飛び出した。

 横転した馬車をでると、倒れたままもがく馬が一頭、もう一頭は既に逃げたのか近くにはいない。馬の近くにはザール氏が倒れていた。


 そして、馬車が横転するきっかけとなった場所に3体のモンスター。

 モンスターから極力視線を離さないように、ザールの方を見る。僅かに動いてるようで取り合えず生きてはいるようだ。


「聞いて驚け、見て嘆け」

「俺たちはここいらで恐れられる極悪モンスター」

「アリゲーターソルジャーの『三匹で斬る』たぁ、俺たちの事だぁ」


 声高々に名乗りを上げる3体。

 3体で行動するアリゲーターソルジャーについては部下から報告受けていた。

 アリゲーターソルジャーが1体なら、瘴気の薄い街道で勝つことは難しくない。しかし3体を相手するとなると勝つのは難しい。

 せめて相手と同数の味方がいれば。イオ達の援軍は期待できそうにないというか、モンスターの強さを考えれば、こちらが援軍として駆けつけるべきである。


「ベアの旦那は結局来なかったな」

「護衛の人間も居ないしな」

「俺たちに恐れをなして逃げたんじゃあねえのか」


 何やら話しているが、逃げる隙は無さそうだ。

 その時、アリゲーターソルジャー達の後方に何かが迫ってくるのを見た。

 鳥?

 いや人間を乗せた荷車が、あり得ない速度で地を這うように飛んで来る。


 後方を凝視するスカルにつられ「なんだぁ?」と振り返るアリゲーターソルジャー達。

 そのまま荷車はアリゲーターソルジャーの真ん中に衝突した。

 衝撃で荷車は粉々地粉砕され、荷車に乗っていた3人はスカルのそばに滑り着く。

 ぶつかったアリゲーターソルジャーも吹っ飛び突っ伏す。


「兄者!」

「なんだ今のは」


 兄者と呼ばれる地面にめり込んだアリゲーターソルジャーに手を貸す2体。

 今の衝撃で死んでいるのを期待したが、どうやら生きているようだ。

 スカルのそばでは、荷車に乗っていた3人が起き上がる。


「いってえ。今のは久々に死ぬかと――」

「落雷より、効きまし――」

「う、う――」


 3人ともしゃべる途中で激しく嘔吐する。

 嘔吐し終えるとゆっくりアリゲーターソルジャーに向き剣と盾を構えるシャンゴ。


「うぃ。これでスッキリしたぜ」


 同じく長剣と短剣の2本を構えるハイライン


「アリゲーターソルジャーですか。二日酔い明けには程よい相手ですね」


 ボンクラも立ち上がり。

「オロロロロロ」と盛大に嘔吐する。


「まだ吐き足りないかモヒカン」とシャンゴが笑う。

「ちょうど3対3です。ボンクラさんは休んでてください」


 ハイラインがボンクラを気遣う。


 シャンゴとハイラインの力量は正確には分からない。ある程度は戦えるだろうと予想はしているが、戦力としてどれだけあてにしてよいのか。

 思案しているスカルを見て「1体なら余裕だぜ」とシャンゴが言い「同じく」とハイラインが続く。


「わざわざ加勢来たようですが。キャッスルベアはどうなったんですか」


 シャンゴは少し笑いながら「加勢に来ちまったね」といい。ハイラインも「まあ、成り行き加勢ですけどね」と調子を合わせる。

 本人達の意思で来たわけではなさそうだ。


「あっちは大丈夫。強力な助っ人が来てるはずだ」


 ぜえぜえと呼吸をしながら、ボンクラが根拠不明の自信をみせる。

 キャッスルベアとアイアンゴーレム相手に、どのような助っ人が来ればそれだけ自信が持てるのだろうか。兵士100人がたまたま通りかかるとでもいうのだろうか。


「わかりました。とりあえず今は目の前の3体に集中しましょう」


 行きますよと声をかけ、スカルはアリゲーターソルジャーの1体に向かって走り出した。

 同時にシャンゴとハイラインも相手を定めて走り出す。


 スカルは剣を持つアリゲーターソルジャーに自身の剣を全力でたたきつける。アリゲーターソルジャーはそれを軽く受けると払いのけ身を回しながら尻尾をぶつけてきた。それを身を引いて躱し、反撃の一撃を繰り出すも、剣で反らされ躱される。

