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03-04:城は15のダメージを受けた

 10数年前、スカル・スタンスロー15歳の頃。当時、大隊長を務める父親と共に見習い兵士として城に通っていた。

 屋外にある訓練場での訓練を終えて、昼食を取ろうと食堂へ向かっている途中。スカルは声を掛けられた。


「スカル。訓練が終わったところか」


 声を掛けて来たのはスカルの父親、グラント・スタンスローだった。城下街方面の城門からやってきたようで、その隣に神経質そうな青年を連れていた。

 城下の警備を管理している父は、今日の午前中は市議会との会議をしていたはずだとスカルは記憶を漁った。


「父上。はい今から昼食に行くところです」


 自分と同じ見習いの兵士達がこちらをちらちらと見ながら通り過ぎていく。城内で父親に話しかけられるのは、なんだか恥ずかしかったが、大隊長を務める父親を誇らしく思っていたので嬉しくもあった。


「そうか、紹介しておこう。ウチの隊から今度隊長に昇格するハーゲー・クリスタンだ。ハゲじゃないぞハーゲーだからな」


 がははと笑う父親の横でハーゲーは表情を崩しもせずに「ハーゲーだ」とだけ名乗った。


 父と一緒に笑うわけにもいかず。スカルは強張った顔で「見習い兵士のスカルです。父がお世話になってます」と答えた。


「いやあ、実際お父さん世話になってるしなあ。いずれハーゲーがスカルの上官になる事があったら親子で世話になるかもな」


 そう言いまたガハハと笑う。

 息子である自分から見ても大雑把な父は、この神経質そうなハーゲーさんと上手く仕事をしているのだろうかと、スカルは心配になった。

 その時、下品な笑い声と共に数名の冒険者達が通った。スカル達正規兵は、階級で多少の違いはあるが、皆同じ制服を着ている。しかし彼らは自由な身なりに城勤めを明示するタスキを掛けているのみである。その為城内で彼らを見分けるのは容易であった。


「増えましたね、冒険者の人達」

「モンスターの活動がいっそう活発になってきているからな、人手は北の砦と要人護衛に取られて警備まで回ってこないんだよな、武芸の心得のある彼らが手を借してくれるならありがたいと私は思っているよ」


 父上は人が良すぎる。

 正直スカルは彼らに嫌悪を抱いていた。正規兵と比べると粗雑な言動に恐怖に近い不安を感じていた。

 グラントはそんなスカルを気持ちを汲んで言う。


「彼らもこの城で働く仲間だからな、そんな目で見るな。話してみると結構いい奴らなんだぞ」


 どんな目で見ていたいのだろうか。スカルは「はい」と納得したふりをして視線を父親に戻した。


「グラント隊長。会議に間に合いません」

「おお、そうだな最近特に魔物が不穏な動きを見せているからな。お前も気を付けるんだぞ」


 スカルは頷き、ハーゲーに連れていかれる父を見送った。

 事が起こったのは夕暮れ時だった。

 スカルは同年代の見習い兵士達と城内の清掃を行っていた。

 終われば帰宅である、自然と気持ちも浮ついてくる。特にやんちゃな者が多かったスカル達の班はふざけながら掃除をしていたので、その日も作業は大きく遅れていた。


「ようやく一通り終わったな。じゃあ道具の片づけジャンケンしようぜ」


 清掃道具は武具倉庫内にまとめて置いている、同じ城内といえど少し遠かった。片づけをひとりが請け負うのはいつもの事であった。

 各々掛け声と共に手を出す。結果はスカルの負け。


「また負けたー、3日連続だぞ」


 自身の出した手を睨みつけるスカルに、後は任せたぜ同志よ、これも運命だ兄弟よ、俺のホウキを頼んだぞ、などと舞台じみたセリフを言いながらホウキを押し付けて皆帰って行った。

 ホウキをかかえ、今いる事務棟から出る。城壁内は王族の住む王宮、王座の間や神殿をそなえた主館、食事をとる食堂、武具庫などいくつもの建物がひしめきあっている。その為、建物間の移動は一旦外に出る必要があった。

 かすかに残った夕日に照らされた城内を歩く、兵士達が夜に備え明かりを灯して回っている。夕日に照らされた主館が赤く染まっている。父はまだ仕事をしているのだろうかと考えていた。