 スカルより頭一つ大きなアリゲーターソルジャーだが、身軽な立ち回りをみせた。


 シャンゴとハイライン言うだけあって、それぞれ武器を撃ち合いつつも相手を追いつめていた。

 シャンゴはアリゲーターソルジャーの斧を盾で受け流し、体勢の崩れた瞬間を狙って肩に剣を振り下ろす。防ごうとしたアリゲーターソルジャーの腕がぼとりと落ちた。


 ハイラインはアリゲーターソルジャーの槍を身体を捌きながらかわし、距離を詰める。アリゲーターソルジャーもそのたびに下がって再度穂先の間合いと保とうとするが、ハイラインの距離を詰める速度はそれを上回っていた。

 ハイラインの振り下ろした右の剣を槍の柄で受けるも、左の短剣はその槍を持つ手を切り落とした。


 形勢不利を悟るとアリゲーターソルジャーは下がって距離を取る。

 シャンゴとハイラインも一旦息をつく。


「やっぱ二日酔いだと本調子じゃねえな」

「じゃあ何割くらいですか?」

「まあ、5割ってとこかな」

「私も本調子じゃないですね。4割ってとこでしょうか」

「やっぱ俺3割だわ、二日酔いなかったら3倍くらい強いからな」

「兄者、こいつら結構強いぜ。どうする」

「無理に戦う必要もないが、負けて逃げるのは気に食わないよな」


 そう言うと、真ん中のアリゲーターソルジャーは、鳥が羽ばたくように両腕を水平に広げた。

 その両腕を他のアリゲーターソルジャー2体が大きく口を開け、食らいつく。そしてねじ切るように根元から咬みちぎった。

 傷口から瘴気が吹き出す。


「おいおい何してんだ」


 困惑を口にしたのはシャンゴだった。

 噛み千切った腕を吐き出すと、今度は互いの身体に残った怪我したほうの腕に咬みつき、ねじ切る。

 両腕の無い個体を真ん中に、右腕を残した個体が右に並び、左腕を残した個体が左に並ぶ。


「アリゲーターソルジャーの再生力はこんな事も出来るんだぜ」


 肩を寄せるように傷口を合わせると、上半身を力ませる。傷口から流れ出す瘴気はひも状になり、傷口を塞ぐように絡み合う。

 3体のアリゲーターソルジャーが1体になる。


「ふはははは。どうだ驚いたか。これぞ我らが秘儀、三つ首のドラゴン形態だ」


 得意げに笑うアリゲーターソルジャー。


「肩組んでラインダンスするトカゲにしか見えませんね」


 ハイラインが冷静に突っ込む。


「トカゲじゃねえ、ワニだ」


 反論するアリゲーターソルジャー。


「ドラゴンじゃねえのかよ」


 シャンゴがあきれる。

 正直3体が1体になったくらいで、特に強くなったとは思えない。手の数が減った分弱くなったのではないかとスカルは思った。


「ふん今だけだ余裕でいるのも。コレで仕上がる」


 アリゲーターソルジャーは自身の鎧から、黒い木の実のようなモノを取り出す。


「止めろ、食べさせるな!」


 ボンクラが叫び、同時にシャンゴとハイラインが飛び出す。スカルも二人に続き駆け出した。

 アリゲーターソルジャーは黒い実を一瞬で飲み込む。

 シャンゴは剣を振りかぶり斬りかかる。

 その時アリゲーターソルジャーの体から瘴気が吹き出した。三つの首がそれぞれ咆哮する。

 体勢を崩すシャンゴ。ハイライン、スカルもその場で動けなくなる。

 アリゲーターソルジャーの左右の足1本ずつが枯れるように縮み4本になる。肩口の接合が身体全体に及び、胴体はぶくぶくと膨れ一つになる。

 瘴気が収まった時、四つ足、三つ首のモンスターがいた。まるで最初からそういう姿であったかのように。


「煮える、煮えるぞ。体内の瘴気が煮えたぎる。これが強者の身体か……いいぞ。全てをこの身体なら全てを破壊できる」


 アリゲーターソルジャーは己の力に恍惚する。

 モンスターが変形した。いったい何が起きたのか。

 自身の変化に驚いているアリゲーターソルジャーの側面からハイラインが切りかかる。

 しかし刃はアリゲーターソルジャーの手で軽く受け止められる。そしてハイラインの胴体に左首が咬みついた。

 うめき声をあげるハイライン。

 スカルが正面から、シャンゴが側面から切りかかる。

 アリゲーターソルジャーは身体をひねり、尻尾をシャンゴにぶつける。シャンゴは吹き飛び木に当たり落ちる。

 スカルにはアリゲーターソルジャーはの中央の首が伸びてきた。早い。そう思った時にはすでに身体をがっつりと咬まれていた。

 腹部に鋭利な刃物を何本も押し付けられるような感触。容赦ないその圧迫感は鎖帷子を貫いて来る。このままでは腹の肉に届く。恐怖から叫ぶスカルしかし皮膚を破りアリゲーターソルジャーの牙は腹に潜ってきた。

 アリゲーターソルジャーの歯の感覚を体内で感じた時、果物の種を飛ばすように、ハイラインとスカルをぺっと吐き出し、そのまま地面を転がりボンクラの近くまで飛ばされた。

 ボンクラは身体を起こしてすぐに意識の無いハイラインの傷を確認する。


「ハイラインは生きてる。しかし出血は多い。隊長も出血が多い、もう動かないほうがいい」

「さ……さっきの……黒い実…あれは」


 先ほど、誰よりも先にその危険を察知したボンクラは、その正体を知っているとスカルは思った。


「詳しくは分からない。ただあれを食べるとバカみたいに強くなる。いいからもう喋るな」


 そう言いながら、ボンクラは懐からクルミを取り出した。

 昨日アイーダさんから渡されていたモノだ。

 ボンクラはクルミを貝のように開き、中に入っていた白い軟膏を指で拭う。


「取り合えずコレ塗っておけば死にはしないから」


 そう言って、スカルとハイラインに軟膏を塗る。


「貴重なモノなんだろう。いいのか」

「いいの、いいの。どうせ持ってても、こんな小さな物俺なくしちゃうし」


 そう言って笑うボンクラ。


「オイオイまさか今ので死んじまったのか。オカシイな死なないように、かるーく咬んだんだ、かるーくな。せっかく強くなったんだもっと楽しませてくれよ」


 3つの首が順番に喋る。


「うっせー。今俺が相手してやる待ってろ」


 アリゲーターソルジャーを睨みつけるボンクラ。

 相手をする。ボンクラはあのバケモノと戦う気なのか。二日酔いでまだ顔色も悪い。


「勝算はあるのか。君はまだ二日酔いだろう」


 ボンクラは意味ありげに、ニヤリと笑うと、立ち上がりシャンゴの元へ歩いていく。

 シャンゴの懐から何かを取り出す。


「シャンゴは気絶してるだけだ。骨は折れてるかもしなれないが大きな出血は無かった。そしてコレを貰ってきました」


 そう言ってシャンゴの懐から取り出した物を見せる。蒸留酒竜殺し。


「迎え酒ってやつだ。似非ドラゴン退治には丁度いい酒だ」


 ごくごくと竜殺しを煽るボンクラ。


「そんなに…ごくごくと飲むもんじゃないでしょ」


 スカルの言葉を意に介さず一本飲み干すと、ぷはぁと息を吐く。

 この男は本当に戦う気なのか。


「逃げても、だれも文句を言わない状況ですよ」


 スカルの想像する冒険者はこんな時逃げる者達なのだ、現にキャッスルベアと遭遇した時にほとんどの冒険者は逃げた。この状況に至ってみれば、ある意味彼らは賢明だったのかもしれない。


「逃げねえよ」


 そう言って酒瓶を放るボンクラ。

 モンスターと戦う事を日常としていれば、自分の実力で対処できない状況というのは頻繁に訪れる。そんなときに逃げるのは当然だ。冒険者は兵士と違って命をかける程の責任など無いのだから。


「誰も見てなかったら…君たちだって逃げるんでしょう」


 それは自身の不安をぶつける質問だった。逃げるって言えよ。冒険者ってのはそんなもんだろ。そして逃げてくれ。


「そりゃあ、誰も見てなかったら逃げるさ。でも絶対見てるんだよ、自分が一番かっこ悪い姿見せたくない人間がさ」


 誰が見てるというのだ。そう思うスカルの表情を見てボンクラは口角を上げる


「俺が逃げる姿は絶対俺が見てるんだ。それに仲間を守らないとな」

「仲間……」

「一緒に酒飲んだ仲間だろ」


 そういってボンクラはにんまりと笑う。


「おらあ、トカゲ野郎待たせたな。俺が相手してやるってんだ、二日酔い明けで2割程度の力しか出せそうにないが、てめえ程度なら丁度いいわ」


 若干ろれつが回ってない。

 出血は止まったようだが、それまでに血を流しすぎたか。意識がもうろうとしてくる。

 スカルが霞む景色の中で最後に見たのは、ボンクラが剣を構えアリゲーターソルジャーに駆け出す姿だった。

 

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