 突如、スカルが見ていた主館の一部が爆発した。轟音が響き地面が揺れる。

 崩れた壁の一部が剥がれるようにゆっくりと落ちていく。

 もくもくと上がる煙を見ていると、周囲の兵士達が騒ぎ出し、その内一人が城内にモンスターが出たと叫んだ。

 モンスター。一度野外訓練で、隊長に連れられマッスルウサギを見たことがある。その時は隊長と数名の隊員兵士が対処した。

 しかし城内はもちろん、街の中どころかその周囲でモンスターを見かけることは無い。

 兵舎から出てきた兵士達が主館へ向かうのが見える。見習い兵士である自分も行くべきではないのか、鼓動が高鳴る。


「おっと、あぶねえな」


 スカルの持っていたホウキに誰か引っかかった。3人の若い冒険者がいた。タスキは身に着けていない城外の者たちだ。


「子供……見習い兵士か。危ないから街に早く逃げろ」


 ホウキに引っかかったのは長身で赤髪の戦士だった。


「ホウキ片づけなくちゃ」

「じゃあそれ片づけたらすぐ逃げろよ。主館には近づくな」

「おい、行くぞ」


 戦士は黒髪の冒険者にああすまねえと答え、3人は主館に走って行った。

 冒険者を見送ると、スカルは武具庫まで急いだ。

 扉を開け暗い武具庫に入る。部分ごとに分けられた鎧や、槍、剣などがまとめて置いてある。

 余計なモノにぶつけないよう、ホウキの束を用具入れに収める。

 これでよしと一息ついたとき、足音が武具庫に入って来たのが聞こえた。

 モンスターかと驚いたスカルは用具入に急いで入った。


「なんだ、大したお宝は無さそうだな」

「かさ張るしな、高く売れそうな物だけ持ち出すぞ」

「モンスターが城内に出るなんて、ホントついてるよな」

「無駄口叩くな。ちゃっちゃと盗れるもん盗ってズラかるぞ」


 用具入れの隙間から見ると、入って来たの3人の冒険者だった。タスキをしている。警備兵として雇った者達だ。

 彼らは、雑にそこいらの武具をあさりだす。

 火事場泥棒だ。緊張で背中に汗をかく。3人とも腰に剣を下げている。大柄な大人だ。見つかれば殺されるかもしれない。

 物音一つ立てないように、身体をこわばらせ3人が出ていくのを待つ。

 一人が用具入れに近づいて来る。

 左右を見ながら、時折がさがさと置いてある武具ひっかきまわす。


「やっぱ大したもんはねえな」


 そう言った顔を上げた男がこっちを見た。

 スカルは男と目が合った気がした。こちらの方が暗い、見えているわけないと自分にいいきかせる。

 男は用具入れの扉に手をかけた。

 スカルは太鼓のように鳴る心臓をとめるように胸を抑えた。

 その時、入り口を見張っていた男が声をかけた。


「おい、誰か来た。行くぞ」


 用具入れの正面まで来ていた男は、舌打ちをすると選別した武具を抱え入り口に向かった。

 冒険者達が武具庫を去ってからもスカルは用具入れから動けなかった。まだ心臓は落ち着いてない。

 時折、主館の方から轟音が響く。そのたびに自分も何かしなくてはいけないのではないかと、自責の念に襲われた。


 用具入れから出て、武具庫の扉を少しだけ開けて外の様子を伺う。

 外は日が落ちていた。かがり火と月明かりの元、壺を持って走る者、備え付けのランプをいくつも抱えた者、何人ものタスキを付けた冒険者達が城の備品を抱えて逃げていた。

 中には正規兵と取っ組み合いをしている者もいる。

 一体彼らは何のために雇われたのか。


 武具庫に隠れて、じっと待った。

 いっときして外に出てみると、騒々しさは多少収まり逃げる冒険者達も見かけなくなった。

 兵士達はいたるところでどこかへ向かい走っている。見習い兵士のスカルには誰も気を留めない。


 主館の正面までくる。最初の爆発の時より、崩れた場所は増えているように思えた。

 主館へは多くの兵士が出入りしている、その中で見覚えがある顔があった、たしか父の部下のハーゲーさん。

 ハーゲーはスカルに気付くと。正面まで歩み寄ってきた。

 冒険者達が略奪しているのを見過ごしたことを咎められるような気がした。ハーゲーはそのことを知る由もないのだが。


 その睨みつけるような目つきは拒否を許さない威圧感があった。


「スカル・スタンスロー。ついて来い」


 そう言って主館の中へ歩き出したハーゲーの後を、不吉な何かを感じながらもついて行った。

 そこは大広間だった。祭事には兵士が何百人も並ぶ場所が、今は臨時の野戦病院になっていた。

 燭台の明かりの中で、床に直接寝かされた兵士たち、泣きながら出血を訴える者、血で染まった包帯を巻いている者、手足が欠損している者、動かない者がぼんやりと照らされていた。


 僧侶と思しき者が数人、回復魔法をかけて回っているようだが、負傷者の数に処置が追いついてないのは明らかだった。

 そんな地獄のような場所の中心へハーゲーは進んでいく。スカルは負傷者を出来るだけ見ないように後を追う。


 前を行くハーゲーが立ち止る。その足元には一人の男性が横たわっていた。

 包帯はしていない。鎧は外されている。そして半身は焼けただれ、動いていなかった。

 跪きその顔を見る。昼には陽気にガハハハハと笑っていたスカルの父親だった。


「父上」


 左側の頬からしたは酷く焼けただれた。きれいに残っている顔の右側が今にもにんまり笑って、自分を驚かすのではないかと思った。


 しかしいくら見ていても父親は動かなかった。

 揺らめく明かりのせいでかすかに動いているように見える。しかしそれはそう見えるだけだった。


 逃げる冒険者達が戦っていれば、この悲しみを回避できたのではないか。

 父があの冒険者たちのように逃げていれば、死ななかったのではないか。

 何か良い方法があったのではないか。

 自分が何か出来たのではないか。

 ガハハハといつもの笑い声を、今も聞くことが出来たのではないか。

 そんな思いが腹からこみ上げてくる。


「何故逃げてしまわなかったのですか。僕は生きててほしかった。父上が立派な大隊長じゃなくても良かったんだ」


 どれだけ問うても父から答えは返ってこない。


「グラント隊長が逃げなかったのは、その立場ゆえではない」


 ハーゲーが答えた。表情に変化は無いが、その視線はグラントに向けられていた。

 じゃあ何で。小声でつぶやいたスカルの問いに返答は無かった。

 

 

 後にこのモンスター襲撃事件は、兵士達の迅速な対応によりモンスターを撃退と発表された。しかし冒険者たちの間では、モンスターの大半を撃退したのは勇者を名乗る一行だったと噂が立つ。

 そして、チュウカーン城では2度と警備任務を冒険者に任せることは無くなった。

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